蒼の髪と銀の雨
PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。 ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」
[35] [33] [31] [28] [27] [26] [25] [4] [23] [22] [21]
悔恨。勝利は手の中へ、願いし強さは遥か彼方へ。
土蜘蛛・天輪衆・リリス混成軍の撃破。
9月28日の午前9時から開始し、同日午後21時40分ほどに終息した、四国での決戦の成果だった。
リリスの指揮官にあたる、『揺籠の君』には逃亡されてしまったが、天輪衆の頭目、および朝比奈・瑞貴の撃破には成功していた。
成果は十分といったところだろう。
3つの敵組織のうち、ふたつを撃破、残る勢力にもそれなりの打撃を与えることができたのだから。
だが、それは大局で見た流れである。
無論、大局での勝利とは戦闘の勝利を意味するが、個々人では必ずしもそうではない。
例えば倒れた仲間のため。例えば、力尽き命を落とした者達の弔い。
『全体の戦争』のほかに、『個人の戦争』が存在する。
そして、それを果たすことが出来ず、勝利に酔えない者達も少なからず存在する。
巫名・芹もその一人だった。
彼女は戦闘終了後、打ち上げにも顔を出さず、郊外の公園で、自らを省みていた。
後援部隊の補助から戻り、戦列に復帰した際、重傷に倒れた仲間の”想い”を受け、果敢に戦った。
そのおかげか、芹本人は(完全に無事とは言えないが)大きな被害を受けず戦い抜くことができた。
それはその”想い”のお陰であり、芹もいたく感謝している。もし無ければ…命を落とした可能性すらあったのだ。
しかし、それはあくまで”想い”を託した者と託されたものという意味での戦いである。
芹には芹の……満たされぬモノがあった。
――恐れた。
――臆した。
そして――倒れた。
無力。
その言葉が浮かぶまでに、そう時間はかからなかった。
確かに、最終戦では圧倒的なまでの戦力差があり、敗北そのものは仕方が無いと言える。力量でカバーできるものではないのだから、力不足を嘆く必要も無い。
そう、問題はそこではないのだ。
臆したこと。 恐れたこと。
さらには、それすらも”あれでは仕方がない”と逃げようとすること。
それが……その弱さが許せなかったのだ。
可能性を求めて向かったのではなかったか。 可能性を信じて向かったのではなかったか。
その通りである。可能性を求め、信じて、リリス達の本拠へ乗り込んだのだ。
だが、実際はどうだったか。
臆したのだ。自らが求めた可能性など、幻想に過ぎないのでは無いかと。
恐怖したのだ。可能性を信じきれず、厳然とした”死の可能性”という現実に。
思いつつ、芹は左手をそっと握り締める。
そして、思わず笑みを漏らす。
「この手は…」
―何を取ろうとしたのでしょうか。そう言いかけて、やめた。
―何を取ろうとしたか等関係ない。…臆し恐れた事で、何かを得る可能性を自ら放棄したのだから。…そう、思ったのだ。
もしも、自分に全てをかなぐり捨ててでも可能性を追う力があったなら。
もしも、自分の命を薄めてでも、決意を貫く強さがあったなら。
もしも……怯え恐れることをねじ伏せる強さがあったなら。
結果は変わっただろうか?
答えはNO。あるはずがない。
「もしも」等という幻想に浸る甘い自分に…救いなど、無いのだ。
可能性を追う力が無いのだから。
命を薄める勇気など、かけらも持ってはいないのだから。
人にさえ怯えている自分に、恐れをねじ伏せる強さなど……ありはしないのだから。
左の手のひら。皮膚が破れた箇所から赤い血液が流れ、指を伝い、その隙間から一滴、二滴、地面へと滴り落ちる。
だから、「もしも」等無い。
何も無いのだから、変化も無い。つまり、無意味な思索。
「・・・・・・」
息を吐く。
その表情は、未だかつて他人に見られたことの無い……暗く、負の気配に包まれていた。
部分的敗北。個人的な感情。
それが異様なまでに胸に突き刺さる。
己の弱さ、愚かさ、矮小さ、甘さ、未熟さ…
勝利の気配を感じつつも、振り返らずにはいられない…そんな、未熟さ、弱さ。
強く、なりたい。
そう思った時、芹の脳裏に何かが浮かび上がる。
『敵を攻撃する際は油断なく情け無用一撃必殺。簡単だよ。キャベツを切るように頭を割れば良い』
判然としない記憶。
その存在すらあいまいな…しかし、確かに今の自分を支えるモノ。
『想軌がうまくいかない?…簡単に考えれば良いんだよ。「燃え尽きて死ね」って、それを考えつつ…放つのさ』
決して口にはしないその名前。
それはそういう約束。
『…ボクはさ、本当は……に、………あ……を……たかった………』
かすんだ記憶。
『芹!こっち!睦月さんがフライパンで切り開いてるから!はやく!』
手を引く、少しひやりとした手。
白い手と、白い手。
『……ボクの事は秘密にして。…それが、ボクと芹の約束、ね?』
生まれてはじめての、秘密というモノ。
遠い記憶…そう、大川音楽教室に行く、そのさらに数年前。
本家に居た頃、芹に”力”の扱い方を教えた人物。
――布都・薺(ふつの・なずな)
そして、ひとつの言葉を思い出したのだった。
『怖くても、怯えても良い。だけど、前へ進むこと…先を求めることをやめないで。…今前に進んでさえいれば、いつかは辿り着けるから、ね?』
大川のように、多くの事は教わらなかった。
ただ、共通している部分がある、そんな人物。
「大丈夫、あンたは強いよ」『大丈夫、芹は強い子だよ』
脳裏に、二つの声が同時に響く。
つぱ。
左手を開くと、手のひらに食い込んでいた爪が、激痛と共に血液をあふれ出させていた。
「…思い出は振り返っても、立ち返るものでは無いのですが…」
そう呟き、水のみ場へ向かう。
人気の無い公園と市街地は、その様を見守るかのように静まり返っていた。
手を流水にさらし、血液と痛みを洗い流す。
そうしながら、芹にはある考えが浮かんでいた。
―難しく考えすぎる、と。
いつだってそうだし、多分これからもそうだけれど、少しだけ変えてみようと、思ったのだ。
―恐れたって良い。
―怯えたって良い。
―但し、先を目指すこと。
たったそれだけ、である。
歩きさえすれば、いつか目的地にはたどり着ける。
しかし、焦って一時的に全力疾走したとしても、そのあとで振り返り続け歩かなくなれば、結局目的地には着かない。
「…先生にも言われたことですね」
礎。築かなければ、結局何も出来はしないのだ。
同時に、積んでさえ居れば礎は形になってゆく。その意思に応じて性質を変えながら。
血を洗い流し、左手に意識を集中。魔力を流し込み、傷を癒してゆく。
「……さて。暗い顔はもうやめ、ですね」
一人きりの時にだけと限定しているその表情を、両の手で軽く叩き、深呼吸。
目を開き、仲間たちが休んでいる拠点をまっすぐに見るその表情は、先ほどよりも幾分か晴れやかだった。
「来年から高校生ですから……こんなことで立ち止まっていてはいけませんね」
そう呟くと、拠点へ向かって歩き出す。
そう、立ち止まることだけは避けなければならない。
逆に、歩き続ける意思さえあれば…いくらでも悩めば良いのだ。
そう思いながら芹の背中を見送る、ひとつの人影があった。
直後にその影は掻き消え、いずこかへと…消えた。
――悔恨。勝利は手の中へ、願いし強さは遥か彼方へ。 完
あとがき
複数の話に渡る複線っぽいのやってみたいなー・・・
ということで書いてみました(おいおいおい)。
普段それなりに朗らかで明るいけれど、一人の時には相応に悩んだりしている…ということと、
新展開っぽい感じの演出…だったらいいな・・・!
ちなみに、「回想録」シリーズの後日談は忘れたわけではありませんので、ご安心(?)を。
むしろこれに絡めたい気分です。頑張ります。
と、ひどい動機と勢いで書いたので、そこまで語ることがなかったりします。
よって、このあたりで〆とさせていただきます。
もしよろしければ、今一度お付き合い下さい・・・
それでは、ごきげんよう。
← 棒渡し。好きな人ができました。 | HOME | 棒渡し。明かされし、根幹の礎。 →
-Comment-
ブログ内検索
新たなるなにか。
こちらが最新の更新記事10件です。
カテゴリー
ssのシリーズごと。及び雑多なssなどです。
カレンダー
02 | 2024/03 | 04 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
31 |
リンク
最新コメント
アーカイブ
ふるいもの。
最古10件。
プロフィール
カウンター
アクセス解析