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蒼の髪と銀の雨

PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。                                                                                                       ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」

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終焉。響いた声と煙草と

そろそろ、か――」
 各所に配置した術者部隊――その多くが壊滅しているであろう事を思いつつ、一人の男が誰に言うでもなく呟いた。
「…どうやら、まだ殺してはいないようだ。…”鏡月”は甘いか…改良の余地ありだな」
 森の中、点々と聞こえていた戦闘音も今は静まり、静寂と風の音とに身を委ねる。
「まあいい。生きていようが死んでいようが、私には関係ない。狂人に付き合って、些細な事に気を取られる訳にもいかん」
 年齢は四十半ばほど。黒尽くめの衣服に、魔術師然としたコートを羽織る。
「来い――大川・葉子」
 誰に言うでもなく、男は呟いた。
 大川・葉子――
”天声”杷紋・誓慈(はもん・せいじ)にとって、その名はあまり心地よいものではなかった。
既に忘れ去られているであろう過去の出来事――方向性が違う事と、力量の絶対差を見せ付けられた、因縁の相手。
「…あの頃はまだ、この力も無かったな」
 だが、今はある。…人心を誘導し、信念を植えつける力が。
「この力に抗えるものなら、やってみるが良い」
――天声の力の前では、それを聞く者の意思・信念・誓いのような”つまらない”モノは全くの無力である上、魔力によって想軌を止めることも不可能である。…声が聞こえれば、天声は力を発揮するのだ。
 魔力の壁で音を遮断するのは困難な上、実行すれば音そのものが聞こえないという、極めて大きなハンデキャップを受ける事になる。
 その代わり、電話越しでは効果が無く、肉声を聞かせる必要があるという制限がある。…だが、今や関係の無いことだ。
「直接声を通せば、私の勝ちだ。…大川葉子!」
 いずれ来るであろうその人物に対し、いくらかの感情がない交ぜになったような声で呟く。
 だが、呟きであるかどうかは、もはや関係なかった。

「何一人でブツブツ言ってるんだい。相変わらず暗い奴だねぇ…」
 不意に後ろから聞こえる声。一体、いつからそこにいたのか。
 煙草を咥え、身を隠す素振りもなく、またどこかからか現れたような気配も見せず、いつのまにかそこにいた。距離にして、およそ10メートル…声も届けば魔術も届く距離に。
「貴様こそ、相も変わらず弛緩しきった時間を過ごしているようだな」
 驚きもせず、杷紋はゆるりと振り返る。
――その、記憶と何一つ変わらない、緊張感の無い佇まいに、懐かしさよりも殺意が先に立つ。
「馬鹿みたいに緊張しているよりは、余程過ごしやすいと思うけどね」
 言うと親指と人差し指で煙草をつまみ、ふぅと煙を吐き出す。
 近所の知人と世間話をするように、ひとかけらの警戒も、想軌の気配も無く。
「そんな事では長生きできんぞ。…今日がまさに、それを分ける日だ」
 一歩、二歩、杷紋は大川へ歩み始める。
――”言葉”を練りながら。
「あぁん?…アタシとやりあおうってのかい?」
 物騒な物言いとは裏腹に、大川はその素振りすら見せない。
―そういう女なのだ、こいつは。
 まさに、記憶と何一つ変わらない事を少しずつ確認する。そして、その事実が杷紋としては腹立たしかった。
 だが、その苛立ちも呼び起こされる殺意も、今はただ邪魔なものでしかない。―頭から排除する。
「そうではない。貴様に”緊張”があればこそ、解決しえた問題があるのだ」
 既に、想軌は発動している。気づいていたとしても、もう遅い。防ぐ手立てなど、存在しない。
 気づかれていても、防御しようとしても、無意味である。―たとえ、標的が”この女”でも。
「問題…? 頭の固い陰気男に声をかけられた事かい?」
 全くもって口の減らない女である。
 それにも構わず、杷紋は歩みを進め―およそ5歩ほど手前で足を止める。
「フン、好きに言え。……貴様、巫名・芹という娘を知っているだろう。俺が今日、捕えようとした娘だ」
 その名を聞いて、大川の視線が一瞬、杷紋を捉える。が、それだけだった。
―続けろ、という事か。
「……その娘の写身<うつしみ>が現れた。能力も酷似していて、こっちの人間もかなりやられている」
 大川は何も言わず、ゆっくりと煙草の味を愉しんでいる。
「簡単に言えば第三の勢力が現れたのだ。巫名・芹の写身という、極めてやっかいな代物を引き連れてな」
 それだけ言うと、杷紋は大川の応答を待つように口をつぐむ。
 一方の大川は、けほ、と一回だけ軽くむせ、持っていた煙草を携帯灰皿に突っ込みながら口を開く。
「……なんでそんな事をアタシに言うんだい? 第一、アタシかアンタがもう少し短気だったら、アンタはそんな事を言う暇も無かっただろうに」
 当然の質問である。例えがいかにも物騒ではあるが。
「”敵の敵は味方”というやつだ。写身を保有する連中は、いずれ俺にも手を出すだろうし、まして無縁の人間はより大きな被害を受けることになる。そして、それには貴様らも含まれるだろう」
 この場合の”無縁の人間”とは、いわゆる一般人の事である。
 大川は次の煙草を咥えると、苦笑しながら答えてやる。
「それで、アタシにもそいつをなんとかしろって事か…随分大きな賭けに出たもんだ」
 皮肉を込めて言い放つと、咥えた煙草に火をつけ、やがてふぅと煙を吐き出す。
「…まぁ、いいだろう。アンタを黙らせるのはそれからでもいい」
 やはりというべきか、相変わらず危険な女だ――と杷紋は記憶の印象を一つ一つ確認し、同時に天声の成立を感じる。
―具体的にわかりはしないが、失敗はありえない。そういう事である。
「口の減らない女だ。…まあいい。 その写身だが――今、巫名家の人間と行動を共にしている」
 大川の眉がぴくりと動く。が、それに構わず杷紋は言葉を続ける。
「名は、布都・ナズナ。写身は巫名・芹になりすまし、共に行動している事が斥候の報告で分かっている」
 無論、本来は逆である。”写身”たる存在の”鏡月”は既に、飼い主の元へ戻っているのだから。
 今現在、布都・ナズナと行動しているのは、紛れも無く本物の巫名・芹である。
―だからこそ、大川によって殺害させる事が大きな意味を持つのだ。
「…そりゃ…少しまずいねぇ」
 だが、考える間は一瞬。
「アンタにも癪だろうが、一緒に来てもらおうか。…あの子の写身だとしたら、おそらくアタシじゃ無理だ。ナズナもいるしね」
 協力などしたくないというのは、どうやら共通見解のようである。
 だが、天声の前では関係ない。
「構わん。ヤツを放っておけばいらぬ火種がいくつも生まれる。始末が終われば、次は貴様だ」
 そう杷紋が言うと、大川もまた、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。―考える事は同じなのだろう。
「今こちらに向かってきているが、打って出るぞ。…こっちだ」
 そう言って、大川の横をすり抜けて芹達が来るであろう方角へ歩き始めた瞬間。


 気づけば、向かおうとしていた森の小道が横倒しになっていた。
(何故だ)
 気づけば、重力とは無力な人間には酷く重いものである事を、身を持って知っていた。
(何故だ)
 気づけば、相手がやはり上手であると、無意識に刻まれていた。
(何故だ)

 仰向けに倒れ、右足を失った杷紋の、その無様な姿を見下ろしながら、大川は呟くように、そして心底見下すような口調で語りかける。
「何一つ変わってないねぇ…その、自分の力を過信するところとか、成功を前にしてはしゃいじまうところとか」
 横を向いていた杷紋の顔がゆっくりと上へ向けられ、大川の顔に焦点が合わさる。
「いっつも、アンタは考えが及ばないんだ。そして…いっつも、アタシに打ちのめされる」
 煙を吐き出し、そのまま煙草を咥えず、話を続ける。
「だがまあ、それもこれで最後さね。……アンタは、交渉に選ぶ材料を間違えた」
 杷紋は声を出そうとするが、出ない。喉がつぶれているでも、呼吸が出来ないわけでもないのに――
「アンタの声はもう聞きたくもない。…だから、黙ってもらったよ。どうやったかも、もうアンタには必要ない情報だ」
 ゆらり、と、煙草に魔力が集まる。想軌が、編まれてゆく。
「アタシはね、アンタみたいなヤツが大嫌いなんだ。自分が優れていると思っていて、それだけで勝てると思って、その癖プライドはご立派なヤツが」
 背を向ける。もう、姿も見たくないといわんばかりに。
「その実、何か支えが無ければ生きていけやしないんだ。でもそれも無いもんだから、孤独を気取りたがる。…どうしようもなく愚かで惨めな生き方」
 どんな屈辱に塗れているだろうか。宿敵とも思っていた相手に、いとも簡単に自由も声も力も奪われて。
 だが、そんな事は大川にとってどうでも良かった。相手が死ねば、どうでも。
「…そして相手が馬鹿なフリをしてりゃ、簡単に騙されてその様だ。全く救いようがないやね」
 声にならぬ殺気を背に感じながら、それすら構わず。
「――さ、死にな」
 まるで、ゴミ山に火を点けるかのように煙草を杷紋へ向かって放り投げる。想軌のかかった、煙草。
(――!)
 それが杷紋の身体に触れるなり、音もなく、静かな炎として。しかし、とても耐え難い激痛、苦痛、熱さ、冷たさ、それらをない交ぜにしたかのような、狂気の使者のように燃え上がる。
 だが、杷紋は声はおろか、指一つも動かせない。それどころか、その苦痛の全てを明確に認識し、まさしく傍目には分からぬ地獄を得る。
「――ああ、そうだ。アタシが、なんでアンタの想軌に引っかからなかったか教えてやろっか?」
 言うと大川は自身の耳に手をやり、そこからイヤホン状の何かを取り出すと、半身で杷紋に振り返る。
「補聴器、だよ。密閉できる特製のヤツさ。…アンタの声は、”直接”じゃなきゃ意味がない。何か機械を通せば防げるのさ」
 杷紋はそれを見て、信じ難い感覚を覚えていた。諦めとも、絶望ともつかない、奇妙なカンカク…
「…アンタの力はジーさんバーさんも殺せない。拡声器が使える分、政治家の演説の方がまだ優秀だよ」
 それだけ言い捨てると、大川は芹達の来るであろう方向へ歩き始める。
 もはや、杷紋などに興味はない。ただ転がって、苦痛に苛まれ、そして死ぬだけの、それだけの存在。
「…あの子の名前を出さなければ、もうちっとマシな死なせ方にしてやったんだけどね」
 そう呟くと、いつもの飄々とした様子で歩き続ける。
 新しい煙草を咥え、火を点しながら――



 時を同じくして、森の各所では杷紋の”天声”から解放された者達が、とりあえずはと、集合場所へ向かい始めていた。
――そこには、杷紋がいる。未だ息絶えずに。
 そして、解放された者達は天声によってどのような状況であったかを覚えている。…つまり、杷紋にとっての真の地獄とは、これからである事を、当の本人は知る由もなかった。

 同時に、”天声”の消滅は、長いようで短い一夜の、その終わりを意味していた――

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