蒼の髪と銀の雨
PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。 ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」
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回想録。孤独なる礎、集いし想いの塔
巫名・芹が大川・葉子の音楽教室に通うようになり、一年が経過した頃。
芹自身の『礎』ともなる、とある出来事が起こる。
――残暑も過ぎ、山が美しく燃え上がる季節のことだった。
音楽教室。
主にヴァイオリンやピアノ等の、いわゆる音楽系の習い事をする場である。
一般的には少し上品で、情操教育にはもってこいというイメージがあるようだ。
場合によってはコンペティション等にも出場する。
だが、大川音楽教室は一筋縄ではいかなかった。
まず、教えているのはギター。
コード演奏から複雑な奏法まで教えようとしている。
コンペ等にも出場させない。
一番大事なのは『個々の価値観』であり、高得点を取らずとも素晴らしい演奏はできると考えているからである。…勿論、目標は不要という意味ではない。
極め付けに…というか、これが一番ここを『らしく』しているのだが。
大川・葉子は妙な格言じみたことを言うことがある。
勿論すべることもあるし、見事に言いえているものもある。
何より恐ろしいのは、ギターも、コンペに出ないのも、時折妙な格言を作ってしまうのも全て、大川・葉子の趣味なのである。
免許はあるだろうが、誰も確認していない。
というか、芹以外に生徒が居ないのだから、確認をすることすらない。
そんな大川の元で、芹はほぼ毎日、ギターと…いくつかの大切なことを学んでいた。
今日も、そんな日常のうちの一つ…のはずだった。
「こんにちは」
学校の終了時間を過ぎて20分も経った頃に、ドアをノックする音と声が聞こえる。
「あいよ。…最近、めっきり寒くなったねぇ…風邪、引いてないかい?」
いつもの白衣のまま、やや気だるそうな…それでいてはっきりと通る声で返事をしつつ、大川はドアを開き、顔を出す。
「はい、大丈夫です」
軽くお辞儀をして、教室に入りつつ芹が返す。
微かに漂う煙草の香りと、
「ん…?あぁ、悪い悪い…まだ、空気入れ替わってなかったみたいだね」
灰皿に剣山の如く突き刺さっている吸殻は、もう見慣れたものだ。
「あ、大丈夫です。…直接煙が掛かったら目に染みたりしそうですけれど」
芹は軽く手を振り、答える。実際にそんな目に遭ったことは無いが、そういうものだと聞いている。
「そうかい?…慣れるほどってことは、アタシもちょっと控えないとかねぇ…」
大川はそう言うと軽くため息をついた。
「あまり吸うと良くないって聞きました」
保健室や街中のポスターでは、煙草の危険性についてよく言及されている。
そうでなくとも、『自分は決して吸ってはならない』という妙な確信があった。
「まぁねぇ…吸わないストレスのが良くないけど、そもそも害しかないからねぇ。……さて、今日もはじめるかい?」
軽く腕組みをしながら呟き、続いて今日の授業の開始を促す。
「はい、お願いします」
そう答えた芹は、笑顔だった。
――随分変わったものだ、と大川は思っていた。
一年前にここへ来た時などは、緊張と不安感とで一杯一杯だったのだ。
お陰で凡ミスが続き、その様はある種の笑劇にも思えるほどだった。…勿論、大川は勤めて真面目に対応していたが。
それがここ一年で見違えるように…は言いすぎかもしれないが、笑顔も自然になり、技術も向上した。
物事の捉え方や考え方には、年齢不相応な部分が見受けられるが、最近の子供はみんなそんなもんだろう、と大川は思っている。
あの日声をかけて良かったと、最近感じ始めていた。
「先生?」
声に意識を引き戻される。
見れば、芹が少し心配げな表情で大川を見ていた。
「ん…?ああ、どうしたン?」
一瞬きょとん、としたあと、微笑を浮かべつつ答える。
「あ、その…なんだかぼんやりしていたみたいなので…」
依然心配そうな表情である。
どうやら、大川に何かあったのかと思い、声をかけたようだ。
大川は、ははあ成程な。と思いつつ、やたら感慨深げに言葉を返す。
「お…?いや、ちょっと考え事してただけさね。芹、最近巧くなったな~~ってさ」
簡単に纏めればそういう事である。
…事実、普通では考えられないくらいに急成長している。
「え…?そ、そうですか?」
予想外の反応だったのだろう。少し頬を染め、照れたようにそわそわと視線が泳ぐ。
そんな芹を眺め、分かり易い子だ、と和みながら
「そうさ。去年に比べれば見違えるようだよ」
実際、見違えるにも程がある。と心の中で呟いておく。
「そうですか…よかった、です」
どことなくぎこちない芹の反応に、こういう表現は苦手なのか、と大川は思っていた。
これまでにも何度かあったが、芹は特に、褒められたり、評価されたりといった事柄への反応が苦手なようだった。
やたら増長するよりは余程マシだが、それでも勿体無い、と大川は常々思っていた。
せっかく評価されるに足るモノがあるのだから、その喜びを享受すれば良いのに、と。
そんなことをぼんやりと考えつつ、大川は芹に向けて呟く。
「あンたってさ…なんか勿体無いよね」
突然勿体無いといわれて反応できる人物は、そう多くはないだろう。
芹も反応できないうちの一人だった。
「…え?勿体無い、ですか…?」
戸惑いつつもそう返した芹に、大川は続ける。
「そう、勿体無い。…褒められたら素直に喜んでいいンだよ」
にっと笑顔を浮かべつつ、大川は芹の頭に手を置き、軽く撫でる。
「…でも」
撫でる動きに軽く揺すられながら、芹が呟いた。
「…でも?」
手を止め、大川が聞き返す。反論でも理由でも分かれば幸いだと思ったのだ。
揺れが止まり、芹はギターを膝の上に横たえつつ。
「でも、みんなで力を合わせることが大切だって、学校の先生が言ってました」
大川はそれを聞き、どんな言い方したんだその教師は…と呆れていた。
恐らく、芹が何かしているときにご丁寧に忠告くださったのだろう。
一見孤立している子供に対して、教師はやや苦しい言い訳で集団に加わるよう促そうとする事がある。芹の場合、その教師の誘導がまずかったのだろう。
「へぇ…じゃ、一人で頑張ってるのはどうなんだい?」
そういう場合に、”一人で○○よりも、みんなで○○のほうが良いんだ”という表現をする教師もいるらしい。
断定してしまうとその部分に影響され、否定されたことについて、”良くないこと”と受け取ることもある。
「…一人で頑張るより、みんなと一緒に頑張ったほうが、ずっとうまく行くと言われまして…」
そりゃダメだろう、と大川は心の中でずっこけて。
いい加減解決案を出してやらねばと思った。
まやかしでもいい、気休めでもいい。
とにかく意味を教えて、自信を持たせてやりたいと、大川は思っていた。
「まぁ確かに…一人より、みんなとやったほうが上手く行く事ってのは多いね」
事実ではある。が、そこを強調してはダメだと大川は思いながら、言葉を選んでいく。
芹は特に何も言わずに大川の方を向き、聞く体制に入っていた。
「そのほうが早く出来たり、もっと良い物ができたりね」
芹は小さく頷きながら、静かに聴いている。
「ただ…だからといって、一人で頑張るのはみんなで頑張るのより効果が低いとか、意味が薄いとか、そういう事はないンよ」
芹の頷いていた動きが、止まった。
ちょっと面倒な言い方になったかな、と大川は軽く腕組みをする。
「なんて言うんだろうねぇ……礎ってのは、わかるかい?」
しばし考えた後、芹に向かって問いかけてみる。
芹は少し考えた後に、口を開いた。
「…はい。色々なことの大本というか…家で言うと”土台”ですよね」
軽く頷きながらそれを聞いた大川は、家で言ったらそのまんま礎だよ、と突っ込みを入れたくなったが、今はそういう時ではないので我慢し、言葉を続ける。
「そう、その土台だ。…一人で頑張ってるってのは、その土台――礎を作るのに近いンさね」
芹はそれを聞き、「いしずえ…」と小さく呟いていた。
「んで、みんなで頑張るって言うのは…其の上に建物を作るようなもんなのさ」
簡単なジェスチャーも交えて、大川は話を続ける。
「土台ばかりしっかり作るのは、建物まで全部できる人からすりゃ妙かもしれないけど、土台がヘボいと立派な建物だって倒れちまうだろ?」
この例えはそこそこ分かりやすかったらしく、芹は頷きながら話を聞いている。
「で、そうならないために、一人で礎を作ってくのさ。…本当にしっかりした礎を作るのはとても難しいから、もしできたら誇りに思っても良いと思うよ」
にかっと笑うと、芹は何か…すごく納得した、というような表情をしていた。
まだ早いでしょ、と、少し可笑しく思いながら、大川は話を続けていく。
「そんで…”この人とならきっと良い物がつくれる”って人々を見つけたら、その礎の上に何か建物を建てれば良いんだ。…その建物が、その相手と築いた”もの”ってことさね」
煙草があれば、ここで一服して格好よくキマるんだけど、と内心残念に思いながら、大川は芹にそう言った。
「…礎と…建物、ですか…」
芹は呟くように言った後に何事か考え、
「…なんとなく、分かりました。……私のしていることは、ちゃんと意味があるのですね」
まだ微妙に通じてないかな?と大川は思ったが、成長したときにこの言葉を覚えててくれるなら、イントネーションで分かってくれるだろう、と極めていい加減な結論をだしていた。
「ああ、ばっちりあるさ。あンたがつくる礎は、他には絶対無い、あンただけの礎なんだから、もっと自信をもって”築いて”いったら良いさ」
芹の頭に手を置き、撫でつつ大川は言った。
「…そして、いつか…」
芹が呟き、
「いつか、その立派な礎の上に、誰かと一緒に何かを立てれば良いよ。…あンたがそれまでに築き、培ってきた礎は、きっとあンた達をしっかりと支えてくれるからさ」
大川が優しげな表情で芹に言った。
「そして、その建物の行く末を見守ってくれるよ」
「んじゃ、今日はここまで」
話の後、最後に一曲演奏して、この日はお開きとなった。
「はい、ありがとうございました」
ギターを片付けながら、芹が言う。
大川も楽譜やら自分のギターやらを片しつつ、芹の方を向いて口を開く。
「悪かったね…なんか、話長くなっちゃって」
たはははは、と、誤魔化すように苦笑し、頭をぽりぽりと掻く仕草をする。
「いえ…とても、ためになりました」
答える芹の表情は笑顔。
やはり、この子はもっと笑ってるべきだと、大川はよく分からない確信を持つ。
「そうかい?…まぁ、一年も無駄話してれば、どれか役に立つか」
片づけが終わり、簡単な掃除をしつつ大川がそう返す。
「いえ…面白いお話が多いですし、とても楽しいですから…役に立っていますよ」
言いながら、同じく片づけを終えた芹が立ち上がり、椅子や机を整理してゆく。
「…まぁ、そう言ってもらえるんなら嬉しいやね…さて、外は…と」
にかっと笑いながら言葉を返し、外の天気を確認する。
時刻は6時半。
夏に比べて日照時間は大分短くなり、もはや夜といえる。
天気は晴れ。雨などが降っていれば面倒だったかもしれないが、この分なら心配無さそうだ。
「じゃ、また明日来なね」
芹を敷地の外まで見送り、大川は軽く手を振りつつ言った。
「はい、またお願いします」
大川に見送られつつ、軽くお辞儀をして芹は家路についた。
空はいくつもの星が輝き。
空気は涼やかな中に寒さをはらんでいた。
そんな夜道を歩きながら、芹の心の中には、あの言葉が残っていた。
『一人の努力で、何より強い礎ができる。他の誰かと協力すれば、その上に立派な建物をつくることが出来る』と。
よもや、この言葉が4年後にまさに「格言」のように調えられるとは思っても居なかったが。
―― 「回想録。孤独なる礎、集いし想いの塔」完――
あとがき
こんばんは。
今回もまた長いです…
ここまで読んでいただき、ありがとうございます&お疲れ様でした。
大体の流れは前回書いたとおりですので、こちらではあまり書くことは無かったりします。
…話の流れがやや強引なのは、眠気が…眠気で話が…ごめんなさいorz
…というわけで、今回はこのあたりで失礼します。
ごきげんよう、さようなら。
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-Comment-
こんにちは♪
とってもとっても素敵な先生だったんですね。その考え方に感銘を受けちゃいました。
同時に、私はまだまだ「礎」が足りないなぁって思っちゃいました。
私もいっぱいいっぱい頑張りますので、これから風月華の・・・ううん、銀誓館の皆や支えてくれる人たちと一緒に、空に届くような塔を建てちゃいましょうね♪
・・・タイトルのセンスを見習いたいな・・・(背後ぼそっと)
無題
まずはSSの執筆、お疲れ様だ。
前回分とも合わせて読ませてもらったが、流れは言うほど強引でもないな。
割とスムーズに読めたぜ?
あとは…先生の教育に対する考え方が秀逸だな。
現場の教育者でもここまで意識できる人間はそういない。
そんな素晴らしい先生の下で学んだ芹なら礎も、その上に建っていくものも、より良いものが築けるだろうな。
無題
本当にありがとうございます(ぺこり)
致命的なまでに返信が遅いので…すみません(汗
では、以下返信です。
>>レアーナさん
眠かったせいか、説明不足な点が目立っていたりします…orz
はい…私にとっては、まさに「恩人」です。
考え方は秀逸だったり、変わっていたりで、ユニークな方ですし(くすくすと笑いつつ)
…そうですね。勿論、私も頑張ります。…まだまだ至らない点ばかりですしね。
そしていつか…一緒に「何か」を建てられたら良いなって思います。
タイトルについては、単語等の使い方は勿論オリジナルみたいですが、つけるノリとしてはいくらかの版権作品等の影響をうけているようですね。
あとはノリ、だそうです(苦笑)
>>御剣さん
実はここまで長いのは初めてだったりします…(汗)
…はい、頑張りましょう…!
そしていつか…何かを建設できれば良いですね。
>>ミスティレインさん
はい、ブログでははじめまして、ですね。
いらっしゃいませ。
話の内容は何とかなるようですが、そこまでの流れに自信がないとのことで…
スムーズに読めたなら、良かったです(微笑
そうですね…
ぱっと聞いたり見た感じでは少しいい加減そうな人ですが、考え方やものの見方はしっかりしている…と思います。
そしてそういった描写を最後まで遂げることができれば…っ
はい、その教えを無駄にしないためにも…頑張って良い礎、建造物を作って行きたいと思います。
では、またどうぞ。
最後までお付き合いいただけると、幸いです。
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