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蒼の髪と銀の雨

PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。                                                                                                       ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」

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回想録。夕暮れ時の蒼い旋律。


 其の日、街は燃えていた。
少なくとも、芹の目にはそう映っていた。
 赤々と、あるいは煌々と。
太陽という業火に灼かれて、街は夕暮れの炎に包まれていた。

――夏。
それは、遠くて近い、ある夏の日の事。
まだ、芹が10歳だった頃。
まだ、外界に出て2年しか経っていなかった頃。
まだ、拙い演奏しか出来なかった頃。

まだ――ヒトリだった頃。

 世界が変わるきっかけに出会った日。
 全てが、動き出した日。

 これは、遠い夏の日にあった出来事。


 夕暮れ。
昼と夜の狭間にして、一日の終わりを伝える時間帯。
まだ日中の暑さは色濃く残っており、赤く染まった町並みは、その「熱さ」で燃えているようにすら見えた。

 ある住宅地の近所には公園があった。
住宅地や団地というと必ずあるような、こじんまりした簡素な公園。
休憩所にはなるが、やんちゃな子供が走り回るには狭い、そんな公園。

 そんな公園に、これまた小さなベンチがあった。
そのベンチでは、ここ二年ほど毎日のようにギターを奏でる少女がおり、ちょっとした名物にすらなっていた。

 名前は、巫名・芹。
彼女は学校が終わると、一旦家に戻ってギターを取り、この公園に来ては日が沈むまで練習を繰り返していた。
それをほぼ毎日。近所に引っ越してきてからの二年間、飽きもせず続けていた。

―熱心な子ね。
―きっと将来は音楽家になりたいんだろうね。
―よほど音楽が好きなのでしょうね。

 そんな事を囁かれるのも当然と言えるほど、芹は毎日毎日、公園に来ていたのである。
旋律を奏でに。心を紡ぎに。自分を確立するために。

 周囲で囁かれているような考えや、夢、好き嫌い、情熱。そんなものとは無縁の、一種の儀式。
芹にとっては、自らの心や感情を外へと吐き出す唯一の手段だった。
だから、沈んだ気持ちであれば静かに、善い事があった日は楽しげに弦を弾いていた。

 そんなふうにして、二年。
結局のところは「人」ではなく「空気」へと伝えているにすぎないその行為は、僅かずつの上達と、多くの無意味な「囁き」。
そして…未だ「普通」になれない漠然とした絶望感と寂しさをもたらすだけで、何の救いにもなっていなかった。
 そんな、どこまでも続くような日々。
永遠の夕暮れ時の中で、芹はギターを弾いていた。

 その日も、陽炎に燃える世界で、芹はギターを弾いていた。
永遠の夕暮れ。その欠片のような一日。
その日の旋律は、少し静かに。暑い空気が、ほんの少し涼やかに感じられるような、そんな旋律。

――日々は永遠でも、旋律は途切れる。
この日はもう終わり。また一つ、欠片が永遠に溶け込む。
手入れをして、ギターをしまいこもうとした、その時。

 不意に、誰かが両手を叩く音。
続いて、少し低い…ハスキーな女性の声が聞こえた。
「…お疲れさん。今日はなんだか、涼しい曲だったね」

 永遠の夕暮れ時。
その終わりを告げる夜が、すぐそこまで迫っていた。

「…あ」
声を掛けられた事に驚いたのではなかった。
 夕日の中、住宅を焼き尽くさんばかりの赤をその身に受け、やや眠たげにも見える瞳を真っ直ぐにこちらへ向け立っている、その姿。
赤を映すのは丈の長い白衣。その下にはブラウスとスカート。
 口には煙草が咥えられ、胸ポケットからはその箱と思しきものが見えていた。
その様はまるで…絵画のようにすら感じられたのである。

「………」
「…」
拍手だけが鳴り響く中、流れが完全に止まる。
形容しがたい状況。
「………」
ぱし、ぱし、ぱし。
「…」
ぱし、ぱし、ぱし。

「…なんで黙るンだい」
拍手をやめて、女性が困惑したように言った。
「…あ、いえ、その」
 なぜと言われても困る。
どう対応したら良いか分からなかったし、まさか『みとれてました』等と言う性格でもないからである。
芹がどうしようかと考えていると、女性は歩み寄りつつ口を開く。
「一応、褒めたつもりだったンだけどねぇ…分かりにくかったか」
どうも褒めてくれたらしいが、芹に言い回しは通用しない。…もっとも、常人ですら受け取り方に窮する可能性が高い言い方だったが。

 ともかく、褒めてくれたと分かったならば返事を返すことはできる。
「あ…ありがとうございます」
 言いつつ、軽く頭を下げる。
それを見て、なんだかなぁ。といった様子で頭をぽりぽりと掻きながら煙草を取り、携帯灰皿へ突っ込み揉み消しながら女性が言う。
「そこまで畏まらなくて良いと思うけどね…ギターは、誰かに習ったのかい?」
 言ってから、うあちち、と携帯灰皿を振り回す。
「はい。父に、少しだけ教えてもらいました」
 その様子を心配そうに眺めながら芹が言う。
「…少しって…どんくらい?」
 ようやく冷えた携帯灰皿を懐に仕舞いつつ、興味を惹かれたように女性が言った。
「……持ち方とか、弦の呼び方、コード…あといくつか曲を教わりました」
「…本当に少しだねぇ…」
 まさかそれほどか、といった様子で呟き、
「…ギター、もう少しでもうまくなりたくないかい?」
そう言うと、芹と目線を合わせるように中腰姿勢になった。
「巧く…ですか?」
 少し不思議そうに言う。…巧くなりたいのは山々だが、なぜ突然そんな事を言うのかわからなかった。

「そう、巧く。…折角なんだからさ、上手に弾けたほうが楽しいだろ?」
 眠たげな垂れ目を真っ直ぐに芹に向け、女性は問いかけるように言う。
「………はい」
 沈黙はやや長く。しかし返答はイエス。
それを聞き、女性はにかっと笑いながら
「よっし。そうと決まったら早いほうがいいね。…まぁ今日はもう遅いし、お父さんお母さんに確認したほうが良いだろうから、早くても明日からかね」
 言いながら白衣のポケットを探り、一枚の名刺を差し出す。
「これを見せれば分かるだろうから、よろしく」
 名刺には
『大川音楽教室
  大川 葉子 』
と、書かれていた。
「分かりました。今日、お話してみます」
 名刺を受け取りつつ、芹が言う。
「うん、よろしく。んじゃ、アタシはそろそろ行くか……それじゃ、また明日ね」
 再びにかっと笑うと、手を振りつつ公園を出て行く。
「はい。また明日…です」
 芹も手を振り返し、名刺を見つめる。

 …予感があった。
何かが変わるという予感。
自分が変わるという予感。
今、動かなければという予感が。

 だから、動いた。
夕暮れを終わらせる機会を得るために。

――明日へ進む為に、動いた。

 そして帰宅後、両親に公園であったことと、ギターを習いたい旨を話してみたところ、元々芹がギターをいじるきっかけになった父親は大喜び。
母親も、そういった経験から学ぶものもあると、快く承諾。
そうなれば話は早く、大はしゃぎした父親が大川に電話連絡をし、早速次の日から教室に通うことになる。

 そしてその「習い事」の中で芹は様々な物事を受け止め、教えられ、そして自らのものにしていく事になる。


――永遠に続くと思われた、芹の夕暮れ時。
   その終わりを告げる日没。
   新しい朝を告げる日の出。
   それらの時は、この時から動き始めた――

                  ――『回想録。夕暮れ時の蒼い旋律。』終――

あとがき

 今回は長くなった気がします…どなたか、改行のコツを教えてください…(コラ)
ということで、ここから回想録…つまり、芹の過去についてのお話に入ります。
当然ながら、5年間の出来事を書き起こすのは背後にとっては恐ろしく難しい事なので、
◆「一人の礎と、他人との建造物」
◆「音と旋律」
◆「これから」
というように、芹に大きな影響を与えた出来事を3件ほど書いていこうと思います。

 そして最後に、別れの日…つまり、「現在」を書き起こして終了とする予定です。
書き方そのものが不安定な為にかなり読み辛いものになりそう(今なってる!?)ですが、これも練習として頑張ります。お付き合いいただけると光栄です。

 また、コメントは目を通していますので、返信が無くとも怒らないでいただけると嬉しいです(筆不精なのでorz)。
感想等とても参考になり、お褒め頂いていたり(ですよね(汗)で感謝感激…です。
これからも頂けると嬉しいです。

 それでは、今回はこのあたりで失礼します。
毎度長い文章を読んで頂き、有難うございます。
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無題

芹さんの過去のお話ですか…。
私には人には語れないような過去しかないですから
他人の過去の話って興味あるんですよね。(微笑み

中々読みやすいと思います、文才のない私の背後さんも羨ましいと言ってますし。(苦笑
次回も楽しみにしてます♪それでは~♪
  • 御剣
  • 2008/08/12(Tue)01:09:02
  • 編集

お前の正義……これから知っていくとしよう。

どうやら、素晴らしい師と出会えたことで、巫名は歩き出したみたいだな。
お前にもこんな素直な一面があるなんて、少し驚きで……嬉しい。
いや、素直なんだけど、それを出すのが難しいのか?はたまた、ただの天然なのか……まぁ良いよ(微笑)

何はともあれ、俺は巫名のギターが大好きだ。
ここにもファンがいることを、少しは気がついて欲しいけどな?(苦笑)

ん?あぁ背後が何か言いたいらしい。

(改行には小説として様々の意見があるが、基本は読者の視点で自分が読み。違和感や読み憎さが無ければそれで良いと思う。
なにぶん、携帯小説の普及で、小説としての緩急や、場面の緊張感を出す用法で注目はされて来たが、正解なんて無く。気にする必要は無いと考える。そして……小説の内容に関しましては、とても透き通るように頭に流れる物でした。

情景描写や、キャラの服装身なり仕草には、特色をつける必要性も感じますが……それはソレ。

テンポを重視する書き手なので、その点に関しましては何も言えませんよ(苦笑)

ただ期待して、巫名ちゃんの過去を楽しませてもらいます。捩木も彼女と、どうしても友達になりたいみたいで困ったものです。

それじゃ、簡素ではありますが、これで失礼)
  • 明正捩木
  • 2008/08/13(Wed)19:17:10
  • 編集

無題

SSお疲れ~楽しく読ませてもらってるぜ~。

いやぁ、毎度毎度思ってるんだけど
自分がこれまで過ごしてきた物語をちゃんと
確立させているのは本当に凄い事だと思うぜ

過去の出来事、人との出会い
その時何を考え、何を学んで過ごし
んで幾年過ぎて成長した今の芹がいるわけだしな

これからも芹のお話楽しみにしてるぜ
頑張ってな
  • 2008/08/15(Fri)08:53:02
  • 編集

無題


“今”に繋がる空白の物語、か。

人は常に、誰かと出会うことで何かを学ぶ。
芹殿が、師に出会い何を学んでいくのか……見てみたいでござるな。


文章においては、別段読みにくいと思った所は無いでござる。

改行は難しいでござるよねー……(苦笑
やりすぎても見づらくなる故に――や、まあそれはウチの背後の悪い癖でござるが。

ともかく、改行の良し悪しは人それぞれで違うと思う。
故に、自分の感覚で調節するしかない……かもしれぬ。

……まあ、拙者も改行のコツは誰かに教わりたいでござるよ。(苦笑

では、また寮か屋敷でな。御免。
  • 紅葉
  • 2008/08/20(Wed)00:33:17
  • 編集

無題

さ、さすがに返信しないといけないと思いましたので…っ

>>御剣さん
 私(キャラクター)が生まれてから、割とすぐに浮かんだ構想だったようで、念願の執筆、といったところみたいです。

 読みやすいといっていただけているなら幸いです…(汗)
やや長いシリーズになりますが、お付き合いいただければ光栄です。


>>明正さん
(背後代理人Aがあらわれた!)
 まぁ、芹は…妙なところで不器用だったり、かと思えば背伸びした考えを持ってたり、そうかと思えば純粋で…かなり複雑なヤツなんですわ。天然もあるだろうしね。

 ファンがいるとかは多分気付かないから許してやって下され(笑)

 情景描写や人物そのものの描写は、背後が苦手とするうちの一つだ。
流れやテンポを狂わせず、確実に描くのが理想らしいけど…
 まずテンポや流れもうまくせないけないから、難しいところだネ。
過去にある、試験的ssの勢いの描写の下手さが酷いから、緊張感についてはお察しくださいって事かもしれない。

 アレの友達になると苦労が多そうだがな…(笑)
まぁ、悪意や悪気は持てない人間だから、おおらかに接してやってくれ。
勿論、あまりにもハズれた事をしでかしたら修正も必要だろうけど。

まぁ、仲良くしてやってくだされ。


>>華都さん
(芹がもどってきたようです)
 なんでも、「こんな人(先生)と過ごして、上手い具合に過ごせるようになる。で、その過程で色々な、大事な事を、"音楽の例え"や"謎の格言"で受け取っていく」というこんせぷとみたいです。

 そのお話が結実して今の私になっている…という雰囲気を作り出せたら幸い、とのことでした。
 
 はい、少し長くなりそうですが…お楽しみください(微笑


>>彼岸花さん
 …本家についてのお話はまた今度、になりますが、そこで過ごした時間は「無意味ではないが、暮らすという意味では空白」というようなイメージのようです。

 空白と今を繋ぐ、境目のお話が今回のシリーズ、といったところでしょうか。

 先生には、たくさんの事を学んで、教えてもらって…今の私の根底に息づいている。
そんな感覚をシルバーレイン本編にて感じてもらえるようになったら嬉しいですね(微笑

…もちろん、意識されるほどではなく、「ああ、なるほど」程度のものが丁度良いのですが(笑)
(アンオフィシャルに触れる部分も出るかもしれませんし、読まない人にはわからない話になる可能性があるので…)

「ニヤリとさせられる」感って、楽しいですよね?との背後さんからの伝言でした。

 改稿は、連続すると強調に、短く切ればまるで次々に言葉を発するようなイメージ…で考えているみたいです。

 まぁ、あまり難しく考えないのが良いかもしれませんね…(こら

・・・はい、またいつでもどうぞ(微笑


◆まとめ
いつもながら、コメントを頂くだけで嬉しいです…!
まとめてで申し訳ありませんが、ありがとうございます。頑張りますっ
  • 巫名・芹
  • 2008/08/27(Wed)01:10:48
  • 編集

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