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蒼の髪と銀の雨

PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。                                                                                                       ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」

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回想旋律。幾多の想いと一つの道。紅き夕日に何を見た

2008年 6月某日 快晴

 巫名・芹が大川・葉子に出会ってから、5年が経過したある日。芹は、大川に呼び出されていた。
本来なら講義(大川はそう言えと言っていた)はなく、教室に行く必要はなかった筈なのだが。

 大川は、最後の講義をするために、芹を呼びつけたのだった。

 こんこん。
いつもどおりに芹が扉を叩くと、いつもどおりに大川が扉を開け、にかっと笑って見せる。
「こんにちは」
「あいよ、こんちは。…ほら、早くあがんな。暑かっただろ?」
 言われて、お邪魔します。と断り、芹はいつもどおりに教室へ踏み込む。
いつもあった筈の煙草剣山は無く、いつも微かに漂っていた煙草の香りも無かった。
なんとなく違和感を感じながら芹が教室内を見回していると、大川が小型冷蔵庫からふたつのパック飲料を取り出した。
「ほい、いちご牛乳。…まぁ、座んなさいな」
 芹はいちご牛乳を受け取り、いつもの椅子に座ってストローを突き刺す。
”いつも”とは違う違和感を感じながら飲むいちご牛乳は、やっぱり少し違う感じがした。
「…それで、今日は何の御用ですか?」
 ストローから口を離し、芹が尋ねかける。
大川はというと、コーヒー牛乳を机に置いたままで、なにやら大きなケースらしき物を手繰り寄せる。
「今日は……今日は、講義じゃないンだ」
 ほんの少し、声のトーンが沈んでいた。加えて、表情も心なしか暗い。いつもの覇気が無い。
「というと…?」
「来週、引っ越すことになったんだ。週初めに」
 芹が尋ねかけ、直後に大川はそう言った。
――来週初めに引っ越す、と。

「……え?」
 初耳、である。
そんな話は欠片もしていなかったし、そんなそぶりすら無かった。本当の本当に唐突な知らせ。
「だから……講義は昨日で終わり、さ」
 大川はあくまで笑顔であったが、隠せない感情…寂しさや名残惜しさ滲んでいるような表情だった。
続けて、ケースを寄せてその取っ手を取りつつ、大川は独り言の様に言う。
「そんだからせめて……これを、あンたに渡しておこうと思ってさ」
 言い終えると、ケースごと芹に差し出す。
―大きさはギターケースといったところか。艶消しされた黒い革製の箱で、アタッシュケースのように上部に革製の取っ手が付いている。
縁には、これまた艶消しされた銀色のフレームが取り付けられ、高級感を漂わせている。
 いかにも持ち運びには向かない、豪奢で品のある作りに思えた。
「これは…?」
「……あンたの…そうさね……」
 大川が悩んでいる間に、芹はケースの留め具を外していた。まるで引き寄せられるかのように。
そこにあるものが芹の目に映った直後、大川の口から"それ"が何なのかが明かされる。

「あンたの…芹だけの、"手"みたいなモンかね」

 芹の目に映っていたものは、ギター、だった。
特にアコースティックギターと呼ばれるもので、本体の構造により音を増幅し、響かせる。
―まるで、心にある楽譜を、旋律にして何処までも届けるかのように。

「………」
 芹は言葉を紡げずに居た。
見たことはないのに、不思議と自分にピッタリ合うような感覚と…この五年間、ずっと使い続けてきた練習用のギターに近い。いや、全く同じ位の愛着を感じていた。
「あンたはそいつで、自分の礎を築き、旋律を編むと良いさ。…そうすれば、」
「受け取れません」
 大川が言いかけた時、芹は呟くように、しかしはっきりと拒否の意思表示をする。
「……受け取れない? そりゃまた…どうして?」
 大川は一瞬驚いた後、芹に問い返す。
「………」
 静寂。
クーラーの静かな音と、二人の微かな息遣いだけが教室に満ちていた。
「…だって」
 芹が漸く口を開く。
「だって…これは…」
 開き、目にしたときに、既に違和感を感じ取っていた。
それは、普通の楽器では感じられない感覚。超常とそうでないものの境目。

―それは、詠唱兵器だった。

 武器ではないが、持つものに恩恵を与える物品。能力者の間ではアクセサリと呼ばれるモノ。
このギターは、そういう物だった。
「これは……」
 芹は言葉に詰まる。
"普通"でないことに…気付かれてしまった。
変わっていても、会話が苦手でも、"常人"という枠内にはいられるものだ。――炎を放ったり、残留思念から生ずるモノどもを討伐したりしなければ。
 しかし芹は、そういう意味で"常人"から外れている。術式を操り、魔力で身体を強化し、刃を以って思念を討伐する。
本来知られてはいけない事実であるし、知られたくない事実でもある。
それを…ひょっとしたら、一番知られたくない人物に知られてしまったのかもしれない。
 否、確かにその通りだった。いつからかは分からないが、知られていた。
芹は、顔を上げることが出来なくなっていた。…どんな表情をすれば良いのか、分からなかったのだ。
「………心配しなさんな。あンたは強い子だ」
 そんな芹を見つつ、大川が口を開く。
「怖がらなくて良い。…5年前…それ以上か。あンたを初めて見たときには…"気付いてた"ンだからさ」
 気付いてた。その言葉に、芹は驚いたように大川を見る。
気付く。何に?決まっている。能力者だ。
「…アタシは昔からそういうのが見えちまう体質ってか、分かるンだ。…あー、こいつは"違う"な、ってさ」
 自分を見つめている芹に、大川は静かに切り出した。
「んで、あンたの事も見抜いてた。…あー、やっぱ怖いンだろうなーって、思ったよ」
「……」
 つまり、大川は。
「かと思ったら、随分ギターが上手いじゃないか。…まぁ、きちんと習っていない割には、だったけど」
 芹が、特異な存在だと分かっていて。
「…そんでさ、どうせなら気晴らし以外にもギターを使って、楽しく生きてもらいたいなーって思ってたからさ」
 声を、掛けたのだ。
「声、掛けたンだよ。あの日に、ね」
 そして五年間、講義を通じて。
「で、本当ならここを畳もうと思ってたンだけど…最後に役に立って貰おうと思ってさ。引き払わないでおいたんだ」
 様々な音楽や、大切なことを教えてくれていたのだ。
「そしたらいつのまにか5年も経ってたねぇ……で、今頃面倒な用事が入って、引越しをしないといけなくなったのさ」

 芹は、何も言う事が出来なかった。
あれほど、能力のことを知らせたくないと思っていた人物が、まさか最初から能力の事を分かっていて、まして…あんなに沢山の事を教えてくれたとは。
「まぁ、なんだ。…見ているだけじゃなく、手を差し伸べてやりたかったンさね」
 大川は、最後に照れくさそうにそう言うと、椅子から立ち上がり、芹の頭に優しく手を置いた。
「……どうだい?欲しく、なったかい?」
 つまり、このギターは、教室の生徒としての"芹"…そして、"能力者"としての芹への贈り物。
大川が手を差し伸べ、道を示し続け、最後に見せた道標。
…違う。道標ではなく、往く道を開く為、礎を築く為、そして旋律を編み、紡ぐ為の、いわば"手"であった。
「………あの…最後に、良いですか?」
 断る理由等ないが、最後に確認を取る。
「…何だい?」
 どうしても、気になってしまった事。それは…
「怖く、なかったのですか?…私が、そういう能力を持っているという事が」
 "分かる"とは言っても、実際に戦う能力は無いだろう。あったとしても、"見えざる狂気"に陥る可能性がある。
「…そりゃ、あンたの力は強いと感じていたけど…別に怖くなかったよ。…だって、あンたは……」
 芹が大川を見上げ、大川は微笑みながら芹の頭を撫でる。

「あンたは、アタシの大事な生徒なんだから、それ以外に思うところなんか無いさね」

 ただ、それだけだった。
それだけ言うと、大川は芹の頭から手を離し、自分の椅子に戻る。
「とと…さて…そろそろ本格的に引越しの準備をしないといけないから…」
 大川が続きを言う前に、芹がケースを閉じ、取っ手を掴んで立ち上がり、
「ありがとうございます」
 一言。深々と頭を下げつつ、芹は言った。幾つもの思いを込めて。
大川はやれやれ、といったように軽く冗談めかして。
「いいンだよ、お礼なんて。……もとより、それはあンたにあげる予定だったしね。…さぁ、早く持って帰って、寮や屋敷の人たちに一曲披露してやんな!」
 にかっと、いつもの表情に戻る。
「……はい…!」
 そう答えた芹も笑顔で、しかしどこか…凛、とした強さを感じさせる、そんな表情。
「よっし、いい返事だ。…悪いンだけど、本当にスケジュール押してるから…急かすようで悪いね」
 言いつつ、大川は片づけを始める。
「あ…はい。…それでは、これで」
 芹も芹で、いちご牛乳のパックを手に、恐らくはもうくぐらないであろうドアへ向かう。
勿論、貰ったばかりのギターと、そのケースも片手に。
「そんじゃ…あー…」
 どう言ったものかと、大川は言葉に詰まる。と、外に出た芹が、大川を振り返り、一言。
「先生……ありがとうございました。…また、いつか…」
 "いつか"が、恐らくは無い事を芹も察しているのだろう。
それでも、芹はそう言ったのだ。再び会える可能性を、少しでも信じて。
だから、大川も…答える言葉は決まっていた。
「あぁ……またどこかで会おうかね…そんじゃ、またね」
 そう答えると、芹は笑顔のままに大川へ一礼。そのままくるりと背を向けて歩いてゆく。
大川はというと、芹が角を曲がり、その背中が見えなくなるまで見送り、教室へと戻る。
「…あー…ガラじゃないねぇ、アタシも…さ……は、はは………コレ、あったかいんだねぇ…」
 そう言う大川の瞳には、生涯で初めての…涙が浮かんでいた。

2008年 7月某日

 夕暮れ時。
街中からやや外れた場所の、寂れた公園。

―ひとつ、音を紡ぐ。高く、細い音。
―ひとつ、音を紡ぐ。低く、強い音。
―ひとつ、音を紡ぐ。どちらにもつかぬ、中の音。

 随分長い間、旋律を紡いでいた気がする。気付けば、調弦どころか、本格的な演奏にまでなっていた。
その間に、様々な事を…そう、つい最近までの5年間を思い返していたのだった。
言葉にも旋律にも出来ないような、かけがえの無い時間。
「…先生」
 心細くないと言えば嘘になる。
5年間も。まして、様々な事を教わってきた、いわば恩師なのだから。
前置きもなく突然離れることになり、最後にギターを渡された。そんな、余韻すらはっきりしないような別離。

―一つ、音を紡ぐ。
 それでも、芹は振り返らない。
――一つ、音を紡ぐ。少し高く。
 振り返る必要など無く、まるで懐の文庫本のように、いつでも心にあるのだから。
―――一つ、音を紡ぐ。さらに高く。
 それに、振り返ってばかりでは楽譜が読めない。自分の旋律を紡ぐことが出来ない。
――一つ、音を紡ぐ。今度は低く。
 だから、立ち止まり、傷つき、時に膝を付こうとも。
―一つ、音を紡ぐ。より低く。
 決して、振り返らない。…そんな強さが欲しい。
―音が、止まる。今日はおしまい。

「だから…迷っている場合では、ない筈ですね」
 勿論、今も迷っている。
集いに怯え、かといって孤独を貫けない弱さを、芹は許せないでいる。
それでも、迷った末に行き着く場所もある。
―それに、そんな事で全てを投げるなんて事は。
「…先生に、失礼ですね」
 勿論、自分に関わってくれた全ての人にも、と芹は心で思う。
「…もう、こんな時間でしたか…」
 ここからだと寮の方が近いが……今は、静かな場所でゆっくりと、自分の旋律を確かめたい。そんな気分だった。

「…さて、早く帰らないと」
 ご飯の準備やお手伝いをしないといけませんね。と、心の中で呟きつつ、芹はギターをケースに仕舞いこみ、音叉も一緒に格納する。
「涼しい風…明日は雨でしょうか」
 郊外の森へ向かいつつ、芹はそんなことを呟く。
―風が涼しいと思ったら油断しちゃダメだ。雨が降るかも知れないからね。
そう教えてくれたのも、大川だった。
大切なことも、そうでもない事も、色々教えてくれた大川は、もういない。
「…つまり、私の手で…」
 或いは、友人や仲間と協力して。
「礎を固めて、旋律を…」

―刻んで行く。

 まだまだ、課題は多い。
集団というものには未だ慣れず、時に怯えが出るし、それを必要以上に気にかけている。
ゴーストらを討伐する能力や技術も、まだまだであろう。
それでも、一つずつ解決して行けば良い。…人生は長い。焦る必要は無いのだ。
そうすれば、きっと―

「きっと、良い建造物や、演奏会が出来ますね…」

 そう呟く芹の足取りは、公園に来たときよりも、幾分か軽いように思えた――


                  ――回想旋律。幾多の想いと一つの道。紅き夕日に何を見た 終――

あとがき

 …というわけで、連作ssはひとまずの区切りを迎えることとなりました。
後日談は、「後日」らしく、記事が繋がらない位置に記入しようと思います。

 相変わらず勢いで書ききる悪癖が出ていますorz
とはいっても、先生と芹の分かれ方は決して力尽きた為ではなく(笑)、「さっぱりきっぱり別れて、絶対に涙は見せない」という先生の都合だったりします。
 芹はちっとも泣いたりしない子ですが、先生もまた同様。しかして…様々なことを教えた芹に、最後に「涙=自分の暖かさ」を教えてもらった…というえらい分かりにくい比喩です(笑)
文章力があればもっと感動的に……!orz<精進します

 また、今回も勿論感想をお待ちしております。
良い点悪い点、そして勿論、感じたことをばんばん書き込んでしまってください。


 さて、今後の予定ですが。
バトンが回ってきているので、それをまず消化。
その後は、巫月蒼露の機能的な設定、そしてギターの設定など、オリジナル詠唱兵器の紹介。
そして、今回の連作ssの後日談…になります。
 半リアルタイム的な話になっているので(作中、芹が演奏していた日は7月の27日…つまり、記入した日です。丁度日曜日ですし(笑)、それっぽい時間が経ってから書くと思います。
逆に、予定日をいくら過ぎてもごまかしが効くという凶悪な書き方ですが(笑)、どうかよろしくおねがいします。

 それでは、今回はこのあたりで失礼します。
次回からはAと芹がメインでお話をするので、宜しくお願いしますね(何
それでは、またお会いしましょう。
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回想録。唯一つの音と唯一の旋律。

 それは、芹が大川音楽教室に通い始めてから4年が経過した時のことだった。
『音楽』というものに触れ続け、親しみ、そして言葉にしてきた4年間。
その時間を経て、芹はある疑問を抱いていた。

 それは、とても変わっているように見えて、実際変わっているのかもしれない。
自分が発する言葉。その音ひとつひとつに疑問を感じるものがいないように。
芹はそれまで、『それ』を自然と『そういうもの』だと思っていたのだ。
それが疑問に変わったとき…

3年前の話を思い起こさせる、『孤』と『個』の話が始まる。


 2007年 7月某日

――暑い。クソ暑い。
大川は芹を待つ間、教室の外に出て煙草をふかしながら、吐き捨てるように呟く。
「夕方だっつのに…こんなに地上をあっためて、お天道サンはどうしようってンだろねぇ」
 いつも身に纏う白衣が日射をいくらか跳ね返し、気持ちは少し楽ではあるのだが。
いくらなんでも暑い。暑いのだ。
「……ふー……全く…アタシも酔狂なモンだね…」
 わざわざ屋外で煙草を吸うのには、勿論理由がある。

 教室内で吸っても、換気扇を回している為に煙が篭ることはないのだが、それでも匂いは残る。
芹は慣れてしまったようだが、子供の教育上よろしくないのは明白だ。…冷房も無駄になる。
よって、大川は最近、屋外で煙草を味わった後、教室で待機することにしている。
「さて…そろそろ、かね」
 足元においておいたいつもの灰皿――もはや煙草剣山と呼べる代物だが――を拾い上げ、その灰と吸殻の中に、今しがた吸っていた煙草を突っ込む。
「…そろそろ」
 空を軽く見上げ、大川は呟いた。

「そろそろ、潮時、かねぇ…」


 大川が教室に戻ってからおよそ30分後。いつものように、芹が教室のドアを叩いた。
「こんにちは」
 そう言うと、律儀にドアの前で待っている。
これまでの4年間もそうだったが、大川がドアを開けに行く…つまり、迎え入れるまでは教室に入ろうとしないのだ。
「あぁ、こんちは。…暑かったろ?エアコン効いてるから早く入ンな」
 見ると、さほど汗をかいてはいないし、特別に疲れた、という様子も無い。
見た目に反して、環境適応力は意外と侮れないものがある。…かと思えば身体は強くなかったりするが。
「はい、失礼します。…そうですね。今夜は熱帯夜だそうですし」
 まあ、健康で居るんならどうでもいっか、と大川は結論付けて、自分のギターを手に取りつつ芹の言葉に応じる。
「うへぇ…そんな涼しい顔で言わないでおくれよ…アタシが暑いの苦手だって、知ってンでしょ?」
 ぐでっと脱力しながら言うと、芹がすかさず追撃を入れる。
「心頭滅却すれば、火もまた涼し、ですよ」
 誰だそんな言葉をこの子に教えたのは張っ倒してやろうか、等と訳の分からない言葉が頭を巡り。
「………アタシだ」
「?」
 大川は自分がそう言ったことを思い出すと、その呟きに芹が不思議そうな顔をしている間に、右手で拳を作り、自分の頭へ軽く振り下ろした。
暑さで半端に脱力しているせいか、微妙に小指を痛め、余計に脱力する大川であった。

 それから芹といくつか言葉を交わし、何だかんだで今日のレッスンが始まる。
もはやレッスンとは名ばかりの、教え子とのセッションになりつつあったが、これはこれで楽しいし、腕も上がる。
大川は自分に言い訳をしながら、いくつかの曲を提案しては一緒に旋律を奏でて行った。

 6曲目が終わったころに小休憩を取る。
あまり連続で演奏していては疲れてしまう。何事も余裕が大切なのだと、ようやく痛みが引き始めた小指を揉みつつ考える。連続演奏はダメだ。無理はいけない、と。…勿論芹の為である。

 前を見ると、芹が弦を軽く弾きつつ、何かを考えているようだった。
こういう表情の時は決まって何かあると、大川はこれまでの経験で感じ取っていた。

―即ち、芹に『なにか』を教える好機である、と。

「…どうしたン?」
 大川は、傍らの小型冷蔵庫からいちご牛乳を取り出し、芹に差し出しつつ尋ねる。
芹はそれを受け取ると、
「…すごく変な質問なのですが」
と、言い出しにくそうに答えた。
「変ねぇ…嫌じゃなきゃ言ってみな?案外、変でもなんでもないかもよ?」
 大川は後押しするように言うと、自分の分のコーヒー牛乳にストローを突き刺す。
「……音楽って」
 芹も、いちご牛乳にストローを……やや手間取って差しこみ、続けた。
「音楽って、何で……素敵なのでしょうか」
 芹はそう言うと、いちご牛乳を一口分、口にした。

「音楽が何で素敵か……って、…どういう意味だい?」
 大川もコーヒー牛乳に口を付けつつ、足を組みなおして聞きなおす。
「その…音楽を形作る音は…」
 いちご牛乳を持ったまま、空いた右手で弦を一つ、弾く。
音が一つ、二人の間に響いた。
「こう…一つの音、じゃないですか」
 大川はコーヒー牛乳を飲みながらも、真剣に話を聞く。
一見難解というか、意味の分からない質問ではある…が。
何か、大きな意味がある…そんな気がしていた。いつもの事だが。
「でも、音楽は…」
 芹はそういうと、いちご牛乳のパックを置き、ギターを構えて軽くリズムを取る。
体格は普通より小柄なくらいだが、椅子に腰掛けて足を組み、ギターを構えるその姿は、まるで一流の奏者のようですらある。

―流れる音。
―繋ぐ旋律。
まだ荒いところもあるが…それはどの楽譜にもない、心のままの演奏だった。

 最後に一音を綺麗に響かせ、芹はギターを置く。
「音楽は…綺麗です」
 ぽつりと、呟くように言った。
「綺麗で、時に荘厳で、時に勇ましく、時に…静かです」
 少し格好付けた言い回しではあるが…その表情は真剣だった。
「…音と音楽は……どういう、ものなのでしょうか?」
 最後にそういうと、いちご牛乳のパックを手に取り、その中身を飲み始めた。

「音と音楽…か。音楽はなぜ素敵で、音は音でしかないのに、その音楽を作れるのか…そういうコトかい?」
 コーヒー牛乳のパックを机に置くと、大川はそう確認する。
「…はい、多分そんな感じです」
 恐らく、芹にもよく分からないのだろう。
疑問に思っているのに、けれどそれを言葉に出来ない。…そんなことは、誰にでもあるコトだと大川は思っている。
 だからこそ、それを特別扱いし、『それはくだらないことだ』と切り捨てることは容易だ。何しろ言葉に出来ていないのだから、切り捨てれば反論など出来やしない。
だが。
「そうさね……随分前に、『礎と建物の話』したの…覚えてるかい?」
 言いつつ、さてどう説明したものか、と大川は頭をひねる。
例えに出すのは良いが、全く同じではいけない。
別の説得力、意味を示してやらねば、真に説明できたとは言いがたいからだ。
「はい、覚えています」
 意外なことに即答だった。
余程印象に残っていたのか、それともメモか何かとってあるのか。
―いずれにしろ、自分の言葉が伝わっているのは嬉しい事だ、と大川は思っていた。
「今の芹の疑問は…アタシが思うに、その話に近いンよ」
 さすがに結びつかないらしく、芹は少し考え込むような仕草を見せている。
「なんつーか…『音』が『礎』で、『音楽』は『建物』に近いかな」
 そう言うと少しは通じたのか、芹は軽く頷く。
「つまり…音を極めて音楽を作る…のですか?」
 大分通じたらしい…が、これでは礎の話と同じになってしまう。
「まぁそんなトコだね…ただ、ちょっと違う所があるンよ」
 大川はそう言うと、コーヒー牛乳に口を付ける。
つられるように、芹もいちご牛乳に口を付けていた。

 コーヒー牛乳を片手に持ったまま、大川は口を開いた。
「とりあえずは、似たトコから言うよ」
 そのほうが分かりやすそうだし、と思いつつ続ける。
「礎を固めて他人と何かを建てる…ってのと、音を重ねて音楽を作る…ってくらいだけどね」
 芹はいちご牛乳を両手で持ち、静かに頷きながら話を聞いている。
「まぁ、こう言えば似たようなモンなんだけど…違うところがあるんだ」
 大川がそう言いながら椅子に座りなおす。
と、芹が口を開いた。
「違うところ…ですか」
 疑問系ではない。なんとなく違いがあることは分かってくれたようだ。
その言葉に軽く頷き、大川は続ける。
「そ…礎は自分の『強さ』とか、そういうモンを固めるンだけど…」
 そこで一息入れて、コーヒー牛乳を一口。
ストローから口を離して、芹を見て続ける。
「『音』ってのは…心を込める為の『糸』みたいなモンなんだ」
 芹は、ただ黙って聞いていた。
だが…自分の中に入った大川の言葉が、はっきりと形を成すのを感じていた。

「糸…?」
 とはいえ、理解するには及ばない。
芹は一言だけ、その疑問を口にした。
「そう、糸…『礎』みたいに確固としたモンじゃないけど、人をあったかくしたり、安らかにしてくれる糸さね。それを使って、『音楽』…或いは『旋律』と呼ばれるものを『編む』ンだよ」
 一息に言いきり、コーヒー牛乳に口を付ける。
中身が空になったのか、空気が混入する音がして、箱がへこんだ。
「旋律を編む…」
 芹は、『編む』という言葉には深い縁があった。
…魔術師としての家系。その本家での8年間、学習という形を取って教え込まれてきた、術式の編み方や運用、それを用いた剣術や体術、そして『想起』。
…忌まわしいわけではないが、少なくとも今は関係ない事だし、第一自分の疑問に答えてくれている人の前で違うことを考えるのは失礼だと、芹は考えを断ち切る。
「…いいかい?」
 そんな芹の表情を見ながら、大川は尋ねるように話しかける。
「あ、はい、大丈夫です」
 芹は気を取り直し、姿勢を正して聞く姿勢に入る。
それを確認した大川は、もっと肩の力抜けば良いのに、と心の中で苦笑いしつつ、続ける。
「で、その糸…音ってのは、それを扱う人の心から生まれるンだ」
「…心を込めて演奏する…という事でしょうか」
 大川の言葉に、芹が問いかける。
まぁそんなとこだね、と頷きながら返し、
「んで、その糸を使って紡ぎ出されるのが旋律。心の集まりというか…心の力が連なったのが、その旋律ってとこかね」
 いつもの事ながら、こういう話は抽象的に過ぎる、と大川は思っていた。
それでも、芹はごく真剣に話を聞いている。まるでそれが必要だと言わんばかりに。
「前に…つっても、あンたがここに来てすぐの頃に、『大切なのは技量より心。頑張ろう、上手くなろう、綺麗な音を出したいって心が大事』って、アタシが言っただろ?」
 芹は頷き、技術はあとからついてくる、と補足を入れた。
すると、大川は苦笑しながら
「ああ、そんなコトも言ったっけね」
アタシが忘れたらダメじゃないか、と思いつつ言う。
「…まぁ、まさにそれなんだよ。たとえ技術的に不足…上手く編めなくっても、頑張って、心を込めて作った音や旋律ってのは、人の心に響くもんなのさ。下手でも手編みのニットが嬉しいと思う人は多いのと似てるね」
 微笑みを浮かべながら、大川は続ける。
「これはその逆…技術だけが先行してても同じでね、心が篭ってないとダメなんだ。それこそただの『音』になってしまう。どんなに上手く出来ていても、既製品のニットじゃ心は完全には届かないし、下手すりゃうわべだけの価値しかない」
 言いつつ、芹が何か言いたげにしていないかを確認。
芹は大川を見つつ話を聞く態勢だったので、そのまま続けることにする。
「『音』ってのは、本来何の意味もない、ただの空気の振動、力学的なエネルギーでしかないんだよ。…だからこそ、そこに込められた『心』がはっきりと現れるンだ。いつかのあンたみたいに、音を言葉の様に紡いで、心と言う旋律を編むことが出来るのさ」
 芹にとって、最後の例えはとてもわかりやすかったようだ。
実際、言葉でどう表したら良いのか分からず、とりあえず旋律にしてみるという試みは、今でもよくやる行動の一つだ。
「だから、そんな心の篭った音を編んで作られた旋律や音楽は、美しく聞こえて当然なんだよ。…心が心に伝わって、音と同じように響いているンだから、さ」
 やっぱり煙草が吸えないのは、こういう時に不便だ。一回くらいビシっと決めたい。
「………」
 大川がそんな事を考えていると、芹は何事か――今の言葉を自分なりに分かりやすく纏めたのだろう――考えて、大川に向けて言葉を発した。
「それなら…私の音楽も、誰かの心に響いているのでしょうか?」
 やや不安げな表情で大川に尋ねる。
「……少なくとも、アタシの心には響いてるよ。透き通った、綺麗で流れるような『音』が、さ」
 そう言う大川の表情は、優しく見守るような笑顔だった。


 それからおよそ6曲。
この手の話をすれば時間が削られるのは当然で、時刻は7時を廻ろうとしていた。
「うわ、やべ。親御さんに叩きのめされちまうね」
 大川はギターを仕舞いつつ、大げさに慌ててみせる。
「大丈夫ですよ。お父さんもお母さんも優しいですし、話せば分かってくれます」
 そう微笑みながら話す芹に、冗談だよ、と突っ込みたくなるが、そこは我慢。
あんなに面倒な話を抱えるくせに、こういうところは妙に素直で、そのギャップが少し面白い。
 だが、それも芹の『旋律』だろう、と大川は結論付けて、芹を玄関口まで見送る。
「んじゃ、また明日来なね」
 いつものように見送り、
「はい、また明日もお願いします」
 いつものように芹が返事を返し、軽くお辞儀をして帰って行く。
その後姿を眺めつつ、大川は煙草を口に咥え、マッチで火を点ける。

――あと一年くらいかね。
刻一刻と、確実に迫るその時を感じつつ。

 今は、あの純粋で複雑な少女との時間を楽しむことにしよう。
そう考えながら、大川はドアを閉じた。


                            ――回想録。唯一つの音と唯一の旋律。 終――

あとがき
 今回はきちんと目が覚めた状態でしたよっ(何

 と、いうわけで連作第二話(プロローグ含め三話)です。
このお話では、芹が「心のままに演奏する」ことになった最大の理由についてのお話…のつもりです。
『糸』と『編む』ことについては、あくまで話の導入として使っただけで、あまり大きな意味はなかったりします(笑)

 いつもの事なのですが、プロットも何も上げずに一気に書き上げるというスタイルの為、色々と乱雑かもしれません(汗
ちゃんと構想を練れば良いのかもしれませんが…orz

 そして、芹は知らない、「何か」の時が近づいています。
次回はそのごく手前…具体的には、芹のアクセサリにある、アコースティックギターについてのお話になります。

 そしてここまで来ておいてアレですが、実はここまで続くとは少々意外でして(笑)、実際もっとゆっくりした、まさに自分語りになるような予定だったのですが、個人的には驚くほどのハイペースです。
これからもお付き合いいただけると、光栄です。よろしくおねがいします。

 それではまた次回、お会いいたしましょう。

*前回分までのコメントにお返事を書かせていただきました。
やはり睡魔と闘いながらだったので…妙な部分が多いかもしれませんがorz
もし宜しければお目通しください。


回想録。孤独なる礎、集いし想いの塔

 巫名・芹が大川・葉子の音楽教室に通うようになり、一年が経過した頃。
芹自身の『礎』ともなる、とある出来事が起こる。

――残暑も過ぎ、山が美しく燃え上がる季節のことだった。

 音楽教室。
主にヴァイオリンやピアノ等の、いわゆる音楽系の習い事をする場である。
一般的には少し上品で、情操教育にはもってこいというイメージがあるようだ。
場合によってはコンペティション等にも出場する。

 だが、大川音楽教室は一筋縄ではいかなかった。
まず、教えているのはギター。
コード演奏から複雑な奏法まで教えようとしている。
 コンペ等にも出場させない。
一番大事なのは『個々の価値観』であり、高得点を取らずとも素晴らしい演奏はできると考えているからである。…勿論、目標は不要という意味ではない。
 極め付けに…というか、これが一番ここを『らしく』しているのだが。
大川・葉子は妙な格言じみたことを言うことがある。
勿論すべることもあるし、見事に言いえているものもある。

 何より恐ろしいのは、ギターも、コンペに出ないのも、時折妙な格言を作ってしまうのも全て、大川・葉子の趣味なのである。
 免許はあるだろうが、誰も確認していない。
というか、芹以外に生徒が居ないのだから、確認をすることすらない。

 そんな大川の元で、芹はほぼ毎日、ギターと…いくつかの大切なことを学んでいた。
今日も、そんな日常のうちの一つ…のはずだった。

「こんにちは」
 学校の終了時間を過ぎて20分も経った頃に、ドアをノックする音と声が聞こえる。
「あいよ。…最近、めっきり寒くなったねぇ…風邪、引いてないかい?」
 いつもの白衣のまま、やや気だるそうな…それでいてはっきりと通る声で返事をしつつ、大川はドアを開き、顔を出す。
「はい、大丈夫です」
 軽くお辞儀をして、教室に入りつつ芹が返す。
 微かに漂う煙草の香りと、
「ん…?あぁ、悪い悪い…まだ、空気入れ替わってなかったみたいだね」
 灰皿に剣山の如く突き刺さっている吸殻は、もう見慣れたものだ。
「あ、大丈夫です。…直接煙が掛かったら目に染みたりしそうですけれど」
 芹は軽く手を振り、答える。実際にそんな目に遭ったことは無いが、そういうものだと聞いている。
「そうかい?…慣れるほどってことは、アタシもちょっと控えないとかねぇ…」
 大川はそう言うと軽くため息をついた。
「あまり吸うと良くないって聞きました」
 保健室や街中のポスターでは、煙草の危険性についてよく言及されている。
 そうでなくとも、『自分は決して吸ってはならない』という妙な確信があった。
「まぁねぇ…吸わないストレスのが良くないけど、そもそも害しかないからねぇ。……さて、今日もはじめるかい?」
 軽く腕組みをしながら呟き、続いて今日の授業の開始を促す。
「はい、お願いします」
 そう答えた芹は、笑顔だった。

――随分変わったものだ、と大川は思っていた。
 一年前にここへ来た時などは、緊張と不安感とで一杯一杯だったのだ。
お陰で凡ミスが続き、その様はある種の笑劇にも思えるほどだった。…勿論、大川は勤めて真面目に対応していたが。
 それがここ一年で見違えるように…は言いすぎかもしれないが、笑顔も自然になり、技術も向上した。
物事の捉え方や考え方には、年齢不相応な部分が見受けられるが、最近の子供はみんなそんなもんだろう、と大川は思っている。

 あの日声をかけて良かったと、最近感じ始めていた。

「先生?」
 声に意識を引き戻される。
見れば、芹が少し心配げな表情で大川を見ていた。
「ん…?ああ、どうしたン?」
 一瞬きょとん、としたあと、微笑を浮かべつつ答える。
「あ、その…なんだかぼんやりしていたみたいなので…」
 依然心配そうな表情である。
 どうやら、大川に何かあったのかと思い、声をかけたようだ。
 大川は、ははあ成程な。と思いつつ、やたら感慨深げに言葉を返す。
「お…?いや、ちょっと考え事してただけさね。芹、最近巧くなったな~~ってさ」
 簡単に纏めればそういう事である。
 …事実、普通では考えられないくらいに急成長している。
「え…?そ、そうですか?」
 予想外の反応だったのだろう。少し頬を染め、照れたようにそわそわと視線が泳ぐ。
 そんな芹を眺め、分かり易い子だ、と和みながら
「そうさ。去年に比べれば見違えるようだよ」
 実際、見違えるにも程がある。と心の中で呟いておく。
「そうですか…よかった、です」
 どことなくぎこちない芹の反応に、こういう表現は苦手なのか、と大川は思っていた。

 これまでにも何度かあったが、芹は特に、褒められたり、評価されたりといった事柄への反応が苦手なようだった。
やたら増長するよりは余程マシだが、それでも勿体無い、と大川は常々思っていた。
 せっかく評価されるに足るモノがあるのだから、その喜びを享受すれば良いのに、と。
そんなことをぼんやりと考えつつ、大川は芹に向けて呟く。

「あンたってさ…なんか勿体無いよね」
 突然勿体無いといわれて反応できる人物は、そう多くはないだろう。
 芹も反応できないうちの一人だった。
「…え?勿体無い、ですか…?」
 戸惑いつつもそう返した芹に、大川は続ける。
「そう、勿体無い。…褒められたら素直に喜んでいいンだよ」
 にっと笑顔を浮かべつつ、大川は芹の頭に手を置き、軽く撫でる。
「…でも」
 撫でる動きに軽く揺すられながら、芹が呟いた。
「…でも?」
 手を止め、大川が聞き返す。反論でも理由でも分かれば幸いだと思ったのだ。
 揺れが止まり、芹はギターを膝の上に横たえつつ。
「でも、みんなで力を合わせることが大切だって、学校の先生が言ってました」
 大川はそれを聞き、どんな言い方したんだその教師は…と呆れていた。
 恐らく、芹が何かしているときにご丁寧に忠告くださったのだろう。
 一見孤立している子供に対して、教師はやや苦しい言い訳で集団に加わるよう促そうとする事がある。芹の場合、その教師の誘導がまずかったのだろう。
「へぇ…じゃ、一人で頑張ってるのはどうなんだい?」
 そういう場合に、”一人で○○よりも、みんなで○○のほうが良いんだ”という表現をする教師もいるらしい。
断定してしまうとその部分に影響され、否定されたことについて、”良くないこと”と受け取ることもある。
「…一人で頑張るより、みんなと一緒に頑張ったほうが、ずっとうまく行くと言われまして…」
 そりゃダメだろう、と大川は心の中でずっこけて。
いい加減解決案を出してやらねばと思った。

 まやかしでもいい、気休めでもいい。
とにかく意味を教えて、自信を持たせてやりたいと、大川は思っていた。
「まぁ確かに…一人より、みんなとやったほうが上手く行く事ってのは多いね」
 事実ではある。が、そこを強調してはダメだと大川は思いながら、言葉を選んでいく。
 芹は特に何も言わずに大川の方を向き、聞く体制に入っていた。
「そのほうが早く出来たり、もっと良い物ができたりね」
 芹は小さく頷きながら、静かに聴いている。
「ただ…だからといって、一人で頑張るのはみんなで頑張るのより効果が低いとか、意味が薄いとか、そういう事はないンよ」
 芹の頷いていた動きが、止まった。

 ちょっと面倒な言い方になったかな、と大川は軽く腕組みをする。
「なんて言うんだろうねぇ……礎ってのは、わかるかい?」
 しばし考えた後、芹に向かって問いかけてみる。
 芹は少し考えた後に、口を開いた。
「…はい。色々なことの大本というか…家で言うと”土台”ですよね」
 軽く頷きながらそれを聞いた大川は、家で言ったらそのまんま礎だよ、と突っ込みを入れたくなったが、今はそういう時ではないので我慢し、言葉を続ける。
「そう、その土台だ。…一人で頑張ってるってのは、その土台――礎を作るのに近いンさね」
 芹はそれを聞き、「いしずえ…」と小さく呟いていた。
「んで、みんなで頑張るって言うのは…其の上に建物を作るようなもんなのさ」
 簡単なジェスチャーも交えて、大川は話を続ける。
「土台ばかりしっかり作るのは、建物まで全部できる人からすりゃ妙かもしれないけど、土台がヘボいと立派な建物だって倒れちまうだろ?」
 この例えはそこそこ分かりやすかったらしく、芹は頷きながら話を聞いている。
「で、そうならないために、一人で礎を作ってくのさ。…本当にしっかりした礎を作るのはとても難しいから、もしできたら誇りに思っても良いと思うよ」
 にかっと笑うと、芹は何か…すごく納得した、というような表情をしていた。
まだ早いでしょ、と、少し可笑しく思いながら、大川は話を続けていく。
「そんで…”この人とならきっと良い物がつくれる”って人々を見つけたら、その礎の上に何か建物を建てれば良いんだ。…その建物が、その相手と築いた”もの”ってことさね」
 煙草があれば、ここで一服して格好よくキマるんだけど、と内心残念に思いながら、大川は芹にそう言った。
「…礎と…建物、ですか…」
 芹は呟くように言った後に何事か考え、
「…なんとなく、分かりました。……私のしていることは、ちゃんと意味があるのですね」
 まだ微妙に通じてないかな?と大川は思ったが、成長したときにこの言葉を覚えててくれるなら、イントネーションで分かってくれるだろう、と極めていい加減な結論をだしていた。
「ああ、ばっちりあるさ。あンたがつくる礎は、他には絶対無い、あンただけの礎なんだから、もっと自信をもって”築いて”いったら良いさ」
 芹の頭に手を置き、撫でつつ大川は言った。
「…そして、いつか…」
 芹が呟き、
「いつか、その立派な礎の上に、誰かと一緒に何かを立てれば良いよ。…あンたがそれまでに築き、培ってきた礎は、きっとあンた達をしっかりと支えてくれるからさ」
 大川が優しげな表情で芹に言った。
「そして、その建物の行く末を見守ってくれるよ」

「んじゃ、今日はここまで」
 話の後、最後に一曲演奏して、この日はお開きとなった。
「はい、ありがとうございました」
 ギターを片付けながら、芹が言う。
大川も楽譜やら自分のギターやらを片しつつ、芹の方を向いて口を開く。
「悪かったね…なんか、話長くなっちゃって」
 たはははは、と、誤魔化すように苦笑し、頭をぽりぽりと掻く仕草をする。
「いえ…とても、ためになりました」
 答える芹の表情は笑顔。
 やはり、この子はもっと笑ってるべきだと、大川はよく分からない確信を持つ。
「そうかい?…まぁ、一年も無駄話してれば、どれか役に立つか」
 片づけが終わり、簡単な掃除をしつつ大川がそう返す。
「いえ…面白いお話が多いですし、とても楽しいですから…役に立っていますよ」
 言いながら、同じく片づけを終えた芹が立ち上がり、椅子や机を整理してゆく。
「…まぁ、そう言ってもらえるんなら嬉しいやね…さて、外は…と」
 にかっと笑いながら言葉を返し、外の天気を確認する。

 時刻は6時半。
夏に比べて日照時間は大分短くなり、もはや夜といえる。
天気は晴れ。雨などが降っていれば面倒だったかもしれないが、この分なら心配無さそうだ。

「じゃ、また明日来なね」
 芹を敷地の外まで見送り、大川は軽く手を振りつつ言った。
「はい、またお願いします」
 大川に見送られつつ、軽くお辞儀をして芹は家路についた。

 空はいくつもの星が輝き。
空気は涼やかな中に寒さをはらんでいた。
 そんな夜道を歩きながら、芹の心の中には、あの言葉が残っていた。


『一人の努力で、何より強い礎ができる。他の誰かと協力すれば、その上に立派な建物をつくることが出来る』と。

よもや、この言葉が4年後にまさに「格言」のように調えられるとは思っても居なかったが。


                       ―― 「回想録。孤独なる礎、集いし想いの塔」完――

あとがき

 こんばんは。
今回もまた長いです…
ここまで読んでいただき、ありがとうございます&お疲れ様でした。

大体の流れは前回書いたとおりですので、こちらではあまり書くことは無かったりします。
…話の流れがやや強引なのは、眠気が…眠気で話が…ごめんなさいorz

…というわけで、今回はこのあたりで失礼します。
ごきげんよう、さようなら。


回想録。夕暮れ時の蒼い旋律。


 其の日、街は燃えていた。
少なくとも、芹の目にはそう映っていた。
 赤々と、あるいは煌々と。
太陽という業火に灼かれて、街は夕暮れの炎に包まれていた。

――夏。
それは、遠くて近い、ある夏の日の事。
まだ、芹が10歳だった頃。
まだ、外界に出て2年しか経っていなかった頃。
まだ、拙い演奏しか出来なかった頃。

まだ――ヒトリだった頃。

 世界が変わるきっかけに出会った日。
 全てが、動き出した日。

 これは、遠い夏の日にあった出来事。


 夕暮れ。
昼と夜の狭間にして、一日の終わりを伝える時間帯。
まだ日中の暑さは色濃く残っており、赤く染まった町並みは、その「熱さ」で燃えているようにすら見えた。

 ある住宅地の近所には公園があった。
住宅地や団地というと必ずあるような、こじんまりした簡素な公園。
休憩所にはなるが、やんちゃな子供が走り回るには狭い、そんな公園。

 そんな公園に、これまた小さなベンチがあった。
そのベンチでは、ここ二年ほど毎日のようにギターを奏でる少女がおり、ちょっとした名物にすらなっていた。

 名前は、巫名・芹。
彼女は学校が終わると、一旦家に戻ってギターを取り、この公園に来ては日が沈むまで練習を繰り返していた。
それをほぼ毎日。近所に引っ越してきてからの二年間、飽きもせず続けていた。

―熱心な子ね。
―きっと将来は音楽家になりたいんだろうね。
―よほど音楽が好きなのでしょうね。

 そんな事を囁かれるのも当然と言えるほど、芹は毎日毎日、公園に来ていたのである。
旋律を奏でに。心を紡ぎに。自分を確立するために。

 周囲で囁かれているような考えや、夢、好き嫌い、情熱。そんなものとは無縁の、一種の儀式。
芹にとっては、自らの心や感情を外へと吐き出す唯一の手段だった。
だから、沈んだ気持ちであれば静かに、善い事があった日は楽しげに弦を弾いていた。

 そんなふうにして、二年。
結局のところは「人」ではなく「空気」へと伝えているにすぎないその行為は、僅かずつの上達と、多くの無意味な「囁き」。
そして…未だ「普通」になれない漠然とした絶望感と寂しさをもたらすだけで、何の救いにもなっていなかった。
 そんな、どこまでも続くような日々。
永遠の夕暮れ時の中で、芹はギターを弾いていた。

 その日も、陽炎に燃える世界で、芹はギターを弾いていた。
永遠の夕暮れ。その欠片のような一日。
その日の旋律は、少し静かに。暑い空気が、ほんの少し涼やかに感じられるような、そんな旋律。

――日々は永遠でも、旋律は途切れる。
この日はもう終わり。また一つ、欠片が永遠に溶け込む。
手入れをして、ギターをしまいこもうとした、その時。

 不意に、誰かが両手を叩く音。
続いて、少し低い…ハスキーな女性の声が聞こえた。
「…お疲れさん。今日はなんだか、涼しい曲だったね」

 永遠の夕暮れ時。
その終わりを告げる夜が、すぐそこまで迫っていた。

「…あ」
声を掛けられた事に驚いたのではなかった。
 夕日の中、住宅を焼き尽くさんばかりの赤をその身に受け、やや眠たげにも見える瞳を真っ直ぐにこちらへ向け立っている、その姿。
赤を映すのは丈の長い白衣。その下にはブラウスとスカート。
 口には煙草が咥えられ、胸ポケットからはその箱と思しきものが見えていた。
その様はまるで…絵画のようにすら感じられたのである。

「………」
「…」
拍手だけが鳴り響く中、流れが完全に止まる。
形容しがたい状況。
「………」
ぱし、ぱし、ぱし。
「…」
ぱし、ぱし、ぱし。

「…なんで黙るンだい」
拍手をやめて、女性が困惑したように言った。
「…あ、いえ、その」
 なぜと言われても困る。
どう対応したら良いか分からなかったし、まさか『みとれてました』等と言う性格でもないからである。
芹がどうしようかと考えていると、女性は歩み寄りつつ口を開く。
「一応、褒めたつもりだったンだけどねぇ…分かりにくかったか」
どうも褒めてくれたらしいが、芹に言い回しは通用しない。…もっとも、常人ですら受け取り方に窮する可能性が高い言い方だったが。

 ともかく、褒めてくれたと分かったならば返事を返すことはできる。
「あ…ありがとうございます」
 言いつつ、軽く頭を下げる。
それを見て、なんだかなぁ。といった様子で頭をぽりぽりと掻きながら煙草を取り、携帯灰皿へ突っ込み揉み消しながら女性が言う。
「そこまで畏まらなくて良いと思うけどね…ギターは、誰かに習ったのかい?」
 言ってから、うあちち、と携帯灰皿を振り回す。
「はい。父に、少しだけ教えてもらいました」
 その様子を心配そうに眺めながら芹が言う。
「…少しって…どんくらい?」
 ようやく冷えた携帯灰皿を懐に仕舞いつつ、興味を惹かれたように女性が言った。
「……持ち方とか、弦の呼び方、コード…あといくつか曲を教わりました」
「…本当に少しだねぇ…」
 まさかそれほどか、といった様子で呟き、
「…ギター、もう少しでもうまくなりたくないかい?」
そう言うと、芹と目線を合わせるように中腰姿勢になった。
「巧く…ですか?」
 少し不思議そうに言う。…巧くなりたいのは山々だが、なぜ突然そんな事を言うのかわからなかった。

「そう、巧く。…折角なんだからさ、上手に弾けたほうが楽しいだろ?」
 眠たげな垂れ目を真っ直ぐに芹に向け、女性は問いかけるように言う。
「………はい」
 沈黙はやや長く。しかし返答はイエス。
それを聞き、女性はにかっと笑いながら
「よっし。そうと決まったら早いほうがいいね。…まぁ今日はもう遅いし、お父さんお母さんに確認したほうが良いだろうから、早くても明日からかね」
 言いながら白衣のポケットを探り、一枚の名刺を差し出す。
「これを見せれば分かるだろうから、よろしく」
 名刺には
『大川音楽教室
  大川 葉子 』
と、書かれていた。
「分かりました。今日、お話してみます」
 名刺を受け取りつつ、芹が言う。
「うん、よろしく。んじゃ、アタシはそろそろ行くか……それじゃ、また明日ね」
 再びにかっと笑うと、手を振りつつ公園を出て行く。
「はい。また明日…です」
 芹も手を振り返し、名刺を見つめる。

 …予感があった。
何かが変わるという予感。
自分が変わるという予感。
今、動かなければという予感が。

 だから、動いた。
夕暮れを終わらせる機会を得るために。

――明日へ進む為に、動いた。

 そして帰宅後、両親に公園であったことと、ギターを習いたい旨を話してみたところ、元々芹がギターをいじるきっかけになった父親は大喜び。
母親も、そういった経験から学ぶものもあると、快く承諾。
そうなれば話は早く、大はしゃぎした父親が大川に電話連絡をし、早速次の日から教室に通うことになる。

 そしてその「習い事」の中で芹は様々な物事を受け止め、教えられ、そして自らのものにしていく事になる。


――永遠に続くと思われた、芹の夕暮れ時。
   その終わりを告げる日没。
   新しい朝を告げる日の出。
   それらの時は、この時から動き始めた――

                  ――『回想録。夕暮れ時の蒼い旋律。』終――

あとがき

 今回は長くなった気がします…どなたか、改行のコツを教えてください…(コラ)
ということで、ここから回想録…つまり、芹の過去についてのお話に入ります。
当然ながら、5年間の出来事を書き起こすのは背後にとっては恐ろしく難しい事なので、
◆「一人の礎と、他人との建造物」
◆「音と旋律」
◆「これから」
というように、芹に大きな影響を与えた出来事を3件ほど書いていこうと思います。

 そして最後に、別れの日…つまり、「現在」を書き起こして終了とする予定です。
書き方そのものが不安定な為にかなり読み辛いものになりそう(今なってる!?)ですが、これも練習として頑張ります。お付き合いいただけると光栄です。

 また、コメントは目を通していますので、返信が無くとも怒らないでいただけると嬉しいです(筆不精なのでorz)。
感想等とても参考になり、お褒め頂いていたり(ですよね(汗)で感謝感激…です。
これからも頂けると嬉しいです。

 それでは、今回はこのあたりで失礼します。
毎度長い文章を読んで頂き、有難うございます。

夏。一つの別れと幾多の出会い。蒼の瞳は何を見る。

―ひとつ、音を紡ぐ。高く、細い音。
―ひとつ、音を紡ぐ。低く、強い音。
―ひとつ、音を紡ぐ。どちらにもつかぬ、中の音。

 旋律を編んでゆく。心のままに、思うままに。
”音は音でしかないんだ。心など持たないし、ただの空気の振動。音波でしかないんだ”
 言葉を思い出す。音楽での「共有」に関わる言葉を。
”でも、だからこそ嘘はつかない。つくことが出来ない”
 声を思い出す。少しハスキーな、格好いい女性の声。
”…だから自分が分からなかったら、とりあえず弦を弾いてみると良いよ”
 5年間、慣れ親しんだ、声。
”その旋律は……きっと、あンたにヒントを置いていくハズさ”

―演奏をとめる。流れるような思考の旋律を断ち切る。
―弦を離す。織機から手を離すように、紡ぐ為のそれを離す。
―ギターを整備し、片付ける。…今日の旋律はちょっと、ズレていた。

 このところ、妙な感覚がある。
別段体調が悪いとか、機嫌が悪いとか、環境に疲れたとか、そういう事はないのに。
ふと、疎外感――いや、何かを敬遠している事に気がつく。

 何を敬遠しているのか?
 何を悩んでいるのか?
 何を――恐れているのか?

 答えは出ない。
旋律にしても、響く音は唯ノイズを残すだけ。
何かが引っかかっている。けれど、それが何なのか分からない。
だから。

 だから、結局は何も変わらず、いつも通りにする他無い訳で。

 巫名・芹は現在、学生寮と森の屋敷…そのふたつを寝床にしている。
最近は屋敷にいることが多いが、寮ならではの大騒ぎに巻き込まれることも少なくない。
 そう…その大騒ぎや、あるいは全く別の空気…例えば、色恋沙汰だとか、そういった「不思議な」空気。
そういったものに、時折戸惑いを感じることがあった。

 例えば、裏山に蛍を見に行こうという話が出て、その鑑賞の当日、その裏山では大変な事になっていた。
具体的には、寮生の一人が持つナイトメアが現実に干渉してきていて、蛍鑑賞に向かっていた寮生達は、不意打ちにも近い戦闘を余儀なくされていた。
 当日、簡単な用事があった関係で出席が遅れた芹も、異様な気配を察知。戦闘に巻き込まれていた。

 結果はというと、寮生たちの説得や機転が幸いしての解決。そのまま蛍鑑賞へと戻った。
…芹も一応はナイトメアとの戦闘、本体たる寮生を起こそうという動き等、その勝利に僅かながら貢献し、無事に解決したことで、蛍鑑賞と洒落込む…つもりではあった。

 奇妙な感覚だった。
全員で団結して場を収め、和気藹々と…蛍を見て、雑談をして…そういう時間だと、芹も思ったのだ。
だが、不思議と。

 さて、帰りましょうか。

 二番目にはその言葉が浮かんでいた。
周囲はというと、解決したことを喜んだり、なんだか微笑ましい組があったり、件の寮生を守るという決意が見えたり。
 芹も芹で、何も悲観していた訳ではない。
また同じことが起こるならば解決しようと思うし、その空気は和やかで、心地の良いもの…の筈だったのだ。
 しかし不思議と…その空気に近寄りがたい物を感じた。気がつけば、帰り道を歩いていた。
間違えたと、口に出してまで自分を偽った。誰かが来たら、疲れたからと振り切るつもりだった。

 もし、これが…ほんの1週間でも前の出来事だったなら。
「先生」に相談できたかもしれない。あの気だるそうな口調で、道を開くためのヒントを聞けたかもしれない。
だが、もういない。
芹にとって、最も頼れる存在だった「先生」はいない。
つい5日ほど前に引っ越してしまった。5年の付き合いなど気にもかけぬように、あっさりと。
そんな事を考えつつ、ふと思う。

 ――不安だったのかもしれない――と。

 何がといわれれば困るが、恐らくは。
あの空気に入る事を、心のどこかで恐怖したのだ。あるいは忌避か、気まぐれか。
 なぜそうなのか、そうなるのか、芹には分からない。
ただ…何かの「感情」でそれを避けた。それだけしか分からない。

 だから…再びギターを手にする。
芹は元々、これでしか自分を表現できなかった。
―ひとつ、音を紡ぐ。
 8歳で世間に出た直後などは、それすらも覚束なかった。
――ひとつ、音を紡ぐ。少し高く。
 10歳の頃、「先生」に出会い……本格的に教わった。
―――ひとつ、音を紡ぐ。さらに少し高く。
 それから5年間、ギターの演奏と、いくらかの音楽と、沢山の先生の言葉と…数え切れないほどの大切なことを教わってきた。
――――ひとつ、音を紡ぐ。もっと高く。
 そして先日、引っ越してしまった。「心配しなさんな。あンたはきっと頑張れる、強い子だ」
―――ひとつ、音を紡ぐ。今度は少し低く。
 それでも、迷いは残る。
――――ひとつ、音を紡ぐ。また高く。
 だから、自分を知ろうと旋律を編もうとする。
―――――ひとつ、音を紡ぐ。さらに高く。
 迷いなのか、恐怖なのか、あるいは別のものなのか、見極めるために。

――ひとつ、弦が弾けた。

「そういえば…交換、してなかったですね」
 弦に打たれた指を口に含みつつ、小さく呟く。
ケースから弦を取り出し、手早く修復し、調弦。

 調弦の最中、震える音叉と弦を見ながら、あることを思い返していた。
この不可思議な気持ちから逃れるように。解決の糸口を過去に見るように…

――それは、「先生」と過ごした、練習とその他諸々の時間だった。



                   ―――”夏。一つの別れと幾多の出会い。蒼の瞳は何を見る。” 終

 ということで、数本立てです。
文章が稚拙な上に長文で頭が痛くなる方も多そうですが、どうぞ、お付き合い下さい。

 内容としては結構な量になる上、やや脱線しかかる事も多いかと思います。
実際、「蛍の雑木林」はフックとしての扱いであり(同時に、身勝手に扱うこともできませんので)、全体的には「芹の内面」に触れる部分があるかと思います。

 過去何があり、誰と出会い、何が変わったのか。
そういった部分を表現できれば良いな、と思っています。

 長文・稚拙・遅筆ですが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

 では、今回はこの辺りで失礼します。


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