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蒼の髪と銀の雨

PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。                                                                                                       ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」

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現時流。創られしものと導かれしもの。

――ナズナが錫那の「天声」を解除し、周囲の敵を掃討している頃。
芹は、想像だにしていなかった敵と交戦していた。


「…く…」
 先制され、背後から貫かれた胸が痛む。
 傷口そのものは既に治癒しているものの、打ち込まれた衝撃の痛みと、浸透した魔力――まして、それで突き飛ばされる程のもの――はそう簡単に退いてはくれないのだ。
「遅い…」
 前方から涼やかな声が響き、ぐらり、と陽炎のような何かが視界を横切ると同時に芹の身体が吹き飛ばされ、腹部に刀傷のような傷が刻みつけられる。
「ぁ…!」
 通常の兵器や魔術とは違うそれは”能力者”の能力ですらない、”想軌”によってのみ行使される類のものである事は明らかであった。
「…つまらないわね。もっと苦戦すると思ったのに。芹」
 体勢を立て直そうとする芹に再度陽炎の衝撃が走り、地面を低く弾みながらその身体が吹き飛ばされる。
「力ある者なんて呼ばれている割には大した事がない、と。とんだ期待はずれね」
 すぐさま起き上がる芹を見下ろしつつ、”彼女”は呟くように言い放つ。
―その身体は地上から3メートルほど、浮いていた。
「まだ未熟ですからね……それより…」
 芹は武器を構えなおし、自らの身体に魔力を逆流。それに”想軌”。魔力の吸収効率を高め、傷の治癒を早くする。
―心身ともに負担はかかるが、目前の敵を討ち果たすため、である。
「あなたは一体……く…!」
 再度陽炎が迫り、上半身を守るためかざした右腕を掠める。と、引きちぎられるような、引き裂かれるような痛みとともに血飛沫が舞い、陽炎そのものを赤く染める。
 それはまるで、血を浴びた不可視の蛇が空中を舞うようであった。
「わたし?さっきから聞いてくるわね、うるさいな…」
 ”彼女”はそう呟くと地面に降り立ち、右手は刀を持ったままで、左手を口元に軽く添えると、適切な返答を考える。
―その仕草は、まるで芹と同じだった。…多少、不機嫌さが滲んではいたが。
「そうね……これから巫名・芹になるもの。かしら」
 柔らかに微笑みながら芹にゆっくりと歩み寄る。
「…仰る意味が良く分かりませんが」
 治癒により右腕に光を纏いつつ、芹が返す。
「だから、これから貴方を殺して成り代わる者よ。見ればわかるでしょう?」

 そう付け足す”彼女”の髪は、蒼かった。
 その瞳も蒼く、繊細げな身体付き、柔らかなたたずまい、やや小柄な体格。
 その全てが、芹と全く同じであった。
 髪も、声も、仕草さえ。
 まるでそれは――

「…そうね。貴方のクローンとか、そんなところかしら。今時の言い方ならね」
 言いつつ陽炎を身に纏い、ふわりと笑ってみせる。
 何も知らぬものが見れば、たとえ友人であろうと別の存在だとは気づかぬであろう程にそっくりな姿。
「クローン…? どうして…」
 芹の目前、およそ5メートルほどまで歩み寄ると足を止め、答える。
「どうしてって。知らないわ、そんなの。私は創られて、貴方と同じになるようにされたモノ」
 どこかぼんやりと呟き、芹を優しい瞳で見つめ、続ける。
「力ある者、として生まれた貴方を量産するために作られたのが私。身も、心も、貴方と同じになるはずだった」
 さらりと放たれた現実。しかし、それはいかにおぞましい事だろうか。
 突如聞かされた言葉に、芹は一瞬、相手が敵である、ということを忘れてさえいた。
「同じ…?」
 有り得ない。
 同じ”身”を創るならまだしも、”心”は決して同じものは生まれない。なにより、それを行うという現実が信じられない。
「そう、同じ。でもそんなの不可能でしょ?現に私は同じにならなかった。能力すらも違った。でもいいわ」
 ゆらり、と陽炎が芹の周囲を取り囲む。
「貴方を八つ裂きにして殺せるのなら、この力で十分。全然違うのに似てなくちゃいけないなら、大本が消えればいいんだから」
「…!」
 さわ、と奇妙な律動を感じ、芹はすぐさま真上へ跳躍、さらに想軌を乗せた魔弾を放ち軌道を修正して離脱を試みる。
 芹が元いた場所では、まるで空気が互い違いを起こすかのように陽炎が踊り狂っていて、そこにあった木の葉や落ちていた枝、それと地面から一抱えほど掬われた程の土がばらばらと引き裂かれ、押し潰され、まるで大気のミキサーのようですらあった。
「…勘はいいのね。そこにいてくれたら、それは良い声を上げてくれたでしょうに」
 その言葉は無感情ですらなく、いかにも愉悦を逃したというような声色であり…そこに秘められた恍惚は、嗜虐趣味者のそれであった。
「少し前にも神経を使う方と勝負しましたので。…それと、残念ながら声は上げないつもりです」
 芹は緩やかに着地し、体勢を整え、一応は相手の声に応える。思考の殆どは、この未知の相手と攻撃への対策を打ち出す事に使われていた。
「そう、残念。それなら、手っ取り早く死んで」
 その言葉が終わる直前には、既に陽炎は芹目掛けてその軌道をうねらせていた。
――真っ直ぐではなく、どこか有機的な、曲線や螺旋軌道を描くのである。
「お断りします…!」
 芹がそう返すと、陽炎はより一層、殺意をあらわにしたかのようだった。

 拒否の言葉と同時に、普段のそれよりも強力な魔力を練り上げた魔弾を放ち、その反動を利用して回避運動を取る。
 だが、うねる陽炎のその中心。もう一人の”セリ”目掛け放たれた魔弾は直前で叩き落され、草むらを焼き払うのみであった。
「……やっぱり、貴方なんかより私の方が相応しいわね」
 呆れたように呟き、回避後様子を伺う芹の、その斜め後方から陽炎を食らいつかせるように仕掛ける。
――直撃すれば、そのまま脊椎を食いちぎってやる。
そう、憎しみと殺意をもって。
「――は…っ!?」
 背筋に強烈な殺意を感じ、芹は前方へ低く跳躍。後方で空気が唸りを上げる音を聞きながら、素早く状況を整理。問題無しと判断し、そのまま”セリ”との距離を詰めにかかる。
「……面倒ね。大人しく押し潰されれば良かったのに」
 小さく舌打ちをしながら地面に降り立つと、”セリ”は右手の刀に魔力を注ぎ込み、さらに”想軌”。そして、地面に陽炎を次々に打ち込むと魔力の力場を形成し、半径およそ10メートルほどの”結界”を作り出した。
「――!?」
 ”セリ”との距離およそ3メートル。周囲の空間がわずか揺らぎ始めた光景に、芹は思わず足を止める。
「気が利いているでしょう?これで誰にも邪魔はされないし、逃げる事もできない…近づけば――」
 ”セリ”はおもむろに石を拾うと、陽炎の結界へと投げつける。…石は奇妙な音を発しながら砕け、内側へと弾き返される。
―同時に、”セリ”は無邪気なような、あるいは邪悪に染まるような、いかにも愉快げな笑みを浮かべる。
「――お夕飯のハンバーグになるのも夢ではないわ」
 おそらく、それは誇張でも何でもない事実である。結界に触れるだけでも危険だし、巻き込まれたり叩き込まれるような事があれば、それこそ挽き潰されてしまうだろう。
「…残念ですが、私は和食が好きなので遠慮しておきます」
 芹がそう答えると、”セリ”は楽しくて、嬉しくてたまらないという様に声量を増し、こう言った。
「それはいいわね! 私は洋食が大好きなのよ!……和物の刃で切り刻んで、原型を止めないくらいに挽き潰してあげるわ!」

――それは狂気であり、あるいは殺意であり。何よりも、憎しみがにじみ出ていた。
 まるで傷から噴出す血液のように、その勢いは留まるところを知らず、一層勢いを増してゆくように。

 ”セリ”は明らかに興奮しているように見える――が、恐らくそれは正しくはないと、芹は感じていた。
なぜならば。
(どう来るか、ですね…)
 声も表情も平常には見えないのに、それでも”セリ”は無意味な突撃も、考え無しの魔術も放たれはしない。…確実な一撃を狙っていることは明白だった。
「どうしたの? 怖くなったとか言うんじゃないでしょうね…」
 ”セリ”は目を細め、右手で刀を緩く振るい、左手は何かを手繰るように指を動かす。
「怖くないと言えば嘘になりますが」
――恐怖を理由に立ち止まるくらいならば、いっそ死を受け入れる方が良い。
「――そんなもの、今更です」
 芹は言葉と同時に地面を蹴り、距離を詰めると同時に自身の足元へ向けて魔弾を叩きつける。
すると、地面で炸裂した魔力の炎が光の粒となり再集結、芹の後方で強烈な閃光を放つ。
「うあっ!?」
 強烈な閃光を網膜に焼き付けられるような閃光に、”セリ”の意識が一瞬薄れ、周囲の結界すら僅かに揺らいだ。
「はっ!」
 芹は短い気合と共に胴を凪ぐ一閃を放ち、さらに一歩踏み込む。
「申し訳ありませんが…」
 右掌を”セリ”の腹部へ叩きつけ、魔力を解放する。炸裂させ、さらに相手の体内に魔力を残存させる想軌を以て。
「――死ぬよりは殺せと、教わっていますので」
 大きな炸裂音と共に”セリ”の身体が浮き上がり、さらに直撃を受けた部位が発火、そのまま後方へと吹き飛ばされる。
「…まだ…!」
 恐らくは立ち上がる余力を残している上、結界も解かれてはいない。――最後まで徹底しなければならない相手であるようだった。
 それならばと、芹は追撃のために踏み込み、落下を始めた”セリ”の身体を切り払おうと雪割華を構える。
「これで……――!?」
 まさに振り抜こうとした刹那、芹は反射的に足を止め、右腕に魔力を集中。後方へと飛びのくことを意識しつつ、盾として右腕を翳した時。

 形容し難い衝撃音と、湿っぽい破砕音と、
 凄まじい激痛と、何かが焦げ、爆ぜる匂いが。

「――っ!!!」
 声も出なかった。
 同時にその衝撃で体勢を崩し右手を地面に着こうとした時、生理的にも嫌な音と激痛により、もはやそれは用を成さない事を理解する。
「惜しかったわね…」
 口元から血を流しながら”セリ”が呟く。仰向けに倒れたまま、心底憎たらしいように。
「もしそのまま来てくれれば、喉を掻っ切ってやったのに…」
 声を聞きながら芹は立ち上がり、自らの右腕を見やる。
―蒼色のローブは血に濡れそぼり、袖口からは真っ赤に染まった――染み出すようにすら見える――右手指が見え、また袖で見えないものの、腕はいくらか歪な形になっている事は容易に把握できた。
「……いいえ、十分です。こうして立ち上がれたのは…運が、良かった」
 これまでの被害と、ここに来ての右腕の被害と出血。本来であれば、既に行動できない段階である。
 焦点の合わない瞳で”セリ”は芹を見上げ、どこか愛しげにすら呟く。
「ああ……もうちょっとで殺せたのに…」
 その言葉と共に周囲の結界が徐々に弱まり、やがて消滅。

――勝敗が決した瞬間であった。

 とは言え、油断も余裕も出来ない状況である。
 出血量からして長くはもたないし、第一”セリ”はまだ戦える状況なのだ。
「……く…」
 一度は立ち上がったものの、みるみるうちに意識が歪み、景色がぼやけ滲んでゆく。
「…引き分けって、ところかしらね…?…ふ、ふふふ…」
 ”セリ”は追撃する素振りもなく呟くと、ゆっくりと立ち上がり芹に近づいてゆく。
構えを取ろうにもうまく動けない芹の頭を左右から掴むと、額を合わせ目を見ながら言葉を紡ぐ。
「次よ…今はあなたをいたぶる余裕もないから見逃して、そして見逃されておくけど…」
 そこで間をおき、ふっと優しい笑顔――恐らくは、芹を知る人間が知っている笑顔と同じ――で続きを口にする。
「次は、きっとあなたを殺してやる。死ぬよりも苦しく、食い散らかされるより惨めに、蹂躙される無力な魔術師以上に尊厳を奪い取って…必ず」
 そう言うと手を放し、そのまま踵を返し森の中へと消えてゆく。
「……」
 芹はただ、呆然とそれを見送るのみ。追撃を行う気力も体力も残ってはいなかったのだ。
「…あ」
 ふと気がつくと、うつ伏せに倒れ、ひんやりした土の感触と、自身から流れ出た血の温もり。そして身体と頭が芯から覚めていくような感覚。

 死というものを、まるで友人のように近くにまで感じ。

 それでも、魔力を循環させ傷の治癒を試みて。



 そして、それっきりだった。


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