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蒼の髪と銀の雨

PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。                                                                                                       ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」

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聖女戦線アリストライアングル


 さらり、と風が抜ける。
 ぴしゃり、と血が吹き上がる。
 涼やかに吹き流れ。
 鮮やかに乱れ咲き。
 手には剣、血の臭いは染み付かず。
 口には術、命の灯火吹き払い。
 
 それがあるべき姿だ。
 それがあるべき姿か。

 蒼き子は何を見る。
 蒼き子は何処へ行く。



 行く先は地獄しか無いと、わかりきっているのに。








 アリストライアングル。
 どこかばかげた響きの言葉は、今週末の決戦を表す言葉。
「…聖女、アリス」
 吸血鬼に寝返り、銀誓館を翻弄し、ついに尻尾を捕まえた、その”聖女”の名を口にする。
「今度は、逃がしません…!」
 続く呟きは強く、決意の意思を込めて。
 必ず、そう必ず。
「……捕らえます」
 その言葉には違和感。妙なざわめきとかすかな高揚、そして暗い感情を胸中に感じる。
 このところ、そういったことが良くある。…「森」での一件から、だ。
「――ふぅ…もう、随分前のことなのですが…」
 あれから、自分の姿をした敵も、それを擁するであろう勢力も不気味なほど沈黙を保っている。
 だが、不気味なのはそれだけではなかった。

 簡単に言うと、殺意や敵意といったものが胸中に居座ったかのように、時としてひどく心が冷え込むようになったのだ。
 戦闘の中でそういった状態になることはあれど、今のように敵を意識しただけでそうなるのは、「森」での戦闘以前には無かったことだ。
「私は…一体…」
 自分が元々、どう育てられる存在だったかは理解している。
 だが、それにしても不可解である。なぜ、今頃になってこのような感情が渦巻いているのか。
「……」
 無言で剣を振るう。決戦に向けて。
 舞うように、しかし容赦は無く。

 勝利を目指す、舞踊の如く。

 しかしその内に、ひとかけらの闇を抱えて――



 決戦は、もうすぐ。
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帰路。届かぬ剣。

 薄闇の中でひとり、家路を辿る最中。
「……っ」
 左手を握り、つい数時間前に握っていた剣の感触を思い出す。
 同時に、言葉に尽くし難い後悔、無力感、苛立ち、怒りが湧き上がって来る。
 誰に向けた訳でもない、漠然とした暗い感情。
「…私は、何を」
 何を成しただろうか。何を救っただろうか。
 何を思っていただろうか。何をこの手に掴んでいただろうか。
 結論はすぐに出る。
「……」
 何も成してはいない。何も救ってはいない。
 ただただ理想口ずさみ、何も掴まずに終わっている。
 そうではない。

 見事に彼の吸血鬼の悲願を成させ、自らの命を救う事すら手を借りて。
 不完全な理詰めで解決しようと思い、掴んだのは無力の証。

「私は…何を」
 何をしていたのだろうか。敵を討ち滅ぼす為の力では無かったか。悪意を押し止める為の命ではなかったか。
 無論、命捨てたところで状況は全く好転せず、むしろ困惑をばら撒くに終わっていた事は想像するに難くない。
 だがそれを考慮しても、覚悟が、思慮が、足りなかったのではないか。
 力も、技量も、何もかも。

 唯の一つも甘えが許されない状況において、果たして最善を尽くしたと言える行動を取っただろうか。

「…何も」
 何も、取ってはいない。結果が全てを物語る。
 幾多の命が弄ばれ奪われた館で、今日、確かに”素質ある一般人”の命も奪われ、見返りとして吸血鬼には強大な力が約束されたのだ。
 巫名家の、唯の一術者であれば命を以て償うべきところを、自身は”能力者”という免罪符で逃れてもいる。

 無力故に命を救えず、能力に依らぬ部分で自身の命は守られた。
 撤退すら仲間の援護が無ければ到底不可能で、自分の手で成した事など一つもない。

 さりとて、ただ俯いていても何も変化は起こらない。
「……まだ、終わってない…」
 まだ、命はある。
「…まだ…」
 まだ、力は伸ばせる。
「…」
 もっと、強く。巫名の名を背負うに相応しい強さを。

 元は命を奪う者として育てられる筈だった運命を。
「…受け入れましょう」
 捻じ曲げられた運命の縒りを正し、それに尽力した人々の想いを犠牲にして。
「それでも、強く」
 しかし、その力は奪命の為ではなく、あくまで自身の力に。
「もっと……強く」
 呟くその表情はひやりとした気迫すら纏い、綺麗と言われる瞳は一種の冷気を宿していた。


―寝泊りしている屋敷が近づき、ふぅっ、とそれらの気配が消失する。
”普段通り”、帰宅の挨拶と簡単な世間話を交わし、自室へ向かう。
「…ふぅ」
 一息。過熱しかけていた思考の熱を払い、ギターを手にする。
「落ち着いて、確実に…強く」
 思いだけでは何も解決できない。一時の感情に流されても、何ももたらさない。

 しかし、それを転機にすることはできる。

 命を落とした生徒もいるという。
 彼らへの鎮魂でもなく、贖罪でもなく。
 あてどもない旋律が、森の木々に染み渡って行く。


邂逅。蒼き巫女と不可視の刃。

――目覚めから僅か数分。巫名・芹は、森の中を走っていた。
 不自然な眠りだった故か、倦怠感も殆ど無く運動に差支えが無かった事は幸いと言える。そのお陰で、ナズナや大川と共に戦うことが出来るのだから。

「……」
 遠くに剣戟や魔術の発する音を聞きながら、木々の間を縫うように、最小限の動きで走破していく。
 目的は唯一つ、敵司令官の撃破。司令塔さえ撃破してしまえば、現在敵対している勢力に大きな打撃を与えることが出来る。
 いかな”改革派”といえど、中枢を叩かれて尚立ち向かうほど無謀ではない、という大川の考えから生まれた作戦である。
「…それでも、そううまく行くものでしょうか」
 呟く。本当に改革を望むような連中なら、中枢を叩かれたとて決死の突撃を敢行するのではないかと、声には出さないものの疑問に思っていた。
「…やってみなければわかりませんね」
 そして、やらなければ先程とは違う眠りが待っているのだ…そう結論付けて、思考を切り替える。
 走りながら、しかし確実な意識の切り替え。
運動によって上がった体温が僅かに下がり、思考そのものが水で流したように涼やかで、それでいて柔軟さを失わぬ、戦場の思考へと切り替わる。
――と、そこへ微かな違和感。
「…っ!」
 思考する間もなく、反射的に跳躍、右前方の樹木を足蹴にしてその軌道を修正、着地と同時に刀―蒼冷旋律―を構え、自身が元いた位置を確認する。
 そこは、木々の間からちょうど抜け出る、まるで二本の木に導かれる門の出口のような地形。
が、向かって右側の樹木には、明らかに人工的な傷…例えば、大振りの剣で切りつけられたような跡が出来ていた。
「…一体、これは…?」
 明らかにおかしい、と芹は思考を巡らせる。
まず、その傷は数cm程は抉られている。にも関わらず、その音も気配も無かったのである。
「…違いますね」
 そこで違和感に気づく。と同時に、視線の先のある一点を、芹はどこか虚ろに見つめる。
 その仕草に、”そこ”から、どこか気の抜けた男の声が聞こえてきた。
「…なるほどなぁ、大した嬢ちゃんだ。俺が分かるのかい」
 感心したように言うその姿は、ジーンズにTシャツ、革ジャンパー。その上に、黒地に銀の刺繍が施されたロングコートを羽織り、右手には芹の身長を上回る程の大剣を提げていた。
――だが。
「…見えているようですが…分かりませんね」
 奇妙な感覚だった。
いうなれば”目に映っているが認識できない”事を認識しているような、極めて特殊な感覚。
恐らくは、先程の一撃もこの男(声で推測するに)がやったのだろう。芹は、”音がしていた”事を今更実感していた。
「見えるだけでも大したモンだぜぇ?…普通は、何も知らないままおねんねしちまう所だ」
 口調や声は、所謂優男、というものだろうか。
だが、その口調には確かな覇気を秘めていることを感じ、芹は警戒する。
 この状況で相手が素早く動けば、文字通り”目にも留まらぬ”状況となってしまう。
小さく術式を紡ぎ、その力が満ちるのを感じながら、芹は目前の敵をどうするべきか、考え始めていた。


 正直な所、驚愕、だった。
”不可視の刃”とも言われる魔具と自身の技量とを合わせた一撃は、誰にもかわされる事は無いだろうとすら思っていたからである。
(こいつぁ…子猫だからってナメてるとひっかかれるな…)
 コートに編まれた魔術は、普段は白き紋章に。起動すれば銀色の文様となって、身に纏うものを知覚からずらす能力を持ち、その防御力も強化するという強力なものである。
(まあ、焦ることもないか…思っていたよりやるらしいが、感覚のズレにそう早く対応できる訳でもないだろ…できたらそれこそ化けもんだ)
 そして1.6m程の長さを持つ幅広の大剣は、その持ち手に最適の重量となり、また振るわれる際に発する風鳴りや殺気を低減する魔力を持つ。
 共に、暗殺・奇襲に特化しつつも通常の戦闘にも適応する優れた魔術武具であった。
無論、それを持つ本人――欧真・透(おうま・とおる)も、それらが無くとも充分に強力な剣士である。
 武装を油断なく構えつつ、目前の少女の風貌を見て思う。
(何よりこの嬢ちゃん…蒼き巫女、か。こいつを拿捕しない事にはこの戦いに意味がねぇ)
 それは、偽りの真実。
だが、彼…そして共に戦う者達には、紛れも無い”真実”であった。
「悪いが…手加減無しだぜ!」
 そう宣言し、持ち前の瞬発力でもって蒼き巫女を撹乱するため、再び木々の間へと飛び込んだ。


 姿は見え、音も聞こえ、おぼろげながら気配も感じる。だが、その中でも多くのウェイトを占める”姿の確認”を困難にする装備。
 聞いたこともないタイプのものではあるが、現に感覚がずらされているのだから仕方が無い――芹は、恐らく相手が飛び込んだであろう、草擦りの音がする方向を警戒しつつそう思った。
 音は聞こえる。意識していればそれを当てにして戦うことも不可能ではないだろうが、決定打を与えるにはいささか頼りなく、また隙をつかれる可能性も高いと言える。…やはり、なんらかの方法ではっきりと捉える必要があるのだ。
「難しいですね……!」
 見えた。だが、それが何なのかが把握できず、感覚のずれを修正する前に大剣を叩きつけられる。
いわば感覚外の攻撃に回避などままならず、咄嗟に己の得物を合わせどうにか直撃を免れる。
「…嬢ちゃん、やるなぁ」
 森に金属音が響いた直後に、欧真が感心するように呟いた。
”見えて”から感覚が修正されるまでの時間は空白とも言うべき隙を生み出す。直感だけではどうにもならぬ一撃を再度防いだ上、刃を叩きつけても吹き飛ぶどころか膝を折る気配すら見えない。…恐らくは、相当強力な身体強化魔術を施してあるか、あるいは…
「まるで鬼か悪魔みたいだぜ…」
 剣を交わしたままの呟きは芹にも聞こえてくる。
確かに、能力者とは普通の人――この場合は魔術師等も含めた”人”であるが――からすれば常軌を逸した存在だと言える。
が、それに奢る事も呪う事もせず、芹は目前の相手への対応策を考える。
 この距離であればさすがに感ずる事が出来るし、刃を合わせれば一時的にでもはっきりと存在を感じる事ができるらしい。
「…ち」
 欧真が舌打ちをし、離れる。
それを追うかのように、芹は右手を翳して炎の魔弾を放つが、離れた瞬間から存在の知覚が困難になる相手への軌跡をイメージできず、不完全な想軌術式はただ暗闇にその軌跡を残すだけであった。

「…なるほど」
 闇に消える魔弾を見送り、芹は呟く。
想軌術…強力なイメージを増幅し力とする魔術の使い手には、相当に相性の悪い相手である。
 魔弾の飛翔やその力そのものは魔力の制御でどうとでもなる。だが問題は、その軌跡をどう描くかである。
 対象を認識出来なければ、当然そこへ至る道など描けるはずも無い。つまり、認識をずらすということは自らへ至る道を隠蔽することに繋がる。
(となれば、近接戦でしょうか…)
 周囲を注意深く観察しながら、その対策を考える。
 近接戦であれば感覚を誤魔化される事はないらしい。だが、相手は一撃離脱を得意としているようで、そう簡単に足を止めてくれそうにはない。
 であれば、何らかの方法で姿を捉え、距離を離す暇も与えずに打ち倒す必要がある。
(少々難しいですね…)「…!」
 右後方に音。
 咄嗟に振り返り防御の構えを取るも、もはや対応する事自体が博打に近く、ぎん、と僅かに刃先をかすめる感覚は、それが囮である事を芹に伝える。
「貰ったァ!」
 思わず口をついて出た言葉と共に、欧真は右袈裟に振り下ろした剣を切り返し、踏み込むと同時にその脇腹へ切り込む。
 刃を合わせた瞬間の認識が仇になったのか、芹は感覚を揺さぶられ、直後、右腹に熱と痛みの衝撃が叩きつけられる。
「…っ…!」
 喉から呼気が漏れると共に、ざぁ、と振りぬかれ弾き飛ばされる感覚。その衝撃に逆らわぬよう、天を仰ぐように上体を逸らし、僅かでもダメージを軽減しようと試みるも、その効果は微々たるものであっり、意識が途切れる事こそ無かったが、受け流しきれぬ衝撃はその小柄な身体を宙へ舞わせていた。

「やべ……いや、大丈夫そうだな」
 あまりに見事に決まった一撃は、何の力も持たない一般人であれば致命的ですらあるし、吹き飛ばさぬ”斬撃”に集中するような斬り方をしていれば下手をすると上下半身が泣き別れしかねない。術者や”力在る者”の戦闘とはそういうものだ。
 だが、今しがた斬り飛ばした少女はとりあえず死なずにいてくれたらしい。…地面に背中から墜落したにも関わらず、苦しむ様子も無く立ち上がって見せたのだから、これで死んでいるならばそれはそれで恐ろしい事態である。
「にしても」
 斬撃を受けた箇所を押さえるその周辺に血を滲ませ、更には指の間から血液を流してこそいるものの、特別堪えている様子は無い。
「少しは苦しむなり呼吸乱すなり……あるだろ!?そういう展開!」
 それでも、同じようにペースを奪えば勝機はある。
その余裕が、欧真をやや強気にさせ、軽口すら飛び出すようになる。相手の認識をずらすという計り知れないアドバンテージは、相手がどこまで強力であろうと不動のものである。
「……」
 芹は傷口を右手で押さえ、左手の蒼冷旋律を握りなおす。その視線は左右や樹上を軽く見回し、心の内で対策を練る。
 受けた傷は決して浅いものではない。勿論致命的ともいえないが、蓄積すればいずれ膝をつく事になりかねない。どうにか尻尾を掴まねば、力量や魔力の差で押し切ることなど出来はしない。
まして、場数では明らかに向こうが上である。
「…ないよなぁ。そういう冗談わからなそうだし」
 再び、前の空間……確かに見えてはいるが、感覚のずれを感じる辺りから、呆れたような疲れたような声が聞こえてくる。なんだか良く聞くタイプの声のような気がした。
「はい、生憎ながら……戦闘中に必要の無い事をするほどの余裕も無いので」
 一応視線を向け言い返す。
その言葉に欧真はため息をつき、剣を構え直す。
「そうは見えねえけどな…まぁ、そういう事なら遠慮なく」
 言葉が終わると同時に土を踏み切る音がし、がさがさと草むらを跳躍するような音が聞こえ始める。
それを聞きながら、芹は一つの対策…賭けを思いついていた。
うまくいくかは定かでは無いが、可能性はある。
「…やって、みますか」
 呟くと、想軌と共に蒼冷旋律を緩やかに振るい魔法陣を展開。その力を逆流させ、右手と傷口に集中。傷を癒すと共に身体に力が行き渡る感覚を覚えながら、冬の気配を残す木々を見回す。
 その一連の動作にいくらかの余裕と、何より傷が癒えたのを見て、欧真はこっそり衝撃を受けていたが、そのような事は芹が知る由も無かった。

 とはいえ、そう急に状況が転ずる筈も無い。
ある時は芹の背後から、またある時は正面から繰り出される斬撃は、先程のような直撃こそ与えられないものの、確実に傷を与えてゆく。
 無論僅かな隙を縫って癒されるものの、それとて限界はある上、攻めなければ勝つことも不可能である。
「……っ」
 それらを気配と音を頼りに受け流し、或いは刃を合わせ防ぐうち、芹は相手を探る感覚を掴んでゆく。
即ち、音と気配のみ…そして、”違和感”に感覚を慣らしてゆく。
「頑張ってるようだけどよ、防いでばっかじゃ勝ちようが無い…ぜ!」
 余裕の笑みすら零しつつ、十数度目かの斬撃を真正面から打ち下ろす。
が、それは芹の身体を捉えず、空を切り地面を抉る。まるで舞踊の如き緩やかな回避。
 あまりに自然な回避に欧真が驚きを隠せぬ中、その僅かな隙に芹は踵を返し、刀を鞘に収め木々の間を駆け始める。
「…ち!待ちやがれぇ!」
 予想の外側の出来事とはいえ隙を生んだ自分を呪いつつ、欧真もその後を追う。
その背は思う以上に早く、そして器用な運動をこなしている。
 地を蹴り、枝に手をかけ、重心移動にてその身を樹上へ。そして、刀を抜くと同時にいくらかの枝葉を薙ぎ払うように斬り飛ばす。
「あん…?…植物系の想軌か…?」
 もしくは、先刻見せた魔炎の術式を補助し、捉えられぬ自分を周囲諸共焼き払うつもりなのか。
欧真の斬撃を巧みに回避――不規則な動きを捉えることが出来ないと言い換える事も出来るが――しながら、蒼色の少女は色を無くした枝や葉を無数に刈り散らして行く。それは、さながら木の葉の吹雪のようであった。

「植木屋にしては随分身軽だ…なっと!」
 言いつつ、少女が手をかけようとした枝を斬り落とし、自身はその根元に手をかけて停止。地面には降りず様子を見る。
が、当の少女は空中で器用に姿勢を整え、着地と同時に前転し衝撃を逃がし、隙なく構えを取る。不意打ちとはいえ、予想の範囲内だったようだ。
なおかつ偶然か意図したのか、ご丁寧に欧真の方向を向いて臨戦態勢を取っている。
「つくづくこっちのやることが通じねえ嬢ちゃんだな…」
 半ば呆れたようにぼやきながら、欧真は次の一撃でどう攻めるかを組み立て始める。
知覚のズレという大きなアドバンテージをとっているとはいえ、見極める方法が存在しない訳ではない。…例えば、周囲風景との違和感を見分けられる可能性はある。
(多分、そのために葉っぱを散らしたんだろうが…苦肉の策だな。効果は望めない)
 気づけば周囲一体に葉が舞い踊っており、どうやら大雑把ながら円を描いて集中的に枝葉を散らしていたらしい事が分かる。
 確かに有効といえば有効ではあるが、日が落ちた今ではむしろ視界にいらぬものをばら撒いただけと言える。聡明ではあるが、時期が悪かった。
「まぁいいか。…お休みちゃん、だぜ!」
 根元に掴まっていた手に力を籠め、身体のバネを活かして跳躍、そのまま木の葉を撒き散らしながら頭上へ剣を突き立てるように振り下ろす。
「…!」
 視界内で発生した音、何より跳躍したのか、差し込む月光に木の葉が不自然に舞い、芹は咄嗟に右手方向へ身を捻りつつ跳躍。その勢いをもって自身が居た方向を向き着地、そのまま手を翳す。
「…っち!さすがに慣れて来たか?…だがそう簡単には」
 斬、と地面に剣先を叩き付けた欧真が舌打ちをして呟いた瞬間、目前に術式が展開し紅蓮の炎が放たれる。
「や……っべ!」
 迂闊すぎた。反応速度もさることながら、術式の展開、当たりの付け方、全てを甘く見ていた。
この後に及んでなぜこうも甘く見たのか。…恐らく、装備と自身の実力への慢心があったのだ。それも危険な程の大きさで。

(そこにいる…けれど、ただ真っ直ぐに…!)
 目標が認識できないのならば、可能性の高い箇所を特定し、最大速力で魔弾を叩きつければ良い――芹はそう考え、さほど長くはないが木々の間を飛び回り時間を稼ぎ、舞台を整える事に成功していた。
 そう、舞台である。もはや舞台準備は整い、紙吹雪ならぬ木の葉吹雪も舞っている。
もう、逃がしはしない。捉えたら最後、畳み掛ける。
 そうして、魔弾を放つ。普段とは違う、ある想軌を籠めて。

――爆ぜよ、と。

「あっぶねぇ…!」
 放たれた魔弾を剣を盾にして防ぎ、欧真が思わず呟いた。
が、それは通常のそれよりも大分衝撃が少なく、その代わりに剣に命中した直後から周囲に炎が散らばり始める。
「なんだこりゃ!?」
 それは、まるで花火のように。
紅の爆炎から光の粒のような蒼色の炎が舞い散り、周囲に舞う木の葉とまるで手を繋ぐように触れ合い、踊るように周囲へと広がって行く。
「ち…!」
 欧真は舌打ちをして跳躍、これ以上強烈な術力場を形成されまいと、既に舞に飲まれはじめている空中へと退避する。
 が、その目前。視線を前に戻したまさにその時。
右の腰に鞘に収めた刀を佩き、身体を捻ってその柄に左手を添えた少女と目が合う。
 それと同時に、いくつもの蒼色の炎が周囲を照らし、そして欧真のコートにふわりと触れ、はっきりと”見える”状態になっている事に気づく。
「た…っ!?」
 タンマ、と欧真が思わず口に出しかけたところで、キン、と少女が鯉口を切り、欧真はそれに剣を合わせようとする。
が、それはあまりにも遅すぎた。或いは、少女――蒼き巫女とも――の動きが、あまりにも早すぎたのか。

 しゃん、と涼やかな音を響かせ、蒼色の軌跡を切先で描くそれを、欧真はただ、眺める事しか出来なかったのである。


 気づけば、あれほどににぎやかになった舞踏会は終了していた。
同時に、欧真は自身が生きている事を知る。
その傍らに、例の”蒼き巫女”が佇んでいることも、また同時に知る事となった。
「…畜生…やるな、嬢ちゃん」
 胴部に痛みと熱感、そして奇妙な冷気を周囲に感じる。
恐らくは少女…蒼き巫女が手にした刀か、あるいはその技か。それを探るほど、今の欧真に余裕は残されていなかった。
 少女が刀を鞘に収め、気遣わしげに欧真に声を掛ける。
「ありがとうございます。…あの、大丈夫ですか?」
 その一言に欧真は一瞬思考が固まり、笑うべきなのか呆れるべきなのか一瞬迷った末にどうにか答えを返す。
「大丈夫じゃぁないが、ま、致命傷でもないな。首飛ばさないでくれたのが幸いしたみたいだ」
 実際その通りである。
斬撃を受ける、と思った次にはこの有様であるからには、万一頭や首・手足に入っていれば少なくとも五体満足ではなかっただろう。
 そして、そうならずに済んだのは偶然ではないことを、たった今聞いた言葉で理解する欧真に、芹は再度…さらに衝撃力を増した言葉を掛ける。
「それなら、よかったです……私は、私の大切な人々と一緒にこの戦いを終わらせなければなりませんので……今は、治療に専念して下さい」
「は…?」
 思わず耳を疑う。が、万一にでも気が変わって止めを刺されるのもそれはそれで困る――もっとも、目の前の少女はそれすら無さそうだが――ので、ひとまず大人しくしておくことにする。
「…あの、変な事を言っているのは分かっていますが…」
 説得を続けようとする少女を、片手を上げて制すると、欧真は力無く苦笑しつつ答える。
「や、いや、いい。なんか嬢ちゃんの言いたい事が分かったからよ…」
 その言葉に少し微笑むと、少女は一言。ありがとうございます。と礼をする。
それを見てなんだか妙な気分になりながらも、欧真は言葉を続け、尋ねる。
「いや、礼を言いたいのはこっちだ……ところで、嬢ちゃんの名前は?」
 いつまでも蒼き巫女やら少女やら嬢ちゃんやらでは、この術師にして剣士たる相手に申し訳ないと、欧真は感じ、そしてもう一つ、奇妙な実感を覚えていた。

――自分達が憎むべき相手は、本当にこの少女や…そして、巫名の家なのか?と。
これほどまでに力があるならば、そしてそれを崇拝するならば、既に手遅れであるだろうし、第一この少女は無垢なようではあるが愚かではないように感じる。
 何より、剣を交えた相手から感じ取った感覚である。…酷い違和感があるが、まるで自分達が間違っているように思えてならなかったのだ。

「巫名・芹 と申します」
 凛として、それでいて柔らかく涼やかな声。見た目相応の少女らしさに強さを内包した、不思議な声であった。
「みこな…せり、か。OK、覚えたぜ」
 言いつつ、これは名乗るべきか、と欧真が考えていると。
「あ…すみません。急がなければならないので、これで失礼します。…では」
 そう言うと、少女…巫名・芹は走り去ってしまう。
その背中を見送りつつ、欧真は一人呟く。
「ありゃー…良い奥さんになりそうだが…随分せわしないな…ま、今度会ったらでいいか」
 言葉を吐き終えると、草に寝転がったままで傷の治癒に専念する事にした。…それは同時に、今のあり方を考える時間にもなる。
「”蒼き巫女”か……これで何かあったら、俺は火あぶりモンだな」
 だが、それでも…どこか、間違っている気がしてならなかった。あの男が言うことは本当なのだろうか…と。
だが今は、それよりも治癒を優先する事に決めると、欧真は目を閉じ、森の空気を味わうことにした。
 が。
「…痛ってぇ」
 早速空気をぶち壊す欧真であった。


「……」
 森を走り抜ける芹を見下ろす、一つの影。
その姿は、標的を付け狙う暗殺者のような空気を纏っていた。
「…芹」
 涼やかな声で呟くと。

――音も無く、その背に刃を突き立てた。



                          ―――――「邂逅。蒼き巫女と不可視の刃。」 完 ――


決戦朝詩。災いに挑む者。

――音を紡ぐ。
 高い音や低い音……それらを長く続けたり短く切ったりして、まるで一つのタペストリーのように旋律を編んでゆく。

――音を紡ぐ。
 それは、心の均衡を得る作業に似ていると思う。楽器を手にして旋律を生み出す時、どんな恐怖も焦りも、怒りでさえ忘れて、音の一つ一つに耳を傾ける事が出来る。……つまり、心の声を聞いているような感覚になる。

――音を紡ぐ。
 それはひょっとしたら逃避。目の前の事から目を背け、音楽というものに溺れて言い訳を付けて逃げているだけの行為。
 心の均衡を得るために何かに縋るなんて、酷く惨めだとすら思う。…それは、私に限ったお話だけれど。

――音を紡ぐ。
 それでも何かに縋らざるを得ない。ヒトとはそういうものだと理解しているからこそ、私はなおも旋律に救いを求め、また旋律を紡ぐ。
 その程度の事で自分の事を解決出来るなら、とても合理的で効率的。それが可能であるなら、是非そうするべきだと思う。

――音を紡ぐ。
 けれど、それで解決できない事柄とはなんだろう?…少なくとも、今までは無かった――あるにはあったが、それらは皆保留して、いわば”未完の楽譜”のように心にしまってある――から、考えた事も無い。
 つまるところ、分からない。分からないから。

 私は旋律を紡ぎ続ける。それでの解決を試み続ける。例え指が擦り切れ弦が弾けようとも。
 それが例え愚かな行為として笑われようと、私は最期まで私であり続ける。

 ただ、それは決してあらゆる事象に適する訳ではない。
…今日行われる”戦争”もそのひとつ。私一人でどうこうできる筈も無いし、出来るなどという慢心もない。

 いつもの事ではあるけれど、こうした大きな戦いには未だ慣れず、恐怖とかそういったモノが湧き出してくるように心を支配していく。――臆病者、と自分で自分を叱責しても、何一つ改善される事は無く。
 だから今こうして、旋律を紡いでいる。…一人、詩を口にしながら。
 一人にして多数の戦いを乗り切るための、精一杯の抵抗。

「”あの空のように――”……」

 歌い終わり、ふっと息を吐く。不安や恐怖は、既にその大部分が姿を消していた。
 手早くギターを片付けていると、すっかり冷えた身体に気づく。…こんな時期に野外で演奏していれば当然の結果ではあるけれど、それに気が付かないほど演奏に夢中だった自分に驚く。
「それほど…私は怖がりなのでしょうか」
 思わず口をついて出た言葉に、その通りだ、と思う。私は怖がりで臆病で、そして恐らくは寂しがりだ、と。
 それらの全てを押し殺し、今回の作戦展開に向けて心を奮い立たせる。
「もし失敗するような事があれば、関東一円の壊滅…ですか」
 つくづくに思う。もっと力があったならと。
 もっと力が強ければ。もっと心が強ければ。もっと、もっと…一人で生きる力があれば。

 けれど、無いものねだりなど何の意味も持たない。 私は今ある力で、今選べる最善手を打つ。それが何よりの貢献になるのだから。
 戦いで貢献して、日常で笑顔で居れば、とりあえず不安や恐怖の問題は先送りに出来る。…そしてそれらを、いつか解決する為にも。
「負けるわけにはいきませんね……勿論、守らなければならない人々や、無事でいて欲しい人たちの為にも」
 それは孤独な誓い。けれど、私にはそれで良かった。

 共有するものでは、ないのだから。
 私が決めた事は私の事で、他人に押し付けるものではない。…例えば、他人が誰に縋ろうともそれは妥当な事であり、その人のルールだと思う。
 誓いも問題も私だけのもので、旋律を編みながら解決するもの。そして得たもので礎を積み上げる。

 私は、そうして生きて行く。

「…そろそろ、戻った方が良さそうですね」
 電車で移動中の人たちももうじき到着する時間だ。
 ぺちぺち、と頬を軽く叩き、気を引き締める。今は思いつめたり悩んでいる時間ではない。戦いにおける心得を確認するほうが、まだ建設的というもの。
「……」
 明るくなって来た空を見上げ、その澄んだ大気に思いを馳せる。

―私も、いつかあの空のようになれるのでしょうか。



 戦を前に、奇妙なほどの静けさを湛える森の一角。
 空と同じ”蒼の色”を持つ少女は仲間達の、或いは学友達の待つ旅館へと駆けて行く。
 負けられない、負けたくない。
 今の自分のために散った者を想い、決して命を散らさぬと誓う少女が往く。

 日常を汚させやしないと、今一度、刃を手に取る――


                                         「決戦朝詩。災いに挑む者。」――終





 あとがき。

 眠気って怖いですよね。おはようございます、背後です。
相当にもうこれは…という感じがしますが、ステシで演奏どうたらと書いたので、せっかくだからと取り入れてみました。

 30分前に決めて取り入れた結果がこれですよorz
本当もっと精進しないと…そろそろ匿名コメでお叱りが来てもおかしくないですからね。
キャラを引き出すためとはいえ、若干やりすぎ感が漂うので…これじゃタダの構ってちゃんじゃないかorz

 まあ、ちょっとアレだなーというお言葉があった場合、非公開なり削除なりしますので…うーん、RPとSSの連動って難しい。
今回主観視点で書いてみましたが、やはり若干重いんですよね(汗)。まあ完全にお気楽でもないんですが。

 これを読んだ方でそう思う方がいらっしゃるかもしれませんが、何も芹はしょっちゅうこういう事考えている訳では無く、戦争みたいな強い不安や恐怖等のプレッシャーを受けたときに、落ち着くためギターを演奏して、その時に沢山のことを考える、という感じです。
 また当然ながら、普段する演奏ではこんな事考えていません。不器用なだけで、精神的に破綻している訳ではないので。その辺りはご安心を。

 さて、そろそろ朝食を作って準備しておきますので、この辺りで失礼します。
それでは皆さん、ご武運を…!

 あ、なんか文章的に重傷で突っ込んだりしそうと感じられるかもしれませんが、決してそんな事はありませんので、ご安心下さい。
 SSの為にキャラを殺したくはないですし、設定に拘ってRPを殺しては無意味にも程があります。というか実はそんな濃い設定じゃないという(オイ

 では皆さんお気をつけて…ちなみに異桐は留守番です。
…出撃したら役に立ちそうかm
(ドグシャアアァァ


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