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蒼の髪と銀の雨

PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。                                                                                                       ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」

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かたすとろふ。あのときあったこと。

「―ッ!」
 思考が逸れた。気配の察知はできていたが、唯一。巧みに視野を潜り抜けた1体のリビングデッド――抗体ゴーストと名付けられたうち、ナンバードと呼ばれ始めた存在――からの襲撃に、右脇腹が悲鳴をあげた。
(深い…)
 反射的に背を丸めそうになるのをどうにか堪え、返す刃で心臓を一突きにしようとするナンバードへ右手を突き出し、その掌に術式を編む。幸運にも、敵は右手前方へと躍り出ていた。
「死ねぇ! 死ね! 死ねシネシねしねしねぇぇええぁあぁあ、アーーーーーッハッハッハアアア!!」
 周囲から迫る気配と、目前の狂気に晒されながらも、術式はぶれない。―危うく殺意の刃が胸に届こうかという直前
「―撃(て)ッ!」
 高速で起動した術陣から蒼い光が放たれると、目前のナンバードを刃もろとも右上半身を破壊し、その身を蒼い電光で束縛する。
 だが、当然気は抜けない。―激しい戦闘の最前線に立っていたものの、まさに強烈なぶつかりあいと混乱の中に呑み込まれてしまい、味方とはぐれてしまったのだ。…そうして、そのような目に遭っているのは芹だけでは無い事が遠方の戦闘音からも感じられる。
 一方で抗体ゴースト達は森から、樹上から、茂みから、前から、後ろから、とにかく物体が存在できるあらゆる空間から襲い掛かってくる。
 さらに言えば、現在の芹は「能力者」としての術式しか展開できない。…実のところ、芹は「能力者」という力そのものを想軌で発動…コンピュータで言えば、エミュレートしているような状態である。全く異質の力であるため、「危なければ切り替える」「想軌と能力者を使い分ける」事ができず、切替そのものに時間がかかってしまう。コンピュータが、プログラムを動かす時に読み込みを行い、処理するのと同じように。

「―ぁ、か…っ」
 不意に呼吸が苦しく、気道が熱くなる。―先の負傷により、肺から血液が溢れそうになっている。多くは無いが、例えばそれで喀血を誘発されることは致命的な隙を生み出す事に直結する。ヒトの反射…即ち防衛機能は、時に危機を招くものなのだ。
「Grrrrrrrrrrrrouuuuulllllllllll!!!!!」
 電光に束縛されたまま意味不明に喚くナンバードを斬り捨て、異物を吐き出そうとする肺と背の痙攣を強引にねじ伏せる。
「―っ、…!」
 呼吸を止め、思考を制限するように敵へ向ける。残りは――見えるだけで3体。多分、増える。
「ヒャ、ヒャ、ヒャハハハハハハハハ」
 高い声音と言葉とは裏腹に、酷く落ち着いた調子で笑う不釣合いな声と共に、背後に殺意を感じる。―大丈夫、想定の距離。
「―!」
 身を屈めて首への一撃を回避。同時に左旋回して勢いのまま脚を斬り払う。どれか一つ失敗すれば、私は彼らの玩具になり、ついでに食糧になる。…おぞましい予測を、しかし冷静な思考の中で呟きながら。
「――ッ!」
 倒されてなお刃を向けるナンバードの頭部へ朱鷺風―長剣だが、付与魔術によって日本刀のように素早い抜打ちができる魔導武器にして詠唱兵器―を突き立て、その活動を停止させる。

 あと、2体。増えないうちに、なんとかしないと。

 少しだけ空いた時間に、すかさず術式を展開しその魔力を吸収。損傷した体内組織へと意識的に魔力を集中させ、激痛と引き換えに体内の出血を抑える。
「――ぅげ、っ…!……かほっ…!」
 だが溜まった血は吐き出さなければならない。いつまでも呼吸を止めてはいられず、感覚も誤魔化せない。堪えきれず右の手に血を吐き出し、口中に血の味と香りが解放される。

 それが、いけなかった。不可抗力とはいえ。言い訳にもならない。

「―――!!」
 不意に、凄まじい衝撃と激痛が華奢な胸を貫いた。がくんと頭が揺れ、自分がこわれる音を聞きながら後方へ吹き飛ばされる。地面に背中を打ちつけ、それによって緩いきりもみ回転をしながら景色が高速で流れる。
(…ぁ)
 既に数え切れないほどの抗体ゴーストを沈黙させ、それなりの戦闘を回避した身体は疲労と負傷、そして本人の意思力による強引な継戦。おまけにこの衝撃を受け、遂に主を見放した。
(―危険。術式をてん)
 思考が完結する前に小さな木をなぎ倒し、茂みに突っ込み、地面で腰を強く打ったのちに仰向けで土を滑りようやく運動が止まる。
「……」
 認識できないほど身体のあちこちを森のあちこちにぶつけ、瞳はどうにか紅の空を映しているだけだった。いや、空が赤いのか視界が血に染まったのか、その判断も思考もできない。
 それでも激痛にさいなまれる身体は少しだけ動き、今しがた芹を吹き飛ばした存在は愉快そうな足取りで動き近づく。
「ジャァァァァァァアアアアアアッスト!!! ミィィイィイィア、アアッハッハ!!! ットットットォォォ!」
 訳・ジャストミート。楽しげな笑いと狂気の笑いを抑え切れないそのナンバードの得物は”槌鉾”だった。…剣だったのだろうが、刃は歪み身は厚く膨れ重さを増し、どれほどかは分からないがどろりとした血を纏っていた。そしてその姿を、芹はぼんやりと視界の隅に捉えた。

―もうすぐ、あれに血じゃないものも付く。弱気めいた予測が心に立ち、それが振り下ろされる瞬間すら鮮明に想像する。…彼の敵からは、すぐに殺そうという気配は感じなかったからだ。

―まずは脚。逃げられず致命的で、しかし即死ではない。
――次はそれに喚く獲物の腕を砕く。多分利き手から。武器を震えず足が動かなければ、もう。
―――そして次は腹。一度癒えた傷を、別の痛みが押し潰すというのは大変な恐怖だから。…世の中、おなかが痛めつけられるのを好むヒトもいるらしいし。
――――また脚。脚は2本あるから。同じ理由でその次は腕。
―――――場合によっては、下腹部も。…男女問わず急所。初撃で頭を砕かなかった事から痛めつける願望があると見える。…ならば、”そこ”を破壊する事を楽しんでも何ら不思議ではない。
……そして頭は最後で、胸は最後から2番目。極限まで痛めつけられる。最後には、柔らかになった私を胃に収める。

「…っ、…けほ」
 ぐったりと手足を投げ出し、仰向けのまま血を吐き出す。口周りが汚れた。奇跡的なことに、両手ともまだ使える。…が、すぐに逃げ出すことは到底叶わない。
「ア、ア、アガハガガガガ!!! ゥゥゥゥゥウウウウアアアアア!!!!」

 距離は20mほど。首を傾げたような姿勢で倒れたことが幸いして、さほど苦労せずに視界に捉え続けている。

「…ねが…く、ば」
 願わくば、予測の通りに。脚を砕き、腕を砕き、腹を潰し、脚を潰し、腕を破壊し、胸を潰して、最後に頭を砕けと。
 距離15。抵抗といわんばかりに、呼吸をどうにか静かにして術式を手元に展開。最後の魔力吸収を試みる。
「ムダァ、ムダ! ムダダム、ム、ムダダムムダムダムダ!!!」
 笑いと共にゆっくりと歩みよる。恐怖を演出するように、”5”の数字を指差しながら。…その意味は、既に聞いていた。殺害し食らった、能力者の数――

 距離10。痛みが和らぎ、少しは楽になった。だが、状況が状況ゆえ程度問題である。…血に汚れているであろう懐の符が、心なしか励まし、痛みを取り去ってくれるように感じる。
「……」

 距離5。すぐそばまで来たナンバードを、芹は力の無い瞳で見つめ。
「ヴァアアアア!!!」
 ナンバードは堪えきれない、という様子で右手の槌鉾…即ちメイス。を芹の右大腿目掛け振り下ろし、どぼん。という鈍く湿った音を響かせながら地面を数cmへこませた。

 それと同時。
「―――ッッ!!」
 酷い激痛が、芹の全身を貫いた。

「……?」
 あるはずの悲鳴と手応えが無い事に、ナンバードが疑問符を浮かべたころ。
 芹は、自身の背を軸に身体を旋回。両脚はやや開いた状態で旋回を加速、半回転ほどしたところでその勢いを利用し、やや上に向け揃える。
「~~ッ!」
 激痛に苛まれながらも相当強引に身体をねじ伏せ、反動と腕の力で跳ね起きてナンバードと距離を取る。――その右掌に、魔導を宿して。

―ウインドミル、だったか。ブレイクダンスでよく行われる、特徴的な旋回運動―と記憶している。かなり無理矢理に再現したため、実物とは似ても似つかないだろうが。
(まさか、一度見たものをこんなに全力でやる日が来るとは…)
 いざというとき、ふと目にしていたものやなんでもない事が役立つこともある―それは、わかっていたけれど。
「…ガ、ィィィィイガアアアア!!!」
 距離は7m程度か。取り逃がした獲物に向けメイスを振りかざすナンバードに、右掌の魔力が輝きを強める。
(―無意識にできるほど余裕がない。なら…!)
 ひゅ、と鋭く息を吸い込み、今まさに武器を振り下ろさんとするナンバードへ向け、想軌を込めて。術式を手に強く意識し、放つ魔弾をその軌跡を。強く、強く想い、叫ぶ。
「キィィィーーーーーール……ロワイアルッ!!」
 それは、大川が持っていた漫画を勝手に読んだ時に見かけた必殺の力。…見た目はまるで魔弾のようで、放つ事は打開を意味していた「お約束」。
 近距離から正確に放たれた魔弾はナンバードの胸に食らいつき、強烈な破壊をその存在に撒き散らしながらもろともにかっ飛んで行く。
「Guuuuuuuaaaaaaaaaahhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!」
 ナンバードはくぐもり濁った悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、20mほど飛翔したあたりで蒼い魔力の光と共に炸裂し、左上半身をごっそり吹飛ばされ倒れたところへ己の得物が降ってきて止めを刺された。
「……勝っ、た…」
 けれど終わりではない。そう思ったが、周囲の気配は先ほどに比べずっと静かになっていた。…そう、残っていたはずのあと一体のナンバードも。いつのまにか肉塊となって遠くに転がっていた。

「……! …終…った…――! ……! ………ぞー!」
 それは、新たな敵の出現という大変局による、破滅を意味する夜の終わりを告げる声だった。

「……」
――最後の最後まで自分として在り続け、刃を振るい、夕暮れに立ち上がる殺意にいくつもさよならを届けた。…”助けるもの”としての友人と離れた前線で、”離別するもの”として在り続けた。それは、誇れる事だろうか。どの存在も受け入れず、痛みを跳ね返して。それは恐らく、どの友人とも違う在り方。…けれど、それでいいのだと。拠点に帰還する道を歩きつつ、思う。


「…これは久しぶりの酷い傷ですね」
 ひどいものだった。傷は数え切れないほどだったし、負傷は内外問わず重篤だった。が、とりあえずこれといった後遺症も残らず、少しだけ残っていた生命賛歌と術的医療により快癒したことは幸運と言えよう。
「…ありがとう、ございます」
 それでも 最 低 限 帰国するまでは安静を強く推奨された芹は、血で汚れ、それでもいくばくかの力を残した符に、呟くように礼を言った。預かった時には数枚だったが、戦闘の合間に使う内に最後の一枚となった治療用の符。
 効果は薄くても戦闘は大分楽になったし、それに――
「…残っていたから、あんな無茶ができたのかもしれませんね」
 そんな風に顧みて。ゆっくりと、休息の眠りに落ちていった。



 ところで。符を渡した本人に無茶を怒られたかもしれないが、その真偽含め別のお話である。





――めずらしいあとがき。

 背後です。ぶっちゃけ、アレ(キールロワイアル)がやりたかっただけです。元ネタ作品ファンの方、そして勿論作者様。ゴメンナサイ。でも大好きなんで一回やりたかったんです!
 最近、初期の話を読み返してみました。そして疑問が浮かびました。

―どうしてこうなった。

 いやー、元々もっとほんわかあったかな感じにしようと思ってたのですが、何時の間にやらバトルやらなんやらが多くなっちゃいましたね。ふっしぎー!
 一番の問題はアレですね。文才とゆーか展開作りとゆーか要するに物書きに必要な能力が足らん!って事ですね。いえ充分だと思うようになったら色々ダメですけども。でもそれなりに読んでいる人がいて、あまつさえ「世界観とゆーかなんか好き」とまで仰って下さる方がいるので、そう極端に見苦しいわけでも無さそうです。ありがたいことです。

 いえ、ありがとうございます本当に。読んでもらえるだけでぼかぁ嬉しいです。もっとコメントばんばんつけてって構いませんよ?ええ。
 返信率低いのは言葉が浮かばないからで、きっちり目は通しております。

 さてさて、今回はこのあたりで失礼します。次はちゃんと「夜編」書きます。書きます本当ですあっやめて物投げないで下さいお願いします。
 ではまた、あとがきは書かないかもですが次のお話で…

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かたすとろふぃ。

 剣を持ち直し、一呼吸。生命賛歌によって、傷が癒え痛みが去り、力の充実してゆく様を感じる。えび茶式部という、なんとも時代錯誤を感じさせる戦闘装束を直し、呟く。
「…ああは、言いましたけれど」
 退くつもりは無かった。…あまり。
 同時に恐怖も無い。仮に命を落とせば悲しむ人もいるだろうと、それだけは不安だけれど。
「けど、悲しむ事が出来るなら…その人が助かるなら、悪くないかもしれませんね」
 それに、その人がいなくなって悲しむ人もいなくなる。それなら、命を天秤にかけるのは決して悪い話じゃない。
 恐怖は刃を鈍らせる。蛮勇は刃を折ってしまう。けど、剣を取らねば刃など存在し得ない。
 ならば剣を取るしかない。魔術を編むべきだ。死を恐れず、しかし生きるという確固たる意思と覚悟を持って。
「…さて」
 友人から受け取った、治癒術用の符を懐へ。実戦では使えなくても、お守りにはなる。傷は癒えなくても、痛みは忘れられる。懐にしまったそれを矢絣模様の上から押さえ、静かに歩みだす。
「行きましょうか。せめて、私が命を奪った分は止めないと格好がつきませんね」
 ”死体を、死体へ”。単独ではなくても、孤独な戦いへ。

――さよならを、届けに。

後日録。呼ばれた魂の真相。(戦闘RP後日談)

「…よし、これで当分は大丈夫だ」
 とある森の中、寂れた廃村のさらに奥。白い家の前で座り込んでいた若い男が立ち上がり、呟く。
「しかし、仲間の助けがあったとはいえ大したものだ。さすがは”力ある者”か…」
 感嘆したように呟くと、目前の白い家を見上げる。
 その姿は年齢に見合わぬ程の風格と落ち着きを纏い、只者ではない事を伺わせる。
「しかし芹がここに来た時は、まだ”発生”する程の思念は無かった筈…ここに監禁されていた少女とて、解放をもたらす筈の芹に危害を加えるつもりはなかった筈なのだが…」
 短い黒髪の奥から周囲を眺めつつ、男は考えを巡らせる。
 穏やかになった廃村を労るかのような風が吹き、男の纏う若草色のコートをふわりとなびかせる。
「…考えても分からないな。ともかく、報告書を作成。然る後、詳しく調査させる事にしようか」
 最後にそう呟くと、男は廃村を後にした。


「当主っ!」
 帰るなり怒鳴られる情けない当主の図。
「ちょ、ちょっと待て!何故何も聞かないでなおかつ私が何も言わないウチに怒声を浴びせられなければならないのだ私は!?」
 怒鳴られながらも問いかけるが押されていて情けない当主の図。
「報告書が出来たので届けに行ったらいないし、和美さんに訊いたら外出した、しかも行き先は分からないとの答えが来て……これで怒鳴らずにいられる筈が無いでしょう!」
 艶やかな黒の長髪に和服。いかにも大和撫子といった出で立ちに見合わぬ程の剣幕で捲し立てる女性の手の中で、報告書らしき数枚の紙がぐしゃりと音を立てる。
「わ、分かった!分かったから報告書を握りつぶさないでくれ!読みづらくなる!」
 そう言う当主の腹部に報告書もろとも拳を叩きつけると、女性は廊下を歩いて執務室へ戻ってしまった。
「な、なぜウチの女性はあんなのが多いんだ……もっと風格というものを大事にしてほしいね、全く…」
 今しがた殴られた部位をさすりながら、男――当主こと、巫名・零次――は報告書に目を通す。
「……なるほどね。それなら、唐突に思念が実体化した理由も納得が行く。……だが、これは……」
 そこにあったのは、例の廃村で過去に何が行われていたかという調査結果。そして、突然ゴーストが発生した理由として最も高い可能性を持つ、ある仮説だった。
「……これは…彼女に任せるには荷が重過ぎる……」
 内容をそのままではなく、とりあえず過去の事件だけを巫名・芹に知らせるよう手近な者に手配すると、零次は廊下の窓から空を見上げ、呟いた。

「いかに彼女といえど、”狂気”には勝てない、か――」
 窓から吹き込んだ風が、書類をひらり、となびかせる。
 そこにあった名は。

『壱月』を示す、ある言葉。だった。



「…?」
 ゴールデンウィーク直前の、最後の授業日。
 連休を前にしているせいか、クラスメイトから町の人々までが楽しげな雰囲気に包まれていた、そんな日。…もっとも、芹本人は特にそういった気分にはならなかったのだが。
 以前寝泊りしていた学生寮へ再入寮するための手続きを終え、森の屋敷……その自室へと帰って来た芹の目に、一つの封筒が飛び込んだ。
「…『廃村における屍人発生に関する報告書』……この間の、でしょうか」
 本家からの依頼を受けて『浄力符』による場の浄化をするために向かった、あの廃村である。
 結局は間に合わなかったのか、大量のゴーストが発生。応戦している所へ知人が助力に入り、どうにか窮地を脱した後に元凶と思われるリビングデッドを討滅。当初の目的である『浄力符』を発動し、廃村の力場を浄化する事に成功したのだった。
「…確かに、少々異様な場所ではありましたし…気になっていましたね」
 封を切りつつ、芹は少女のリビングデッドを思い出す。
 尋常ではない程の思念、怨恨、殺意。
 もしも一人だったならば間違いなく仲間入りしていたであろう、強力なリビングデッド。
「……」
 思い返しつつ、芹は報告書に目を通してゆく。


―――廃村における屍人発生に関する報告書

イ.廃村の過去について

◆件の村には、代々術師が生まれる血筋があり、農耕から村の自衛に至るまで、その霊力を活用していたという記録がある。
◆具体的には、天候の予測や雷火を操っての害獣駆逐、傷病の治療や諸所の魔除けのまじない等である。
◆これにより、小規模な村でありながら比較的に豊かな生活が確保できていたと思われる。
◆外部に交流の記録が無いのは、術師の血筋が外部に流出する事をおそれたためか、あるいは特異ゆえの迫害を避けた為と推測されるが、村に所属していた全ての血筋が絶えた今、確認する術はなく、また入手した記録にも詳しい理由は記載されていなかった。
◆なお、この村はおよそ30年前を境に衰退し始め、25年程前に屍人や妖獣を呼び込み壊滅している。
◆以後、注意区域として巫名家の管理下にあった。

ロ.発見された少女の屍人について

◆名前は『天津・マユラ』。前述した術師の血筋、その最後に生まれた強力な術師である。享年16歳。
◆類まれなる魔術能力と、強力な霊的干渉能力を併せ持った『申し子』であった。
◆その能力故に忌み子、そして魔力を有する器として扱われ、その力を封じるため特別に結界が施された白い家に軟禁されていた。
◆閉鎖的で術師に頼る傾向が強いこの村において、強力な力を持つ彼女の権利はほぼ無いに等しかったと思われる。白い家の二階、遺体があった部屋の引き出しにしまわれていた日記によると、異界との橋渡しと称して暴行を受けていた可能性が非常に高く、子を孕んだ際には”力の引き戻し”として食人を強要されていた可能性が高い。
◆上記から推察されるように、村人は既に正常とは言い難い”常識”をもって少女に接していた。また、度重なる魔術的儀式や”橋渡し”の儀式により、徐々に少女の正気も蝕まれて行ったと思われる。(いずれも、記録資料から読み取る限りでは少女の肉体的、精神的限界を超えていた事はほぼ確実である)
◆これらの事象が重なった結果、少女も徐々に正気を蝕まれ、最終的に25年前の災厄を引き起こしたと思われる。年端も行かぬ少女の精神が16歳になるまで耐えられたのは、”力ある者”の宿命だろうか。
◆具体的な災厄の内容については次項に記述する。

ハ.災厄について

◆具体的開始時刻は不明。白い家に軟禁されたまま、無数の”儀式”を受けた事により少女の精神が魔力や狂気を支えきれなくなり、暴走したものと思われる。
◆解き放たれた少女の力は周囲の思念や眠っていた屍人を呼び起こし、村人達を殺害。その遺体は屍人達に地面や水中に引き込まれたと思われる。
◆この件に関して生存者が確認されていない事から、村と外界との間に何らかの障壁か結界が発生していた可能性も高い。
◆断末魔と狂気に渦巻く村の奥、白い家にて世話人を虐殺、その魂を人形に封じ込めるとこれを破壊し、尽きぬ苦痛を与え続けた。(思念会話により確認済)
◆村が静かになり始めた頃、いつも一人でいた部屋の天井にフックを打ち込み、手芸用の麻紐を使って首を括り自殺を計るも、魔力に相応の生命力が仇となり失敗。紐に魔力を通して”刃”の力を付与。頸部を半分ほど切り裂いた後に雑霊を召喚し、自らの生命力を食らわせ絶命した。(思念会話により確認済)

ニ.再発について

◆その後、少女の思念と狂気が混合。時を経るにつれ思念を呼び込む意識体として残留し、再度災厄を呼びこもうとしていた為、浄力符による浄化の命が下った。
◆万一再発していれば、付近の森林一体が文字通り「死の森」と化していた可能性が高い。
◆以上の理由から充分に余裕を持っての依頼・実行だったが、何らかの理由により災厄の発生が大幅に促進され、此度の交戦が発生した。
◆原因として最も有力なものとして、強力な術者による力場の活性化、及び新規に展開された術式による促進が挙げられる。
◆その実行者の特定には至っておらず、現在調査中である。

ホ.後処理について

◆少女の思念と改めて”会話”する事に成功。能力者達の尽力により狂気が払われ、浄力符により土地の束縛からも逃れた少女が願う事は”解放される事”であった為、丁重な儀式の末思念を解放する事に成功。屍人となっていた遺体も儀式処理の後に巫名家管理下の屍人墓所に埋葬された。
◆村人の屍人については儀式により焼却後、村の墓地へと埋葬された。後日、改めて行われた儀式によって思念を解放。一帯の安全を確保する事に成功した。
◆廃村については巫名家の術師が出向き、白い家を中心に最終的な浄化作業を完了。廃村の終焉は時間に任せる事となった。

―――――4月27日作成 記録者:布都・雅、巫名・梓


「……」
 報告書を読み終わり、芹はふう、と息をついた。
「解決したならよかったです。…辛かった、でしょうね…」
 呟くと、芹はギターを手に取り、窓を開けて縁側に腰掛けると、演奏を始める。
「…自由になれたなら、風を、空を……触れたいものを感じて、せめて安らかに…」
 紡がれる旋律は、柔らかに穏やかに。死者を弔うのではなく、聞く者に安らぎを与える為のもの。
 命あるもの、無いもの、全てに優しく触れる、まるで羽のような涼やかな旋律。

 幾分かの間、旋律を紡いで。
 ふと、弦を弾く手を止めると、空を見上げて芹はぽつりと呟いた。
「聞こえましたか?」
 応える者はいないが、それでも。

――ありがとうと、伝わって来た。気がした。





「後日録。呼ばれた魂の真相」終――




あとがき

 今度はそこそこ早くできた気がします、こんばんは。本編そっちのけですけどね!
 戦闘描写に頭を悩ませているのです…まあ、最後まで書くのは確定なのですが。

 というわけで、4月24日にメガリスドライブにて行われた戦闘RP、その後日談です。
 ぶっちゃけ「ss書こう!」と思ったのが終了10分前くらいだったので、勢いで書きますと言った半日後には後悔していたりしました(オイ
 でもまあ、言いましたからね!後悔といっても、「どう書くか決めてなかった!」という意味で、書くことを宣言した事はむしろ喜ばしかったです。
 ってゆーか、それくらいしないと示しがつかない気がしたんだもん!思った以上に楽しんでいただいたみたいだし、ぶっちゃけ勿体無かったんだもん!

 という訳で、半ばどころか9割思いつきの後日談ss企画、これにて完結です。
 ぶっちゃけ殆ど箇条書きなのでssというより本当に資料みたいになってますけどね…!手抜きっぽくてゴメンナサイ!
 その代わり伏線というか、次に展開するssシリーズの足がかりを思いついたので仕込ませて頂きました。
 多少ダークというかもろにダークな感じですが…まあいいじゃないですか!
 勿論、その前に今進行中のシリーズssを終わらせます。終わらないうちにシリーズ展開するのは身を滅ぼす原因になりますからね。

 それでは、今回はこの辺りで失礼します。
 巫名・芹ともども、これからも宜しくお願いします。それでは~(ノシ

回顧録。悔恨、あるいは逃避。

*ATTENTION!*
今回のSSは色々ととんでもないです。(多分
読んでいて不快になる可能性が十二分にあると思われますので、先に進む方はご注意下さい。(こっちはかなり可能性あり)





 巫名・芹は、学生寮・風月華を抜けた。
退寮…というものである。
 ごく静かに、さざ波も立てないかのように、部屋を引き払った。
かつて「蘿蔔の間」と名付けられていたそこは、今や主も家具もない空き部屋となり、その際運び出された家具の数々は、現在は巫名本家管轄下の倉庫に収められている。

 理由は――無い、のかもしれない。
あるいは、自身という強さを確かめる為。
あるいは、他者に頼る環境を強制的に切り捨てる為。

あるいは……ただ、集いというモノへの恐怖、不安感に打ち勝てず、逃げ出した為。

 かといって完全な孤立でもなかった。
元々それなりに通っていた町外れの屋敷は現在の主な寝床であるし、郊外のマンションに遊びに行くこともあり、また所属する結社でもある。

――結局、逃げ道を残しての退寮であったのだ。

 自身の強さなど計るべくも無い。孤独にも集団にも打ち勝てない自己の弱さが浮き彫りになっただけである。
 他者に頼る環境に至っては捨ててすら居ない。ただ、その選択肢を一つ減らしただけの事。
 ただ、逃げ出したに過ぎない。…集団という社会から。その責任から。その重みから。

 そんな事を考えつつ、芹は屋敷の一室で布団に潜り込む。
―何も解決していない、と。
そして、強く願う。

 それは、
或いは信念、或いは理念、或いは活力。
或いは道標、或いは刃、或いは鎧。

 そしてひょっとしたら、芹にとっての一種の信仰。

――強く、なりたい。
誰にも負けない、なんて言わない。負ける事で得るものもあるのだから。
傷つきたくないなんて言わない。傷を受ける事で、誰かの痛みを少しでも和らげたいから。

 拠らず、迷わず、止まらず、ただ…ただ、前へ進むだけの力を。
或いは物理的に、或いは精神的に、或いは魔力として。命果てるその時まで、果ての無い先を見つめる強さを。
絶望も、恐怖も、孤独も、痛みも、何もかもを受け容れて、常に笑顔を保つ強さを。

 命の灯火ついえるその瞬間に一歩を踏み出し、保身より一厘の可能性を選ぶ勇気を。


 そして…万に一つ、この志が暴力となった時、自らを絶つ勇気を。


 ただ、恐れないだけ。
 ただ、受け容れるだけ。
言葉にすればその二つ。
だが、その理想は果てなく遠く、また現実は残酷でさえある。

―それでも、それを見ていなければ進めないから。理想を追い続ける。

 強く。
そう願ううちに、芹の意識はまどろみへと溶けて行った。




あとがき

 やっちまいました。ぶっちゃけいつもどおりです。
ざっくり決めて勢いで乗り切る悪癖の持ち主、巫名・芹の背後です。

 最近SSらしいSSを書いてませんが(コラ)、今回のは「芹の間違った部分」をえらいストレートに描写してみました。
 別にノー天気という感じではなくとも和みキャラっぽい…が、実際のところ心の内側にはさほど明るくない部分を持っている、と。
こういうコトをRPじゃなくSSでやるあたり(第三者がRPスレとかに反映出来ない)、背後の性格の悪さが現れています。
とはいっても、この方が皆さん気楽じゃないかなーと思っているので(笑)、零細ss書きの戯言と見ていただければよろしいかと存じます。

 実のところ、背後的な勢いで結社を抜けたものの、RP的にさてどうするか、と困ってしまいまして…ちょうどいいやとssに起こした次第です。
相変わらずのロ-クオリティですが、どうぞご容赦下さいますよう謹んでお願い申し上げ奉りますりする(何言ってる?)
いや、勿論精進していきますが。

 それでは、今回はこの辺りで失礼いたします。
これからも巫名・芹と…………ああそうそう、異桐ともども、よろしくおn(異桐「バラバラに引き裂いてやろうか?」32HitCombo!)

 *はいごは まいそう されました*


現行時流。過ぎた日々の偶然・潜んでいた意図。

 2008年 10月某日  晴れ

 夕暮れ。
昼と夜との境界線。一日の終わりを告げる使者。
人間にとって危険が増す、夜への入り口。逢魔時という言葉もある。
空が紅に染まり、雲を照らし地上に影を落とすさまは美しいが、同時に不気味さも感じさせる。
そしてその紅の光は、あたかも学校施設の保健室のような室内にも入り込み、白い壁を色づかせていた。
―まるで時を越えて色あせるように。

「世界の終末ってのはこういうモンなんかねぇ…」
 煙草をふかしつつ、大川がそう呟いた。
――我ながらなんてつまらないコトを言ってるんだ―と、そんな事を考えながら。
「……何よいきなり?気持ち悪い事言わないでよ」
 苦笑しながらそう返すのは、一人の女性。

―髪は腰程まであり、色は蒼。飾るでもなく、ただ重力に引かせているだけのストレート。
服装は黒いロングスカートに白のブラウス、今は畳まれ膝に掛かっているコートもまた白い。
化粧らしい化粧は殆どなく、いわばナチュラルメイクというものだろうか。
線が細くやや小柄な体躯と、柔和でいて凛々しさを感じさせるその顔立ちは、殺風景な部屋にあって少し浮いていた―

「ンあ?…まぁそうだけどね…たまにゃいいだろ?」
 大川が相変わらず面倒くさそうな声と仕草でそう返し、灰皿に煙草の灰を叩き落とす。
「別にいいけど……今日はそういう用事じゃないでしょ?」
 女性はその雰囲気を慣れた様子で受け止め、話を本筋に戻そうと試みる。
どこか、焦燥を含んで。
「あぁ、忘れてる訳じゃないよ。ただ……」
 微かに微笑みながら、灰皿にそのまま煙草を突き刺す。
「ただ…?」
 表情と話題とはなかなか一致しないことが間々ある…そう思いつつ、女性が問い返した。
「ただ、あんまり良い話じゃぁ、ないよ……」
 言いつつ、大川は新しい煙草に火を点け、
「それでも…って、言う必要もないかね?」
一服。そして、

「睦月」

 煙に続け、女性の名を呼んだ。意思の確認と、再会の確認として。
「…ええ、勿論よ。そのために来たんだもの」
 女性―睦月は軽く頷き、大川を真っ直ぐに見据える。
「……おっけ、分かったよ。…それにしても」
 大川も応え…睦月を見返し、
「良く似てるねぇ……さすがは親子、ってとこかい」
 にやりと笑って、煙草を咥える。
「…そう…嬉しいわ。…長く会ってないのに、まだ似ているなんて」
 睦月は、それに苦笑しながら応える。
「会ってないったって、まだ1年も経ってないだろうに。…そりゃ、その間一回も会ってなかったンだから、そう思うのも分かるけどね」
 大川が冗談めかし…念のため、理解していることは伝えておいた。というより実際よく分かるのだ。
自分でさえ、"あの子"に2ヶ月会わないだけでも、大分退屈だったからだ。

 巫名・睦月(みこな・むつき)
巫名家の当主候補であった(実際には今でも、である。扱い上は)、巫名・芹の母親。
家系外の人間であるにも関わらず術適性が高く、その力は当主連中を震え上がらせたほど(そのときは、とある調理器具が武器だったが)。
 魔術や各地の結界、異常現象の究明・研究等で各地を飛び回る生活で、娘には殆ど会えていない。
その心配故か、時節的に旬の果物などを大量に贈ってしまう凶悪な癖があり、8月には大量の梨を送りつけていた。
 娘とよく似ており、髪と瞳の色は殆ど同じである。
体格もやや小柄で……しかし、スタイルは受け継がれなかったようで、こちらはそこそこ平均的であった。

「…なに?」
 睦月が不思議そうに首を傾げる。
「いや……遺伝って、不思議なモンさね…」
 そう言うと、大川は咳払いをし、話を切り出した。

「さて…そろそろ本題に入るかいね」
 そう言うと、大川は幾枚かの書類を机に広げ、気だるそうに目を通してゆく。
それらは、芹と大川の交流…その中にあった、いわば本来の目的。その集大成。
「…いつのまにか、あのコと話したり、ギターを演奏することが主になっちまったけどね」
 苦笑する大川を、睦月もまた苦笑しつつ見返す。
「私としては、そのお陰で助かったと思ってるわ。…そうでなければ、今頃は…」
「傀儡と言いたいのかい」
 言葉に詰まった睦月に、大川は静かに問いかける。
「…ええ。今頃は、"仲のよくない連中"に捕まって、いいように利用されていたかもしれない」
 恐らくそれは事実である。
当主やその派閥が味方についている(正確には協力「させた」のだが)とはいえ、表立って行動することは無いだろう。代わりはいるし、危険を冒す必要も無い。
 となれば、敵対する派閥、力を得たがっている派閥に目をつけられ、隙あらば利用しようとするだろう。
今でさえ、決して安全とは言えない。協力者を得て未然に圧力をかけてはいるものの、いつ動きがあってもおかしくは無いという状況なのだから。
「そうさね…ま、とりあえず今は大丈夫なんだ。これからのことを考えれば良いさ」
 大川は少しおどけた口調でそう言うと、煙草を灰皿に突き刺し、新たな煙草に火をつける。
「相変わらずね…健康に悪いわよ?」
「煙草吸って早死にするほうが、禁煙して長生きするより10倍は幸せさ」
 呆れたように苦笑する睦月に、大川は間髪入れず応答する。
「そうね…それで、どうなの?」
 睦月が表情を引き締め、本題に話を戻す。
「…報告って意味だね?…良いニュースと悪いニュースがあるンだけど」
 大川は書類を二つの山に分け、それぞれを煙草を挟んだ指で示した。
…どちらを先に聞くか選べ、という事だ。
「悪趣味ね………良いニュースからって相場は決まってるでしょ?」
 呆れたように睦月が言い、大川は向かって右側の書類に手をかけ、話を開始しようとする。
と、その時。
「まず」
「待ちなさい。…悪いニュースからお願い。相場通りなんて、つまらないわ」
 どこかしてやったような表情で睦月が言い放つ。
大川は少し驚いた表情をし…ついで、ニヤリと笑った。
「あンたも大概趣味悪いと思うがねアタシは…」
「何年付き合ってると思ってるの?」
 お互いにどこか不敵な笑みを浮かべあうその姿は、お互いにも貴重な場面であった。

「じゃあ、悪いニュースからだ。…結構マジだから、覚悟しな」
 言いつつ、大川は睦月の顔をちらと見る。
「…ま、言うまでもなかったか」
 呟き、大川は書類を見ながら話を始めた。
「あぁと…今はっきりしてるのは、1・問題の抱え込み。2・孤立の拒絶と集団への恐怖。3・"果てない理想"…ま、こんなもんかね」
 そこまで言うと、大川は煙草を咥えて睦月の言葉を待つ。
「……3番目が、なんだか詩的な感じがするけど?」
 まあ予想していた問いかけであった。大川自身、少し違和感を感じた言い回しだったのだ。
「ああそれは…なんつーかな」
 煙草を持つ手を宙に彷徨わせ、説明する言葉を吟味する。
「…そうさね……あのコは、今の自分よりもっと強くなろうとする…力でも、心でも。で、それが叶うとさらに上を目指す。…その一連のサイクルが、時折尋常でないくらいに強くなるんだよ」
 上手く伝わったかがいささか不安であったが。
「…つまり、向上心ってこと?」
 問題なかったようだ。
「そう、向上心。まあそんだけなら普通のコでもあることだ。理想が高すぎるってのはね。そして挫折や妥協を覚える。…ただ、あのコの場合は…実現しちまうから問題なんだ」
「…何か問題があるの?」
 向上心が強いのは何ら問題ではないし、実現できるに越したことはない…筈なのだが。
「大いに問題さ。…確かに、普通のコなら問題ない。結局妥協しなきゃいけないんだ。いつか勝手に折れる日が来る。…ただあのコは…芹は能力者だろ?魔術師であり、剣士でもある能力者で、かつ素養もある。伸ばそうとすればするほど伸びるンだよ。…問題は…」
「…限界が見えてない、とか?」
 睦月の問いに、大川は首を横に振って応じる。
「いや…それならまだいい。現実を否定するなら別だけど、いつか限界を知るときが来る。…あのコは、今の自分で出来ることをおおよそ知った上で、尚それを超えようとする。そして成長によって限界を引き上げようとする。それだけならまだいいンだけど…あのコは自分に捕らわれすぎてるんだ」
「他人を見ようとしない?」
 大川の言葉に睦月は呟く。勿論そう思ってではなく、あくまで可能性の問題だ。
「いやそうじゃない。"自分の力はこれくらいで、それを超えてもなお足りない。成長しなければ、強くならなければ"って、一種の強迫観念なんだよ。自分は絶対に強くなって、他の人の役に立たなければ、一般の人々を助けなければっていう強い義務感に追われている。……そして皮肉な事に、それに追われている間は、あのコは強くはなれないんだ。一人じゃ限界があるのに、一人でやろうとする…これは"1"にも関係するんだけどね」
「………そう」
 睦月は何か考え込むように大川の話を受け入れていた。
「…案外冷静だね?」
 いつのまにか新しい煙草に火をつけつつ、大川は睦月に向かって呟く。
「えぇ…他の事や良いニュースを聞くまでは、何も決めるわけにはいかないから」
 睦月はいたって冷静にそう言い放つ。
―一人にしてしまったからかもしれない…そんな罪悪感を、微かに胸に感じつつ。
「…それもそうだね。それと…あンたは悪くない。気にしなさんな」
 大川はそう言うと、いつものようにニヤリと笑い話を続けた。

「まあ、あとはあっさりだよ。まずは1・問題の抱え込みから」
 数枚の書類をめくりつつ、大川は話を続ける。
「起こった問題…当然全部じゃなくて、自分も関係した事柄だけどね。その問題を抱え込む傾向にある。…ただ、他者に何らかの影響が出る場合はその限りではなく、あくまで個人的なもの…例えば、救えなかった罪の意識や、さっきみたいな自分の悩みや迷いの類、それから、自分が成し遂げられなかった事象かね。…そういうものに関して、他人に相談することをしない。皆無ではないが、 1割にも満たないだろうね。さらに、そこそこ上手く誤魔化すから周囲も気がつきにくい。これについても、良いニュースを聞くまでは結論を待って欲しいね」
 一息にそこまで言うと、軽く深呼吸をして、息継ぎのように煙草に口をつける。
「…そう。もっと、相談に乗ってあげられるように気遣えばよかったわね…」
「なァに。聞いたところでなんでもない大丈夫って来るだけさね。…アタシもそうだったし、殆どの人はそうなる。仕方ないんだ」
 後悔している様子の睦月に、大川はあえて明るい(だがどこか気だるげな)声でフォローを入れる。
「……そうね。…それで、二番目のは?」
 うん、と軽く頷き、大川はさらに別の書類を手に取る。
「あのコは個人で努力をするが、孤独を愛している訳じゃない。…要するに、ひとりぽっちでは自分に押しつぶされてしまうから、無意識に避けているんだろうね。だから、孤独というものを強く拒絶する…これは物理的な意味じゃなくて、概念的な意味で、ね」
 大川はそこで一旦言葉を切ると、睦月を見やる。
睦月は軽く頷き。
「…いいわ、続けて」
 大川もまた軽く頷くと、話を続けていく。
「で、集団への恐怖…ってのは、まぁそのまんまだ。大人数の中に身を置くことに、大なり小なり恐怖を感じる。だから行事も避けがちだし、あるとき突然それが強くなって、精神的に疲労することもあるみたいだね。…つまり、今言った"孤独の拒絶"と矛盾してしまう。その矛盾が一番の問題さね」
「…一人でも、一人じゃなくてもダメって事ね」
 大川が言い終え、睦月が呟く。
「ま、そんなとこ…ただまあ、これは交流で慣らしてしまえば良いから、どうしようもないように聞こえても意外と大したことはないよ。あのコも、別に人嫌いって訳じゃないしね」
 言いつつ、大川はもう一山の書類に手をかける。
「さあ…次は良いニュースだよ。…何、少しは心配も晴れるだろうさ」
 何だかんだで暗い表情をしていた睦月に、大川はおどけるように言ってみせる。
「そうね……期待しておくわ」
 その心遣いを感じつつ、睦月は微笑を浮かべつつ答えた。

「まず…当初あった不安定さはほぼ解消されたよ。別の…悪いニュースのほうので、いくらか不安定な部分はあるけど、大分安全だと思う」
 夕暮れで止まっていた時間は徐々にその流れを取り戻し、今ではごく普通の流れとなっている。
大川にしてみれば、かなりの収穫といえるのだ。
「そう…良かったわ。うちの魔術師は、どうも不安定になりやすい傾向があるから…」
「イメージの力…いわば、イメージを現実にフィードバックして力を行使するんだ。そりゃ不安定にもなるさ…とりあえず、その特有の状態からは抜け出せたし、もう心配しなくていいよ」
 想軌。イメージの力を術式によって具現し、行使する魔術。
力が強いということは、それだけ現実に干渉する意思の力が強いことになり、それは境界線が曖昧であるとも言える。
幼い頃よりその修練を続けてきた芹は、特にその影響が強かったのだ。
「ありがとう。…あなたのお陰ね」
「まあ、話してたら勝手に直ったようなモンだからさ、気にしない気にしない」
 睦月の礼に、大川は照れたように手を振りつつ苦笑いをする。
そしてそのまま話を続ける。どうも照れくさい。
「んで、次…実は、これが悪いニュースを打ち消す要素なんじゃないかと、アタシは思ってるんだけど…」
 そこで一旦言葉を切ると、睦月を見ながらニヤリと笑い、
「友達に恵まれてるようだよ」
 やや緊張気味だった睦月の気配が一気に緩む。
「そう…良かった…」
「なんだかんだで、交友そのものはまともに出来るからね。一緒に買い物に行ったり、ふざけあうこともあるみたいだね」
 そう話す大川の表情は、どこか楽しげだ。
「良い友達が出来たのね………なるほど…それで悪いニュースが…」
 睦月も微笑みながら話し、同時にどことなく納得する。
「そう。…実際、別に根拠はないんだけどね…ただ、あのコらなら、アタシじゃ出来なかった事…今日の悪いニュースだね。それを解決する手助けになってくれる…って思うのさ。ムシが良い話だとは思うけどね」
 そう言って、紫煙を一服。
「…そうね。私たちが手を出すより…そのほうが良いでしょうしね」
 睦月も微笑みながら頷き、大川に同意する。
「そういうこと…っと、そろそろ時間かね」
 大川が書類を片付けつつ、時計を見て呟く。
「そうね…葉子、今日はありがとう。…少し安心できたわ」
 睦月も帰り支度を整えつつ、大川に礼を言う。
「いいっていいって。後半はアタシも趣味みたいなモンだったしさ……あ、マズイ」
 手をひらひらと振りながら答える大川の動きが、突然止まった。
「……どうしたの?」
「悪いニュース……ひょっとしたら一番大事なことを忘れてたよ…」
 深刻な表情の大川に、睦月の笑顔が消える。
「……何?」

「……恋愛に興味がないってか、鈍感らしい。自分にそういう感情が芽生えることを想像することもできないみたいでね…映画や小説なんかのことは分かるみたいだし、他人のそれを知ることも出来る。でも、自分にそれを抱かれたり、誰かを好きになるって感覚が分からないみたいなんだよ……このままだと、ずっと一人身」

直後、大川の頭に書類が叩きつけられる音が、景気良く響いた。



                 ―「現行時流。過ぎた日々の偶然・潜んでいた意図。」 完―

 あとがき

 こんにちは。
実は皆さんに謝らなければならないことがあります。
結局いつものノリでしたごめんなさいー!(土下座!)
いやはや…大雑把な話は頭に出来ているものの、それを整理せずに書くという悪癖は結局そのままのようです。

 色々小難しいことを書いたものの、結局は交流こそが一番という事ですね。
ちなみに、なぜ先生が芹の私生活(というほどでもないですが)を知っていたかは、次のお話で説明する予定です。
また、あくまでもss展開なので、普段のRPには全く気にしなくてOKです。混ぜると色々厄介ですし(笑)。

 それでは、今回はこのあたりで失礼します。
よろしければ、またお出かけ下さい。
それでは、ごきげんよう・・・

悔恨。勝利は手の中へ、願いし強さは遥か彼方へ。


 土蜘蛛・天輪衆・リリス混成軍の撃破。
9月28日の午前9時から開始し、同日午後21時40分ほどに終息した、四国での決戦の成果だった。
リリスの指揮官にあたる、『揺籠の君』には逃亡されてしまったが、天輪衆の頭目、および朝比奈・瑞貴の撃破には成功していた。
 成果は十分といったところだろう。
3つの敵組織のうち、ふたつを撃破、残る勢力にもそれなりの打撃を与えることができたのだから。

 だが、それは大局で見た流れである。
無論、大局での勝利とは戦闘の勝利を意味するが、個々人では必ずしもそうではない。
例えば倒れた仲間のため。例えば、力尽き命を落とした者達の弔い。
『全体の戦争』のほかに、『個人の戦争』が存在する。
そして、それを果たすことが出来ず、勝利に酔えない者達も少なからず存在する。

 巫名・芹もその一人だった。
彼女は戦闘終了後、打ち上げにも顔を出さず、郊外の公園で、自らを省みていた。

 後援部隊の補助から戻り、戦列に復帰した際、重傷に倒れた仲間の”想い”を受け、果敢に戦った。
そのおかげか、芹本人は(完全に無事とは言えないが)大きな被害を受けず戦い抜くことができた。
それはその”想い”のお陰であり、芹もいたく感謝している。もし無ければ…命を落とした可能性すらあったのだ。

 しかし、それはあくまで”想い”を託した者と託されたものという意味での戦いである。
芹には芹の……満たされぬモノがあった。

――恐れた。
――臆した。
そして――倒れた。

 無力。
その言葉が浮かぶまでに、そう時間はかからなかった。
確かに、最終戦では圧倒的なまでの戦力差があり、敗北そのものは仕方が無いと言える。力量でカバーできるものではないのだから、力不足を嘆く必要も無い。

 そう、問題はそこではないのだ。

臆したこと。 恐れたこと。
さらには、それすらも”あれでは仕方がない”と逃げようとすること。
それが……その弱さが許せなかったのだ。
 可能性を求めて向かったのではなかったか。 可能性を信じて向かったのではなかったか。
その通りである。可能性を求め、信じて、リリス達の本拠へ乗り込んだのだ。

 だが、実際はどうだったか。
臆したのだ。自らが求めた可能性など、幻想に過ぎないのでは無いかと。
恐怖したのだ。可能性を信じきれず、厳然とした”死の可能性”という現実に。

 思いつつ、芹は左手をそっと握り締める。
そして、思わず笑みを漏らす。
「この手は…」
―何を取ろうとしたのでしょうか。そう言いかけて、やめた。
―何を取ろうとしたか等関係ない。…臆し恐れた事で、何かを得る可能性を自ら放棄したのだから。…そう、思ったのだ。

 もしも、自分に全てをかなぐり捨ててでも可能性を追う力があったなら。
 もしも、自分の命を薄めてでも、決意を貫く強さがあったなら。
 もしも……怯え恐れることをねじ伏せる強さがあったなら。

 結果は変わっただろうか?
答えはNO。あるはずがない。
「もしも」等という幻想に浸る甘い自分に…救いなど、無いのだ。

 可能性を追う力が無いのだから。
 命を薄める勇気など、かけらも持ってはいないのだから。
 人にさえ怯えている自分に、恐れをねじ伏せる強さなど……ありはしないのだから。

 左の手のひら。皮膚が破れた箇所から赤い血液が流れ、指を伝い、その隙間から一滴、二滴、地面へと滴り落ちる。

 だから、「もしも」等無い。
何も無いのだから、変化も無い。つまり、無意味な思索。

「・・・・・・」
息を吐く。
その表情は、未だかつて他人に見られたことの無い……暗く、負の気配に包まれていた。

 部分的敗北。個人的な感情。
それが異様なまでに胸に突き刺さる。
己の弱さ、愚かさ、矮小さ、甘さ、未熟さ…
勝利の気配を感じつつも、振り返らずにはいられない…そんな、未熟さ、弱さ。

 強く、なりたい。
そう思った時、芹の脳裏に何かが浮かび上がる。

『敵を攻撃する際は油断なく情け無用一撃必殺。簡単だよ。キャベツを切るように頭を割れば良い』

 判然としない記憶。
その存在すらあいまいな…しかし、確かに今の自分を支えるモノ。

『想軌がうまくいかない?…簡単に考えれば良いんだよ。「燃え尽きて死ね」って、それを考えつつ…放つのさ』

 決して口にはしないその名前。
それはそういう約束。

『…ボクはさ、本当は……に、………あ……を……たかった………』
かすんだ記憶。

『芹!こっち!睦月さんがフライパンで切り開いてるから!はやく!』
手を引く、少しひやりとした手。
白い手と、白い手。

『……ボクの事は秘密にして。…それが、ボクと芹の約束、ね?』
生まれてはじめての、秘密というモノ。

 遠い記憶…そう、大川音楽教室に行く、そのさらに数年前。
本家に居た頃、芹に”力”の扱い方を教えた人物。
――布都・薺(ふつの・なずな)
そして、ひとつの言葉を思い出したのだった。

『怖くても、怯えても良い。だけど、前へ進むこと…先を求めることをやめないで。…今前に進んでさえいれば、いつかは辿り着けるから、ね?』

 大川のように、多くの事は教わらなかった。
ただ、共通している部分がある、そんな人物。

「大丈夫、あンたは強いよ」『大丈夫、芹は強い子だよ』
脳裏に、二つの声が同時に響く。

 つぱ。
左手を開くと、手のひらに食い込んでいた爪が、激痛と共に血液をあふれ出させていた。

「…思い出は振り返っても、立ち返るものでは無いのですが…」
そう呟き、水のみ場へ向かう。
人気の無い公園と市街地は、その様を見守るかのように静まり返っていた。

 手を流水にさらし、血液と痛みを洗い流す。
そうしながら、芹にはある考えが浮かんでいた。

―難しく考えすぎる、と。
いつだってそうだし、多分これからもそうだけれど、少しだけ変えてみようと、思ったのだ。

―恐れたって良い。
―怯えたって良い。
―但し、先を目指すこと。
たったそれだけ、である。

 歩きさえすれば、いつか目的地にはたどり着ける。
しかし、焦って一時的に全力疾走したとしても、そのあとで振り返り続け歩かなくなれば、結局目的地には着かない。

「…先生にも言われたことですね」
礎。築かなければ、結局何も出来はしないのだ。
同時に、積んでさえ居れば礎は形になってゆく。その意思に応じて性質を変えながら。

 血を洗い流し、左手に意識を集中。魔力を流し込み、傷を癒してゆく。

「……さて。暗い顔はもうやめ、ですね」
一人きりの時にだけと限定しているその表情を、両の手で軽く叩き、深呼吸。
目を開き、仲間たちが休んでいる拠点をまっすぐに見るその表情は、先ほどよりも幾分か晴れやかだった。

「来年から高校生ですから……こんなことで立ち止まっていてはいけませんね」
そう呟くと、拠点へ向かって歩き出す。

 そう、立ち止まることだけは避けなければならない。
逆に、歩き続ける意思さえあれば…いくらでも悩めば良いのだ。

 そう思いながら芹の背中を見送る、ひとつの人影があった。
直後にその影は掻き消え、いずこかへと…消えた。



                        ――悔恨。勝利は手の中へ、願いし強さは遥か彼方へ。 完


あとがき

 複数の話に渡る複線っぽいのやってみたいなー・・・
ということで書いてみました(おいおいおい)。

 普段それなりに朗らかで明るいけれど、一人の時には相応に悩んだりしている…ということと、
新展開っぽい感じの演出…だったらいいな・・・!

 ちなみに、「回想録」シリーズの後日談は忘れたわけではありませんので、ご安心(?)を。
むしろこれに絡めたい気分です。頑張ります。

 と、ひどい動機と勢いで書いたので、そこまで語ることがなかったりします。
よって、このあたりで〆とさせていただきます。

もしよろしければ、今一度お付き合い下さい・・・
それでは、ごきげんよう。

初夏。涼風駆ける森にて。(試験的ssです。期待せずにどうぞ)

――草を踏みつけ、駆ける音。
――軽く乱れ、やや不規則になった呼気。

――草の上を駆けるような、軽い音。
――獲物を狙い、喉奥から漏れるような唸り声。

 巫名・芹は走っていた。それも全力で。
後方には3匹の、やや暴走気味な剣狼。さらにその後方には2体のリビングデッドと…大変にまずい状況であった。

――事の発端は、夕涼みに森を散歩し始めたことだった。
以前は酷く迷ったことすらあったが、今となってはまるで庭…とまで行かなくとも、屋敷「時流四季園」の周辺はある程度頭に入っていたし、何より森を歩くという技術が向上している。
 そんな余裕もあって、”今日はちょっと遠出してみよう”などという考えが生まれ…実行した結果がこれである。

 森の中にはゴーストに滅ぼされた廃村があり、そのまた奥には、未だ多くのゴーストたちが蔓延っているという話である。
 この日芹は、前者の廃村…すなわち、「一応は」ゴーストから解放された区域を散策していた。
そのうち復興…は相当難しいと思うのだが、それでも弔ったり掃除したりするのには、村の構造を把握することは重要である。
…とはいえ、深入りすれば危険である。夜が遅くなる前に帰ろうと、芹が村を出ようとした時。

――。

 物置のような小屋の一つから、微かな物音。
安全な区域だという油断、そして好奇心もあって、遠巻きながら芹はそこを覗きこんでしまった。すると――
 そこには、どういうわけか2体の男性のリビングデッドと3体の剣狼がおり、こちらに気付いた剣狼が、すぐさま恐ろしい速度で駆け出してくるのが見えた。
幸いな事に距離は近くはなく、剣狼の初撃より早く"起動"、離脱し、距離を取ることができた。
結果、剣狼と後続を分断することに成功し…どうにか体制を立て直せそうな状況まで漕ぎ着けたのである。

 だが、"起動"しているからまだ何とか持っているが、芹は元々、持久力や筋力が優れている訳ではない。むしろ、その欠点を補うために速度や柔軟性を持っているようなものである。
故に、こういった「長距離を」疾走する等といった行動には向かず、早々に別の対応策…つまり応戦をするタイミングを掴まねばならない。

「…そろそろ、でしょうか」
後ろを確認すると、近くに剣狼が3体。やや遠くにリビングデッドの姿が二つ見えた。
充分に距離をとれたと判断し、この場で剣狼を撃破することを決断。足を止め、手にした刀を正眼に構える。

 突如立ち止まった獲物を目掛け、まず一体の剣狼がその速度をさらに高め、跳躍。肩の刃をもって、その脇腹を貫こうとする。
立ち止まれば好機と飛び掛ってくる――実戦経験の浅い芹でも、その程度の察しはついている。
 となれば、あとはそれに反応するだけの感覚と敏捷性の勝負である。
正眼に構えた刀を下へ流し、同時に刃を返す。直後――下から払い上げるような斬撃。
 予備動作を最小に抑え、しかし高速で振るわれたそれは剣狼の肩口を捉え、双方の勢いもあって深々と切り裂き、跳躍の勢いを殺いで、その向きを脇へと逸らさせる。

 一体目の剣狼が短い悲鳴と共に目標の脇をすり抜け、草むらに突っ込むと同時に、その草むらから二体目の剣狼が芹の背後を、別の草むらからは三体目の剣狼が右側面を狙い飛び掛る。
 ――高速で確実な連携…切り払うにはやや時間が足りない。
そう判断した芹は、まず身体を左回りに旋回。刀の柄を持つ左手の手首を押さえるように右手を添え、背後から飛び掛ってきた剣狼を柄で横殴りに打ち据える。
その勢いのまま三体目の剣狼へ向き直り、刀身でその牙と刃を受け止め後方へ流す。

「危ない…」
呟きつつ右手を二体目の剣狼へ向け、術式とその軌跡をイメージしつつ、指先で起動式を編む。
直後、描かれた術式から炎弾が放たれ、態勢の整わぬ剣狼を直撃。さほど派手ではない爆音を響かせ、魔力の炎を煌かせながら剣狼を包み…その活動を完全に停止させる。
 そして、先程後方へ流した剣狼が再び死角を狙おうと、姿勢を整え跳躍――する直前に芹が向き直り、鋭い踏み込みと共に刀を一閃。加速された斬撃は的確に剣狼を捉え、妖獣の苦痛から解放する。

「ふぅ…」
一息つき、走ってきた方向を見遣る…まだリビングデッド達の姿は遠い。が、油断は許されない。
 右手で中空に起動式を描き、放った魔力が術式を通して自身に循環するイメージを投影する。
直後、魔力が逆流。身体の疲れが癒されると共に、魔力が強化されるのを感じる。
それに伴い、余剰魔力の活用によって身体能力――俊敏性や反応速度等――が強化され、より戦闘に純化されていく。
「…先に謝ります。ごめんなさい…」
呟き、向かって左側のリビングデッドへ右手を向けた。

「蒼き光、我が指先に宿り、絵筆となりて術式を描け…」
炎弾と軌跡をイメージし、さらにイメージを強めるための詠唱を呟き、指先で起動式を描く。
直後に火線が延び――リビングデッドの胸部を打ち据え、一撃で地面へ沈める。
 それを確認し、芹はもう一体のリビングデッド目掛けて疾走。
横薙ぎに振るわれた何かをすんでの所で回避し、カウンター気味に斬りつける。
だがやや浅く、リビングデッドは一瞬よろめくと、振り抜いていた「何か」を強引に芹の腰元目掛け叩きつけようとする。

「…っ!」
 踏み込みが浅かった事、そして反応し飛びのいた事が幸いしたのか、直撃は免れた。…が、脇腹に鈍い痛みが走る。
右手で触れると痛みがずきりと響き、その指には赤い血液がついていた。
「っ…危なかったですね…」
 見ると、リビングデッドの手には血錆の浮いた、大振りの鉈が握られていた。
回避できたから良いものの、万一直撃すればタダではすまないだろう。
 だが、不意を突かれさえしなければそこまで恐ろしくはないはずだ。
”当たらなければどうということはない”と、クラスメートが言っていた気がする。その通りだ。
 その鉈の軌道に警戒。相手の行動の癖や戦術を読みきろうとする。
が、その攻撃は想像以上に速く、思いのほか隙が無い。半端な回避で態勢を崩せば、致命的な打撃を受ける可能性すらある。

「…っ」
 肩口を鉈が掠める。
後方へ飛び退き距離を取りつつ、反撃の機会を伺う。
…攻撃そのものは大振り。その腕力で強引に勢いを捻じ伏せ、連続的且つ高速な攻撃を放っているようだ。
 とすれば、腕力と勢いが乗り切っているタイミング…振りぬく瞬間は隙が生まれると考えられる。
相手は人間ではないためにスタミナだの筋持久力だのは関係ないため、その隙はかなり小さいだろうが。
「それなら、それを大きくすれば…」
 小さく呟き、刀を構える。
対策は考え付いた。あとは実行するのみ。

 リビングデッドが、芹に向かって鉈を振り下ろす。幾度目かの攻撃。
芹はそれを射程ぎりぎりで回避。同時に、鉈の背にあわせるように刀を乗せ、そのまま地面へと勢いを加速させる。

 どざっ

 鉈が鈍い音と共に土中へ突き立ち、リビングデッドの体勢が崩れた。
その顔は芹のほうへ向き、口からは何かうなり声のような…恐らくは怨嗟、が聞こえてきた。
それを動力とするように鉈を引き抜き、目前の敵をたたき割ろうとする。
…が。
「ごめんなさい…」
 術式を描き、軌跡と魔弾をイメージし、呟く。
「そして…おやすみなさい」
 そう言い終わるのと、放たれた魔弾が爆ぜ、リビングデッドが倒れ伏すのはほぼ同時だった。

 周囲を見渡し、油断なく気配を探る。
剣狼とリビングデッドは撃退し、森には静けさが戻ってきたものの、今の気配で新手のゴーストが出現する可能性もある。
「……大丈夫そう…ですね」
 探っても、感じられるのは風の音、虫達の声、木々の音…
少なくとも、危険な気配はもう感じられなかった。

「…ふぅ」
 装備をイグニッションカードへ戻し、芹は屋敷へ足を向ける。
歩きながら、倒したリビングデッドと剣狼の冥福を祈る。死者や動物に深入りしてはいけないと良くいわれるから、あえて簡単に。
「どうか…安らかに…」

 次いで……夕食のメニューを考えていた。
もしかしたらもう済んでしまっているかもしれないが…それでも。
「それでも…ひょっとしたら、皆さんを待たせてしまっているかもしれませんからね」
 呟き、屋敷へ向かう足をほんの少し早める。
軽快な足取りで日常へと帰ってゆく。
屋敷へ戻れば、楽しく夕食を食べて、ゆっくりと布団で眠れる…等と考えながら。

「さて、早く帰って夕食の準備、ですね」


そして、初っ端の全力疾走が仇になり、結局迷った芹が屋敷へ戻れたのは、それから40分も経ってからの事だった。

対抗する為に必要なこと~要点纏め~

 森の中の屋敷…



 ここは巫名・芹の私室。
きちんと片付けられ、テーブルの上にはいくらかの簡単なお菓子――アメだとかマカダミアチョコだとか――が置かれており、その近くには丁寧な字で書かれたメモ書きも置かれている。

「週末の戦いに備えて準備をする方に、私が所有する詠唱兵器をお譲りします。勿論、ゴーストタウンに行く為だったり、学園黙示録のためでも構いません」
その近くにもう一枚。思い出したかのように書かれている。
「ただ、出来ることならば決戦準備、及びゴーストタウン対策の方を優先していただけると良いかもしれません。命に関わることですので・・・」
ここでメモは終わっている。

 普段はしっかりとロックされている詠唱兵器用クロゼット(注:キャビネットではないのは仕様です(笑)の鍵は外され、開くことが出来る。

――調べますか?  Y/N

 クロゼットの中には詠唱兵器が納まっていた。物によっては、うまく活用できることだろう。
君は持ち出しても良いし、そっと閉じても良い。
家捜しは構わないが、痕跡を見つけたら巫名・芹は驚くだろう。なぜなら、そんなことされるとは夢にも思っていないからだ。

 以下、クロゼットの中身(持ち出した場合、コメントにつけて頂くと助かります。)

大きな収納スペースには、いくらかの武器がきちんと保護布に巻かれ
そして、いくらかの防具もまた、丁寧にたたまれて収納されていた。

A・長剣が置いてあったようなスペースがある。…そこには、書置きも置かれていた(済)

B・残光無銘声楽杖(Lv28):武器威力:25/52/58 Pw:or8syatx

C・殺害ギター(Lv32):武器威力:63/38/64 Pw:spsp5wz8

D・陽炎破魔プロテクター(Lv28):防具効果:184/98 Pw:mzfg8anx

E・不動超重毛皮(Lv25):防具効果:73/182 Pw:frmnesmv

クロゼットの引き出しには、丁寧に布に包まれた銀塊が入っている

銀A:銀塊9000 Pw:rgvdn8ew

銀B:銀塊9000 Pw:dgfbv64k

空スペース:何か置いてあった形跡があるが、今は破りとったようなメモ用紙だけがある(済)

そして、クロゼットの扉の裏側には、
「合成でも、そのままでも、ご自由にお使い下さい。…どうか、ご無事で。健闘をお祈りしています」
と書いてある紙が貼られていた。

 返礼は必要ないだろうが、無事に帰る必要はあるかもしれない。
そう思いつつ、あなたはいくらかの詠唱兵器の中からひとつ、或いは幾つか、もしくは何も取らず、部屋をあとにした…


(以下まとめ)
詠唱兵器の提供スペースです。
全体的に微妙なものが多いですが、お許し下さい(汗

◆ルール◆
物はしょぼんですが、一応ルールを。

受け取った場合、コメントにその旨を残してください。事務的にでも、RPでも、箇条書きでも何でも、残してくださればOKです。

*同時に、コメントがついたもの(誰かが受け取る意を表した/受け取った)に関しては、以下で説明する「済」がついていなくとも、Pw戻しはご遠慮下さい。

*むしろ、受け取り表明後は速やかにPwから戻してください。

*個数は制限しませんが、取りすぎ注意です。ただ、日数が空いてもまだあるなら、追加で取っていただいて構いません。

*可能性は低いですが、何か追加した場合は青文字で強調します。

*提供(コメント)が確認されたものは、末尾に「済」と付け、Pw表記を消去します。


春と夏の狭間。夜、森の中にて。

 普通、人は迷ったりしないよう、あるいは日没までになんとか帰還しようと試みる。
結果、よりドツボに嵌る可能性も高いのだが、普通はそういう行動を取る。
なぜなら、「行動することにより解決する可能性」を信じているからである。もっとも、これ自体は様々な事柄にいえるのだが。
そして何より、「迷ったり、日没までに帰れなくなる可能性」そのものを回避するのが最も良いとされている。
なぜなら、「迷ったりしなければ、そんな試みは不要になるから」である。せいぜい、普通に帰宅出来る程度の時間を確保するくらいであろう。

 だがもし、それらを考慮して――つまりは、道をそれなりに覚える努力をし、妙な横道に入ったり、転落しないように注意して、さらには懐中時計も確認して――いたのにもかかわらず、迷ってしまった。日没までに帰れる確証がない。というかぶっちゃけ日は落ちた。…そんな状況になると、全く持って予想外の展開に少なからず余裕を奪われ、さらに迷う…そしてドツボの始まりで、さらに焦って…
 そんな遭難スパイラルは、そうそうあるものではない。念入りにしていれば、相当なことが無い限りは、そんな状況にはならない。
それにここは郊外の森である。本当に迷うほうがどうかしていると言える。
昼間には散歩する老人だっているのだ。…当然、ごく浅い部分だろうが。

「…どうかしています…」
蒼い長髪を揺らし、肩にはギターを入れたケース。手には足元を確認するための太い枝。
表情は普段のまま…に、疲労と焦り、そして心細さを滲ませ歩くのは、巫名・芹。銀誓館に通う中学3年。
足取りは重く、余裕のない状況にあることを全身で物語る。
「なんで迷っちゃったんでしょうか…」
全く心当たりが無い。準備は万全だったし、妙な横道などに入った記憶もない。
すくなくとも、「うっかり」迷ったという訳でもない。恐らく。
「…考えても仕方ありませんね」
取り敢えず歩く事にした。座していても、自動的に地面が動いたりして帰れるわけではないのだから。
人が通ったような形跡――踏み固められた地面とか、不自然に折れていたり、採取されている植物とか――を探す。
「……?」
少し遠めに、何か…屋敷らしきものが見えた。しかもかなり大きい。
「…道を訊けそうですね」
希望がはっきりと見えたためか、表情が緩む。
かといって不注意で転んでも嫌なので、ゆっくりと慎重に屋敷へ向かう。

 そして道を尋ねることとなるのだが、よもや、同じ寮の先輩が出てこようとは、このときには夢にも思わなかった。


初めての寮生活。その傾向と対策…そしてこれから

”風月華”
長い石段を登って行くと、そう書かれた看板。そして寮長さんである華神さんの姿が見えてくる。
…先日初めて来たとき、入寮手続きの確認に集中しすぎて、蹴つまづいて華神さんに突っ込んでしまったことを思い出す。
挨拶を交わしてすれ違うのだが、どことなく気恥ずかしい。いきなり失敗を見られてしまっただけに、なんとなく照れくさく感じる。
そんなことを思いながら、元旅館の風情――といっても、賑やかさで彩られてはいるけれど――がある玄関口へ向かう。

 玄関を抜け、廊下を進む。途中で知らない人とすれ違うときにも挨拶。これは大事。
部屋の場所はきちんとメモをとってあるので安心だ。…実は未だ覚えていなかったりする。
階段を5つ登り、”蘿蔔(すずしろ)の間”とある部屋を目指す。そこが私の部屋。…私だけの部屋。
親元を離れて暮らすのは初めてだから、結構緊張している。もっとも、親戚がいればいつでも緊張していたけど。等と考えているうちに到着。
 鍵を開けて、中へ。下駄箱に靴をしまいこみ、ふすまを開けて部屋へ。・・・そういえば、下の販売所でスペアキーを販売…と言うのかは分からないけど、置いてあった気がする。失くすと困るから、あとで頼んでおこう。
ふわりと、畳の香りが私を迎える。フローリング育ちの私には新鮮で、何だか楽しい。

 そう、楽しい。まだここに来て、大した時間は経っていないけれど。
閉鎖的で、平坦で、”魔術”というモノに囚われた人々。そのなかの教育や生活。親はそれなりに自由にしてくれていたけど、それでも家系というものは強い。年齢相応の遊びや時間は送ってこなかったようにすら思う。
 それでも、父親の説得でギターなんかをいじるような事は許された。性格は恐らく母譲りだと思う。
そしてつい先日、寮生活が認められた。母が説得してくれたのだという。…平和的にフライパンを以て。

 それからの流れは速かった。というより、入寮許可が出たと連絡を入れたのがまずかったのかもしれない。
まず、入寮初日に家具一式と寝具、私の趣味道具一式と詠唱兵器が運び込まれた。
次の日に私の衣服類。もっとも、替えの制服と、さして多くない私服…旅行カバンでも持てそうな量だったけど。あと何故か座布団8枚。母が買いすぎたものらしい…
 そして今日、また荷物が届いた。しかもキャンパス前にて、一抱えほどの包みを手渡しで。
一昨日、家具一式に紛れていた”ピーナッツもなか”みたいなよくわからない代物の可能性がある。よって、道中では開封せずに持ち帰ってきたのである。ヘンなものだったら困りますからね。
開封してみると、お蕎麦が入っていた。しかも、とてもじゃないけれど一人では食べられない量。手紙が同封されていたので呼んでみる。

「お引越し蕎麦って言うよね☆ 皆さんにお裾分けして、早く仲良くなるのよ」
と、書いてあった。「言うよね☆」じゃないってば。

 むしろ、これを無事片付けるにはお裾分けをしなければならないのは明白であり、この恐ろしい量のお蕎麦を配るのを見られたら、それはもう大混乱か爆笑の渦。私はとてもそれには耐えられそうにない。
「下に”明日を生き抜くためにっ”って書いた紙が貼られた机があったから、そこに置いてきてしまいますか…」
ぽつりと呟き、お蕎麦を包みに戻す。それを抱えて今度は階下へ。

 その途中の廊下でさえ、いくらかの話し声や笑い声などが聞こえてくる。楽しそうだな、と小さく呟き、例の机へ。どさりと置いてそそくさと退散。正直見られたくない。
 戻る途中、なんとなく庭に出てみる。春の暖かな風が吹き、石段や階段の昇降で汗の滲んだ額を心地よく冷やす。
周囲には季節の草花―あれはなんて言ったっけ―や、桜の木―これは知っている。ソメイヨシノというものだと思う。多分―があって、見晴らしも良い。
館内からは話し声や、誰かの大声、それから逃げるらしい声が時折聞こえてくる。どれも楽しそうで、どれも、今までの私の生活にはなかったもの。

――風月華――

 玄関まで周り、改めてそれを見上げてみる。
「風が歌い、月を詠み、賑やかなるは華の如し…なんちゃって」
…なんて、格好つけてみる。―そういえば、ここは綺麗な人がたくさんいるな、なんて思ったり。
 ともかく、これから長く…多分3年か、可能ならもっといたいけど、ここが私の”家”になる。
ここからキャンパスまで行き、ここへ帰ってくる。この、楽しさがあふれているように思う、この場所へ。
そう考えると、とても嬉しくなってくる。私は、そこの一員になったのだ、と。
 ただ不安もある。…私は、ちょっとだけ、知らない人と関わるのが苦手なのだ。
まず慣れることから始めなければいけない。どうしようかな…難しく考えてもダメだな、と早々に放棄。
寮長さんも、他の人も良い人みたいだし、きっと大丈夫。

 深呼吸。
夕暮れ時の暖かな空気が心地良い。
さて、と、部屋に戻るため歩き出す。足取りは軽く、なんとなく心も浮かれている。
先が明るいと、人は少し幸せになる、とどこかで聞いたから、良い事を考えるなと思う。
 本当は、そんなに明るくはない。残留思念とか、「常識外」の怪異と戦わなければならないのだから。
けれど、それでも大丈夫かなと思う。
こんな楽しい空気に包まれるならば、私は頑張れる気がする。
ここに来て、私の何かが動き出した気がする。

 誰かが石段を上がってきた。寮長さんがしたように、私も精一杯の笑顔…は、苦手だから、少し微笑んで。
「おかえりなさいませ~♪」
何か変な気がするけど…まぁいいや。

 そして夕暮れに染まる街を一望しつつ前へ出て、思う。
―これから、ここから、私は変わる…楽しく、強く―

 そして石に蹴つまづいて、あわや階段から転落しそうになったのは秘密にしておきましょうか…

―――以下、代理と巫名の解説(本編とは関係ありません)―――

代理「長っげぇ」
巫名「わ、私のせいじゃないですよっ!?」
代理「いや、お前がそんなこと考えてるから、文章力のない後ろのヤツが書き起こしたりするんだよ」
巫名「そ、そんな…っ」
代理「大体お前、何が「風が歌い、月を詠み、賑やかなるは華の如し…なんちゃって」だよ。お前みたいなぼんやりしたのが言っても説得力無いよ」
巫名「だ、だって、風月華っていう字を見てたら浮かんじゃって…」
代理「お前はもう、「風に吹かれて、月に見惚れ、転倒するは馬鹿の如し」とでも歌われとけ」
巫名「そ、それはひどいっ」
代理「はっきりとは分からんが、大量の蕎麦を置いてくるお前も大概だと思うが…」
巫名「ざっと…30人前くらいでしょうか」
代理「
多っ!?なんでそんな量…つっても、全然足らんか」
巫名「今現在(2008年4月21日)にて、199名ですからね…まだ足りません」
代理「足りるほど送り込まれても困るだろ…まぁ、今日はこの辺りで解散としとこうか」
巫名「そうですね。あまりしゃべって、コメントをつけられなくなっても困りますし」
代理「まぁ、読んでくれる人がいるかどうか…さらに、最後まで読むようなマザーテレサみたいな人がいるかどうかすら謎だが」
巫名「うぅ…でも、読んでもらって、しかもコメントしたかったのに突っ込まれきってるとか、失礼じゃないですか」
代理「大丈夫だ。まだ使われていなくて、かつ言われること確定の言葉があるから」
巫名「・・・なんですか?」
代理「駄文、駄作、ヘタレ」
巫名「ひどいっ。題材が私の生活なのにっ。ダブルでひどいですっ」
代理「つぅか言っちまったじゃねぇかっていう突っ込みは無しか」
巫名「…はっ!(今気づいた」
代理「ダメだこりゃ・・・」


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