蒼の髪と銀の雨
PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。 ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」
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日常。巫名・芹の場合。
いつの景色か、いつ口にした言葉か。
どの時間か、天気は雨で。
何もしなくとも景色は移り、何をしているか定かでなく。
友人と話し、しかし世界は切り替わって。
あるときは影を斬り捨て、あるときは誰かと歌って。
――そして夢は、いつの間にか終わる。
まず音。今日は風が強いのか、がさがざと木々が揺れ、小屋自体も心なしか風に押されるよう。
次いで、布団に埋もれている身体の感覚。真横を向いた体勢で、自らのぬくもりに包まれている。
そしてぼんやりと開いた目蓋の向こうに、しっかりとした木製の壁、視界の端には枕などが見える。
「ん……」
小さく声を漏らしながら、布団をおしのけゆったりと起き上がる。そして伸びをひとつ。
枕元においてある時計に目をやると、きっかり午前5時。本当ならもっと遅くても充分登校時刻に間に合うが、身体の方が生活に慣れてしまっている。とはいえ、困る事も無い。
「……ふぅ…」
しばし目を閉じ、ひと呼吸。…まるで波が引くように目が覚めてゆく。
「…さて」
ベッドの上で身体の向きを変え、足を下ろし、靴を履く。一日が、日常が、始まる。
「今日はなんだか…落ち着いた一日になりそうかな…」
呟いた彼女の名は、巫名・芹。
平和な日常を割とよく壊される、”能力者”の少女である。
さて、平和な日常を過ごすにしても、パジャマのままでは平和を通り越した生活になってしまう。
が、そこは一人暮らしの身である。優先度は高くない。
「とりあえずトースターを……あ。ベーコンを買ってこないと」
トースターにパンを2枚突っ込み、スイッチオン。次いでフライパンを取り出したところで、冷蔵庫にベーコンが備蓄されていない事に気づく。
「…じゃ、目玉焼きですね。ベーコンエッグにできないのは残念ですが…」
昔何かの読み物で見てから、トーストにはベーコンエッグとサラダ、という良く分からないイメージがある芹にとって、ショックではないが残念な出来事なのである。
とにかく、朝食のメニューは決まったので、あとは作るのみ。
前日に茹でて冷蔵庫に入れておいたブロッコリーと生のレタスをカットして木の器に盛り、さらにトマトを添えて塩を少量振りかけ、マヨネーズを添える。…絵に描いたかのような「サラダ」の完成だ。
目玉焼きはトーストに乗せるので、黄身は少しかために。塩で簡単に味を付け、コショウはスパイスミルをごりごりとやって振り掛ける。…それを二枚作る。
最後にトーストを皿に取ってバターを塗り、目玉焼きを乗せれば完成。そして牛乳をコップ一杯準備すれば、簡単朝食の出来上がりである。
いささか分量に不安があるが、芹には充分なのである。
「いただきます」
誰に言うとも無く呟くと、トーストと目玉焼きをぱくつき、フォークでサラダをつつく。
この小屋は電気も水道も通っている…というか『使える』が、テレビなどない。あるのは木々や風の音と、それと――
かちり。
『…√……/…ーそれで、僕もこんな業界に入っちゃったって訳ですよー』
『なんでドラマーがラジオのMCになってるのか疑問を感じた事はないんですか?(笑』
『ほんと……なんでだろうねぇ? いやなんかスカウトかなーとか普通に……』
『はいはい、次はお天気予報です。この人の人生と違って晴れると良いですね!…とはいえ本日は――』
ラジオ。
周波数メモリ機能も無く、単一電池を二個使う古臭いものだが、受信するには苦労はしていない。
有効活用しているとは言い難いが、なんとなくそういう生活が楽しいのだ。
「……♪」
明確に幸福だとか、そういうのは良く分からないけれど。
それでも、とりあえずうまくやっているのだ。非日常に身を置く者として、いささか緊張感がかけてはいるが。
朝食を終えると、まず食器を全て洗い、片付ける。乾燥機なんて無いので、流し台に食器立てを橋のように架け、そこに皿などを収納して水を切る。底に受け皿などが無く格子状で、なおかつやや斜めになっているため、案外水はけが良い。優秀な品だ。
そしてそこまで終わって、ようやく服を着替え始める。
薄青いパジャマの上着を脱ぎ、クロゼットに引っ掛けて今日の服を探す。…もっとも、全体的にそう変わり映えのしない品揃えではあるが。
青いシャツと、腰丈ほどのジャケット。それと白いスカート――学生証を作るときにも着ていた服装だ――を取り出し、ふとクロゼットの内側にある鏡を見る。
「……」
顔は特に表情は無く、あと身体は…色々と『無い』。無いというより控えめ、だろうか。…かといって芹は。気にした事など殆ど無いのだが。
「…やはり、気にした方が良いのでしょうか」
下着の上からその控えめな胸に触れしばし考え込むも、そんな興味は数分と持たず、着替えを再開する。気にしたかと思うとこれである。
シャツを着て、パジャマのズボンを脱ぎ、スカートを身に着けジャケットを羽織る。
登校まで数時間はあっても、準備だけは早く済ませてしまう。――何も、日常へだけの準備ではないからだ。
「イグニッションするとはいえ、普通のパジャマで出撃、というのは避けたいですしね…」
汚れちゃうし。とも呟き、かくして今日の『準備』は全て終わった。
では余った時間は?というと…
まず、ベッドを壁に収納…というより畳んでしまう。
掛け布団、敷き布団それぞれをまず脇の収納棚へと片付け、ベッドの台を立てるように壁に畳み、固定する。できるだけスペースをとらない構造になっているのだ。
そして残りの時間は鍛錬。とはいっても本格的なものではなく、まずは軽い運動と、自身の魔力の流れを感じて調律。次いで簡単な"想軌"を行う。
当然魔力弾だの火炎だのを発する訳にも行かないので、手のひらに乗る程度の火球を生み出し、僅かに浮かせながらすぐに消滅させる。…本格的なそれではないために光源などとしては使えないが、イメージの具現には役立つのである。
「…試してみた事もありましたが…上手くいきませんでしたしね、そういえば…」
芹の能力…というか、魔術師としての素養は”破壊と自己”に特化している。
他者を援護・補助するよりも、力を具現し破壊・殺害する事・自身を強化・補強する事に向いている…いわば、”殺傷の才能”である。
その炎や衝撃は確かに光を生むだろうが、それは暖かな『照らす光』では決してない。敵を焼殺する炎が誰かの道を照らし不安を取り除く事など、起こりえないのだ。
「……」
黙って自身の手のひらを見つめる。幾多もの魔力を発し、敵対する者を焼き、斬って来たその手を。
苛まれた事が無いでもない。現に、『そういうものだから』他人と深く触れようとはしないし、『そういうものだから』必要なその時が来れば、友人でもこれまでの敵と同じ――力が増しているのだから、なお酷い――目に遭わせるだろうとも思っている。力で勝てなくとも、苦痛を与える事はするだろう。
「……っ!」
しかしそれを考えると、不思議な感覚に陥る。
胸が軋むような、怯えているような感覚。少し前には『仕方ない』と思っていたのに、今では『そんなことがあってはならない』とすら思う。
では、どうするべきなのか。
誰かを照らせないその蒼の炎は、光を遮る障害を焼き払う事でしか誰かに光をもたらせない。
「…違いますね」
もっと、もっと気づかなければならない。
あの夜の森で、あの日の巫名家周辺で、来訪者などとの戦争で。
魔力を紡いで、頭を撃ち抜き、剣で斬り払い、魔弾で焼き尽くし。
戦いが楽しいと、感じていた。しかし、もっと。もっと。
もっと、その先にある事に、芹は――
「違う……!」
結論へ踏み込めるほど大人ではなく、思考を拒否するほど子供でなく。
しかし"それ"を意識する程度には賢しく。
そして、時間だけが過ぎる。
いつまでも考えても仕方が無いものは、数多く存在する。
逃げてはいけない結論だが、しかし拘泥しても仕方が無い。
「…行かないと、ですね」
呟くと、かばんを手に取り、椅子を立ち、戸締りを確認して小屋を出る。
疑問と答えとは不明瞭なまま思考に残っているものの、最低でも森を抜けるまでには追い出さなければならない。
――日常とは、『そういうもの』だから。
「…ふうっ…」
いつか、答えを見つめる事ができるはず。
そう結論づけて、森を抜け、銀誓館学園へと向かう。
「おはようございます」
「おはよ芹ちゃん。今日はいいトマトがいっぱい入ったんだよ。良かったら後でどーぞっ」
いつも野菜類を買う八百屋で挨拶をすると、そんな話題が帰ってくる。…そういわれるときは、大体安くしてくれるオマケつきだ。
「はい。ちょうどサラダに使う分が無くなったので、また帰りにでも寄らせていただきますね」
そう笑顔で答える姿は将来の良きお嫁さんの素質バッチリだと、商店街でもいくらか有名だ。
軽く受け答えをして歩いていく芹の後姿を見て、八百屋の旦那さんが呟く。
「俺があと30年若けりゃなぁ…ほっとかないんだけどなぁ…興味無さそうで勿体ねえいててぇでででで!」
「アンタみたいな色気の無い男がいっくら若くなったところで、あの子と釣り合う訳ゃないでしょっ」
友人の多くが勿体無いと思っている事実は、やはり知る人にとっては共通のようで。
――銀誓館学園。
鎌倉のあちらこちらにキャンパスを構え、裏では能力者の保護・養成から異能事件の解決まで行う超マンモス校。もとい、学園。
数あるキャンパスのうちの一つに、芹は毎日毎日、遅刻せず欠席せずかつ早すぎずのペースで登校している。
能力者が多数在籍しているとはいえ、表向きには、ごく普通――少々生徒数は多いが――の、小中高一貫の学園に過ぎない。
「おはよ!芹っち!」
「はい、おはようございます」
なんて、そんな普通のやり取りも当然ある。
何かゴーストに関係するような事件があれば、朝礼の時、教室備え付けのテレビから知らされるようになっている。
そしてそれら全てに自分が関わるわけではないので、どちらかといえば芹の日常は『普通』に近い。
「……」
ぼんやりと、しかししっかりと、その『朝礼』を見つめる。 今は関係のない事件でも、いずれ関わる時が来るのかもしれない。『運命の糸』とは、そういうものだ。
「…」
そうして、全く糸が繋がらない事もある。まさに今のように。
結局、事件が無ければ文字通り普通の生活になってしまうものだ。
授業は真面目に受けるし、昼休みには昼食をとり簡単な復習をして、授業が終わり放課後になれば、寄り道せずに真っ直ぐ帰宅する。
そう、ごく普通だ。本家からも学園からも特に動く指示が無ければ、あとは個人的な修練くらいしかやることはないのだから。
……それが貴重であることは勿論理解している。芹にとっての『平和な日常』とは、当然かつ希少だからこそ日常足りえているのだから。
だが同時に、物足りなくもある。戦闘…非日常とは、生きる実感とその力を、ただの日常よりも遥かに強く感じさせてくれるからだ。
「……?」
そんな事を考えている際にふと感じた感覚。
商店街に吹く風、人々のざわめき、八百屋のおじさんのやたら大きい声、同年代の学生達のにぎやかな声。
日常というもの。そこに、溶け込んでいるという事。今生きて、ここにいる――その、実感。
「…ん、悪く…ないですね」
少しだけ微笑んで、再び歩き出す。
自身の、日常の象徴へ。
公園へ。小屋へ。
ゆるゆると食事をして、シャワーを浴びて、ラジオを聴いて、布団に潜る。
夢から覚めて、ラジオを聴きつつ食事をして、軽く運動をして、学校へ行く。
退屈かもしれないけれど、時間が止まったようかもしれないけれど。それは、確かに。
「楽しいですね…なかなか」
それを幸福と呼ぶのかどうか、芹には分からなかったけれど。
まあ、いいかと思考を切り替えて、そして。
日常を、紡いで行く。
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