蒼の髪と銀の雨
PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。 ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」
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目覚め。再会と剣戟と。
懐かしささえ感じた夕暮れの世界から帰還したことを、その音と色で認識する。
「起きたかい?」
世界はまるでピントがぼけたかのように滲んでいたが、その声はしっかりとしたカタチをもって伝わる。
「……先生…?」
地面に仰向けで横たわる自分を覗き込む人物に言葉を返し、芹はゆっくりと身を起こす。
「ああ、そうだよ。…久しぶりだねぇ」
いつものとぼけたような眠たげな声で言うと、大川は芹の服についた枯葉や土を払い落としながら、そこにいるもう一人に声をかける。
「ナズナ。どんな感じだい?…連中ならあの程度で充分だとは思うけど、万一にでも突破されたら面倒な事になりそうだ」
”連中”に差し向けた傀儡符は充分な戦力ではあるが、それでも機転が利く人間に出し抜かれることはある為、ナズナに見張りを任せていたのだ。
「問題ありませんよ。…いくら数が多いからといっても、彼らは普通より強いという程度の使い手なのですから負ける道理がありませんし、そんな彼らにアレを抜ける名案が浮かぶ筈もないかと思いますよ」
ここで二人が言う”彼ら”や”連中”とは勿論芹を狙ってきた所謂”過激派”の人間である。
その数およそ30名。自らを”改革派”等と呼称する物もいるらしい。
「言うけどねぇ…アタシだって久方ぶりの実戦なんだから、過信は禁物だって事だよ」
そういう大川本人も煙草を取り出し、口に咥え火を点すという余裕ぶりであった。
「…あの、ここは…」
状況を飲み込めず、芹が大川に尋ねる。
「そうだねぇ…ちょい説明が面倒だけど、いいかい?」
どちらかというと、単に説明そのものが面倒そうな言い草に、芹は少し恐縮しながらも首を縦に振った。
「…了解。そんじゃ、時間も無いから手短に行くよ」
大川はそう言うと、現在の状況について話し始めた。
説明されたことは本当に必要な部分のみだった。
まず、現在敵対している相手の大まかな所在と人数、そして所属。巫名から別れ、”改革派”と名乗る者が存在したこと自体、芹にとっては大きな衝撃だったようだが、それを鎮圧せねばどんな暴走を始めるか分からないと知り、心を決めたようだった。
即ち、共に戦う事を選んだのである。
かつての恩師である大川と、かつての教育係にして…芹からすれば友人であるナズナと。…芹は大川が戦うとは思わなかったようだが、想軌の使い手である事を知り納得した。
かくして、想像だにしなかった共同戦線が築かれる事となったのだ。
「…まあ、こんな所だ。多分アンタから見れば、普段相手にしている化け物の方が手ごわいくらいだろうけど、油断はしないように…いいね?」
油断したところで不意を衝く事もできなければ、傷を負わせる事も出来ないだろうが。と思いつつ、大川は芹に忠告する。
「はい、大丈夫です。…いつでも、全力で臨んでいますので」
その言葉に、大川はにかっと笑って立ち上がり、ナズナに向き直る。
「積もる話はあるだろうが、今はお預けだね。…何、2時間もすれば何の心配もなくなるさ」
その軽口にナズナは苦笑を返すと、芹に顔を向けて、それから少し言葉を選んで口を開く。
「芹、えぇと……そうだね、なんていうのかな……気をつけて。死なないようにね」
少し照れたように言うナズナに、芹は笑顔で答える。
「はい、ご心配なく。…ナズナさんも、どうかお気をつけて」
言いたいことは沢山あるし、話したいこともある。…友達のこと、想軌の事、剣術の事、出会った沢山の人たちの事。
けれど、今はそんな時間ではない。大川の言う事が真実ならば早く鎮めなければいけないし、そして大川は嘘をつかないからだ。
「…ありがとう」
ナズナはそれだけ言うと、ポケットから何かを取り出して大川に渡す。
「……なんだいこれ?」
手に持った”それ”を見ながら、大川が尋ねる。
「向こうには恐らく”天声”がいますから、その対策です。…というより、それは先生自身が必要だって言ったんじゃないですか」
少し呆れたようにナズナが言った時、傀儡と改革派の交戦地からいくらかの光と音が放たれる。
「あんまりのんびりしてられないね…って、そういや頼んどいたっけね。忘れてたよ」
からからと笑いながら”それ”を白衣のポケットに仕舞うと、大川は芹とナズナの顔を交互に見て、その成長を心に刻みながら口を開く。
「ま、芹は大丈夫だろうね。…そんじゃ、始めようかね?」
その言葉に芹はカードを取り出し、ナズナは腰の短剣を手に取り、それぞれの戦支度を始める。
大川は相変わらず煙草をふかしていた。
「何か妙な物を持ってるかもしれないから、充分に気をつけるように。……そんじゃ、各自散開。目標は、全対象の沈黙だ」
『了解です』
芹とナズナの声が同時に発せられると、次の瞬間には交戦域目指して駆け出して行く。
「…さて、アタシはヤツを黙らせに行くかね。……あの声、耳障りだからねぇ?」
先刻ナズナから受け取った物を取り出し、眺めながら呟く。
その気配はもはや、鋭い追討者のものであった。
「アタシの生徒に手を出したツケ、きっちり払って貰おうかね」
勿論トイチで。
そうして大川もまた、交戦域とは少し外れた場所目指し駆け出して行く。
日は沈み、逢魔時。
偽りの思想を掲げる者達と、それを打ち砕く者達との戦い。
日常には決して知られる事の無いそれが、遂に始まろうとしていた――
「目覚め。再会と剣戟と。」終――
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