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蒼の髪と銀の雨

PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。                                                                                                       ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」

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「一方その頃」

 えてして、日常と非日常は隣り合わせに存在している。巫名・芹の場合もそうである。
 戦闘と安息。
 魔術と音楽。
 芹が平和な日常を過ごす一方で、とてもではないが平和とは言い難い時間を過ごす人々もまた、存在するのである。



「……――!……ッ、…!」
 口を封じられ、その喉元に湾曲した刃を打ち込まれた黒衣の男が、声にならない悲鳴を上げている。
「諦めて」
 黒衣の男の口を封じ、その喉元に湾曲した刃を打ち込んでいた少女がぽつりと呟き、そのまま刃を右手で真横に引き抜く。
 両手に血飛沫がかかるが、艶のない黒い布様の素材でできた肘手袋は受け止めた血液を球状に変えて弾き、地面へと払い落とす。
 簡単だ。命が重いなんて、誰が言ったのだろう? その重さに、個人差があると知っての言葉なのだろうか?
 彼らはこちらの命を狙い、そしてこちらは返り討ちにした。そこに、どんな重さがあるのだろう?
 そんな自分達と、何も知らぬ一般人と、そして――あの子の命が、どうして一様に平等に重いなんて言えようか?

 頭部を首と共に背中方向へ70℃ほど傾けた男が地面に崩れ落ちるとほぼ同時に、もうひとつ、やや長身長髪の女性――少女もだが、黒いロングコートを羽織っている――が森の中から姿を現す。
「こっちは終わった。――子供を使うなんて、随分趣味の悪い連中だったけれど」
 あまり感情を表さないのだろうか。麗しいながらも、どこかひんやりとした印象を抱かせる顔をほんの少し翳らせて、女性は報告する。
「そうだね、なりふり構ってられないみたいだ――いや、ボクらが言えた事じゃないのかもしれないけどね?」
 少女―こちらはまだあどけなさが残る顔立ちで、髪は襟足あたりでざっくりと適当に切りそろえられている。
「ナズナ、それは少し違う。…なりふり構ってられないんじゃなく、子供を戦力にする程度の技術はあるという事さ。いずれにしろ私達には関係ないがね」
 そう言うと、袖に隠れるように握っていた短剣を懐へしまい込む。ついさっき、大人2名と子供3名の命を奪った刃を。
「…そうだね。気にしていたらこっちが危ない。そんな付け焼刃じゃダメだって事を、命をもって知らせてあげないと…ってところかな。姉さん?」
 無論、”前線の人間の命をもって、中心の人物へ知らせる”という意味。これはもしかしたら、命の重さが分かるかもしれない。
 そんなナズナの言葉に姉さんと呼ばれた女性――錫那(すずな)は、ふっと息を漏らしながら少しだけ微笑んで
「それで分かるほど利口なら、苦労はしないだろ。少なくとも、当分は分からないだろうから――」
「分かるまでとりあえず殺せばいい? …ま、その通りだろうけどね。異論は無いし」
 ナズナが言葉を継いで、それから自分の言葉を呟く。
「――でもそんな風に死ぬ子供たちは、自分達が不幸とは思わないんだろうね。…姉さん、命の重さってなんなんだろ?」
 なんとなく思っていたこと。けれど、気にかかること。
 錫那はそんな妹の言葉に少し驚き、そして。
「さあね。金銭、権力、周りにとっての有益さ…色々あるだろうが、私は少なくとも、一応の意見を持ってるよ」
 ざわり、と森が風にどよめく。
「多分、人間性というヤツだ」



 錫那の言葉にナズナは首を傾げる。
「人間性? 姉さんにしては、随分難しい言い方をするね」
 どういう意味だ、と錫那が呆れながら溜息を吐き、そして続ける。
「もっとも、私規準の考え方さ。”私達”になくなりがちなものを持っているかどうか。持っていたとして、それの強度がどれくらいか…ということだよ」
 なくなりがちなもの。
――常識、危機感、感情、正気そのもの、命、時間。
「別の言い方をすれば、生き物としてはあまり必要じゃなく、人間であるためには必須であるもの、か」
 ふむ、と顎に手を当てて、ナズナは考える。今しがた命を奪った、その死体を見つめながら。
「……んー、わかるようなわからないような……かな。どういうこと?」
 その言葉に錫那は小さく頷き、そして、自分なりに説明を開始する。
「例えば、だ。性欲……つまりは生殖というのは、生物には不可欠なものだ。この場合はいわゆる”動物”にという意味だが。だが、”恋愛”という感情は、別になくてもいい訳だ。雄と雌が結合して交尾すれば、子孫は生まれるのだから。……けど、人間らしくある為にはある程度は必要だろ? 無いのが異常という訳ではないが、例えば先天的に感情が無くなっていればそれは人間らしくはないわけだ」
 そんな事を言って大丈夫なのかな、とナズナは一瞬思うが、とりあえず。
「つまり、人間らしさって事? 感情とか、こころとか」
 その通りと錫那は頷き、同時に、その言い方が一番よかったな、と心中で呟く。
「そしてその強度……つまり、どれだけ人間らしいか、という事だな。それは恐らく、一種の命の重さになると思ってる。……当然、これは私達”逸脱した者”にしか通じないと思うがね」
 逸脱したもの。
 想軌術者、近似魔術の術者、常識の外側に身を置くもの。
 なんとなく分かりやすい指標のような気がする。命の重さと引き換えに強い力を得るなんて、実に分かりやすい構図だ。

――想軌を強力に扱える者は、総じて人間だとは言えなくなっていくのだから。

「それなら」
 ナズナは穏やかに口を開く。
「それなら、ボクらはもうあんまり”重く”ないのかもしれないね? 当然のように人を殺せて、しかも人間の死体じゃなく、もはや損壊された肉にしてしまうんだから」
 そんな事をするヤツがよもや人間的であろう筈がない、と。
 しかし錫那はゆるく首を振り。
「いや、お前はまだ随分”重い”よ。……そうだな、お前が重いと思っている相手よりは、恐らく」
 その言葉に、ナズナはきっと視線を鋭くし、姉を睨みつける。――想軌による精神侵蝕の影響で、ある事象に対しては時に極端な反応を見せる――
「――姉さん、それは芹を」
「ああ、そうだよ。あの子はお前が思うほど重くないし、そして多分」
「――姉さん!」
 風切り音。
「――多分、急速に軽くなる。何かを知ることは、時にその人物を破壊するだろ?」
 湾曲した刃を持つ短剣は、錫那の首に触れたところで動きを止める。
「……そりゃ、分かるよ。分かってる。芹は人為的に強化されているって、さ。……初めて聞くときには、ひどくショックだと思う。芹は普通でいたいんだから。けど―」
 直接、芹自分を比べる事は許さない。そう言わんかのように、姉を睨みつける。
「……いや、そうじゃない。もっと、もっと根本的なところだ」
 その言葉に、ナズナは疑問を覚える。同時に、その内容が気にかかる。
――何故だろう、絶対聞いてはいけないような気がする。
「お前の言うとおりなら、あの子――芹は、その事実を知った時に”急激に軽くなる可能性”がある。だが私は、既にあの子の方がお前より軽いと言っているんだ」
 どこか哀しげな色を宿す瞳。「天声」杷紋の影響下にあっても、それでも妹を見て、そしてその心中を知っているからこその、色。
「……ただ単に芹を貶める言葉なら、いらない。けど――説明を聞きたい」
 いいだろう、と錫那は頷き、そして語り出した。

「……簡単に言うと、お前が芹に抱いている感情を、芹は持ち合わせていない。というより、存在しない。それ以外にも、芹が”軽い”理由はいくらかあるがね」
 ナズナはきょとんとする。
 自分が抱く感情――今更誤魔化しても仕方がない。つまりは恋愛感情を、芹は持っていないという事だろう。
 それは当然だろうと思い、そのまま口にする。
「……姉さん、ボクは報われたいなんて思ってない。両想いなんて、きっと幻想だよ。夢の中か、あるいはベッドの中で一人想う時くらいにしか許されない幻想だと、分かってる。でも、だからと言って他人からそう言われるのは、良い気はしないよ……」
 刃を下げ、少しだけ目を伏してナズナは寂しげな表情をする。
 けれど、問題はそうではない。錫那はほんの少しだけ迷って、ひょっとしたら妹を悲しみとか衝撃の底に叩き落すかもしれない言葉を紡ぐ。
「そうじゃ、ない。……あの子には。芹には、恋愛という要素自体が存在しない。そういう感情が発生しない。お前が抱いている甘い幻想も、苦しさも、そしてほのかな温もりも、芹は感じる事が出来ない」
 それだけじゃない、と続ける。
 ナズナはゆっくりと顔を上げる。理解したくないことを、しかし自身の実感を以て理解しながら。
「その代わりに芹は高い魔術能力や想軌の発現力を付与されている。……あたかも、恋愛という心のリソースをそっくり持ってきたかのように」
 悪い事はもっとある、と続ける。
 もういいと、ナズナは思い始める。想い人が理不尽な目に遭っていて、それをもっと聞きたいと思う者がどこにいようか。
「芹の想軌は、もっと強い。当代でも屈指の実力者になれるかもしれない。……けどその代償としては、感情ひとつじゃ全然足りないはずなんだ。つまり、もしかしたらもっと――」
「もう、いい」
 もっと歪にされているかも。
 その言葉を錫那は飲み込み、しかしナズナは理解する。
「……つまり、ひどい皮肉ってことだね?」
 小さく微笑みながら俯き、ナズナはそっと目を閉じる。
「こんな立場で、毎日血を流させて、命を奪い続けているボクが、こんな気持ちを抱いているのに」
 胸元に左手を当て、きゅっと握る。
「日常を望んで、時に血を流して、誰かの日常を守り続けている芹が、この気持ちを抱くことが出来ないなんて」
 笑みがこぼれる。もう、笑えて来る。自分にはいらないものを、一番持っていて欲しい人は得る事ができないなんて。
「……」
 錫那は黙ってそれを見つめる。恐らくは初めてであろう、奇妙な痛みを胸中に感じながら。
「……でも、さ。ボクはボクだから。報われようとは思っていないからさ」
 目蓋が濡れる。頬を伝う。
 これも、芹は得られないもの。失くしたもの。
 機能として流れはしても、悲しみや喜びの涙を流す事は、決してない。
「だから、変わらないよ。……哀しいけどね。それにちょっと気分が楽になった部分もあるし」
 その言葉は意外の一言。錫那は何が、と問いかける。
「姉さんはさ、人間性を多く持つものから死んでいくって言ったでしょ?」
 随分前に言った言葉だ。仲間が死んでいくのは、実際にその通りだった為に。
 錫那は何も言わずに頷き、言葉を待つ。
「それなら……残念だけど、ボクが生きている間は芹は大丈夫って事だと思うんだよ。姉さんの規準なら、多分ボクの方が”より人間性を持っている”ことになるだろうし」
 まああくまで規準だけど、と最後に付け足す。
「……本当に、ひどい皮肉だね。日常を暮らしたい芹の心には欠落があるのに、ボクはないんでしょ?」
「ああ。お前は育ち方は特殊でも、想軌などでの精神への干渉は行われていないはずだ」
 そのやりとりを最後に、そしてナズナは歩き出す。
「帰ろう。とりあえず報告しないといけないし、それに……立ち止まっている間に芹に何かあれば、それが一番みっともない事だから、ね」
 そう言って涙を拭い、移動を開始する妹に錫那はただ一言。
「……そうだな」
 今伝えた事が全てではない――もっとも、自分が得た情報はより広い”全て”ではないが――とはいっても、それなりに自身の信念とか心に素直に、しかし強く歩き出した妹を見て、少し安心すると同時に、また別の考えも浮かぶ。
(やはり、死ぬのはこの子が――)

 一番早いのであろうか、と。
 同時に、疑問も浮かぶ。

 日常を望みそれなりに表情豊かでも、感情や心の動きが欠落している芹と。
 必要な時に必要なだけ人を殺し、魔術の世界に入り浸っていても”感情豊か”なナズナでは。
 どちらがより人間らしいのだろう? と。


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