蒼の髪と銀の雨
PBW・シルバーレインのキャラクター、「巫名・芹(b40512)」のブログです。 後ろの人の代理人(A)との対話や、SS、RP日記などを書き連ねて行きます。最新記事は右側に。シリーズごとのssはカテゴリに。雑多なものはそれぞれカテゴリにちらばっています。 ―― 一人の努力で、なにものにも耐える礎を築けるだろう。しかし、誰かと共にあれば、その上に揺るがぬモノを建築できるのだ。…しかも楽しい――「音楽の先生」
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深紅の夢。夢と現の殺戮者。
床も、壁も、目の前に転がるそれらも、散らばった硬い白に柔らかな赤も。
黒い筋のようなものに、ぐずりと崩れた乳白色と薄桃色の中間のようなもの。
そして、それらを眺める、巫名・芹の手も、腕も、頭も、身体全てが。
――真っ赤にそまっていた。
ずぐん、と、臓腑を抉るような恐怖が湧いてくる。
―私がやったのだ、と。
気がつけばこうなっていた。――本当に?気づかなかった?
どうしてこんなことになっているのか。――理解するつもりがあるのか?
誰が、こんなことをしたのか。――考えるまでも無い。ここで生きているのは唯一人なのだから。
左手に提げた刀は、こびり付いたもので赤黒く染まり、まるでそれらで重量が増したかのような錯覚さえ覚える。
恐ろしい事をしてしまったという実感と、もう一つは…形容しがたい、達成感と快感。
――これは、夢だ。
背筋から全身に染み渡るような充実した感覚。
熱い息を漏らし、目の前に転がるそれを眺める。
――私が、何故か誰かを殺して…
「…ふふ」
恍惚とした笑みを浮かべ、笑い声が漏れる。
――恐怖と…それと、何かに虜になっている。
彼女にとって唯一、ちょっとだけ自慢だった蒼い髪も、今は黒く赤く汚れて。
同じように――こちらは唯赤く――汚れた右手を持ち上げる。
――相手は恐らく無力で、知らない人…これまでに何度か見たときには、顔も見えていない人。
その人差し指を口元に当て、緩く唇をなぞる。
それはまるで、口紅を塗る仕草に似ていた。
――そんな人…人達を、恐らくは私が惨殺する
「……はぁ…」
化粧を知らない彼女の、たった一つのお洒落。
――また…あの夢だ。
そうして、指を軽く口に咥え、「それ」を舐め取りながら周囲を見回す。
――そう、いつもここで目が覚めて……
「今日は…ちゃんと見ましょうか」
その言葉と同時に…芹を見る芹は。
見た。
いくつも転がる、それらの姿を。
見た。
恩師、友人、恩人、親、公園で話した小さな子、近所の気のいいおばあさん、結社の仲間、以前いた寮の
見てはいけない。
そう思った、その直後。
聞きなれた声が、いくつも、いくつも、心と耳に響いた。
「人殺し」
そして
「さよなら」
2008年 12月某日 夜 鎌倉の喫茶店
「仮初の夢…か」
鎌倉市内の小さな喫茶店で、大川はいつものように煙草をふかしながらそう呟いた。
向かいの席には、銀誓館学園高等部の制服を着込んだ、芹と同じくらいの体格の少女が座り、はい、と頷く。
肩のあたりで切りそろえた黒髪が微かに揺れ、少女はコーヒーを一口飲むと口を開く。
「…少し前から、芹の様子が不安定になりだしていまして…恐らくは、過激派の人間の仕業かと思います」
そう言いながら、微かに目を細める。…まるで、「過激派」に刃を向けるかのように。
「そうか……まあ、やるとしたらヤツらしかいないだろうね。自分らを追い詰めた本家の娘という大義名分もあって、反対意見は押しつぶせるわけだし……まあ、なんだ…ナズナ、ちょっと落ち着きな」
言いつつ、大川はナズナと呼ばれた少女の肩に手を伸ばす。
「ええ、分かっています。……今だって、冷静にするよう努めているのです」
大川の手を軽く制し、ナズナは小さくため息を吐く。
胸の中には、許すまじという感情と、事が事ならば連中を手にかける覚悟さえ抱きつつ。
「…いや、あンたがそんな話し方をするってのは、なンか考えている証拠さ。それに…」
そこで大川は煙草を咥え……口を離し、煙を吐き出す。
「アタシの目は誤魔化せないよ」
ユルくそう言うと、いつものようににかっと笑ったのだった。
幾秒かの沈黙の後、ナズナが堪忍したかのように深く息を吐き、口を開いた。
「はぁぁ……やっぱり、大川さんはボクの考えはお見通しですね」
ナズナは苦笑いしつつそう言うと、コーヒーに口をつける。
その様を、大川はにやにや笑いながら眺めていた。
「当然さ。アタシは、アタシが面倒見た相手の事は大体なんでも分かるつもりだよ。…こうして目の前にいないと、さすがにどうにもできないンだけどねぇ…」
最初は得意げだったものの、徐々に語勢が弱まっていく。
―やっぱり、無茶してでも芹の近くにいるべきだったか。
そんな思いを巡らせるも、結局はそれもよくなかったのだと結論付けた。
それに。
「……ま、いい機会だね。連中、最近は無関係の人間引っ張り込んでロクでもない事してるっつうし…連れ出された子達も何されてるか分かんなかったしね」
「過激派」の事を考えつつ、大川は呟く。
そう、今は確かに危機的状況だが…同時に、これまで尻尾を掴めなかった連中を叩き潰すにはもってこいなのだ。
――もっとも、裏を取れれば、だが。
「そうですね、今まではうまい具合に逃げられていましたから。…けど、芹にあんな事をしたのが命取りといった所ですね。…尻尾を出したという面でも、ボクがそれを知ったという意味でも」
そう言いながらナズナは、軽く目を細める。
そう、ある意味ではこの時の為に…芹が大川と離れてから今まで、芹を監視していたのだから。…監視というより、妹が心配な姉の気分だったが。
「そうだね…思えば、本家にいた頃からあンたはあの子につきっきりだった訳だし、連中も喧嘩を売った相手が悪かったいね」
にかっと笑いながら、大川は煙草を灰皿に突き立てる。…喫茶店のお洒落で小さな灰皿は、もうそろそろ勘弁して欲しいといった様相を呈していたが。
「全くです。…もっとも、巫名相手に喧嘩を売って無事な団体なんて、そうはいないと思いますけどね」
ナズナも軽く笑いながら、冗談めかすように言ってみせる。
しかしその目は力強い光を宿し、手には幾枚かの書類を取っていた。
「さて…ここ数週の、例の屋敷周辺の術力場を調査した結果です」
そう言いながら差し出された書類には、周辺の八百屋の安売り情報が書き連ねられていた。
――勿論擬装である。もし万一盗み見られることがあったとしても、敵(あるいは無関係な誰か)が得る情報は八百屋の安売り情報なのだ。
さらに、喫茶店で堂々とそんな話しをする彼女らは隅の席で、存在感を希薄にする術が施された札を起動して鞄にしまってある。
これにより、たとえ術士や能力者の類にすらその存在を気取られず、話の内容は頭に残らなくなり、世間話のように暗殺計画を立てることすら出来る。
そして店から退出する際には、鞄の中で札を破り、何食わぬ顔で出て行けば良い。
巫名・芹が下界に出る際に本家で考案された、画期的な情報交換の手段である。
差し出された書類を受け取り、大川は視線をその表面に滑らせる。
「………なぁるほどねぇ…連中、随分なヘマをやらかしたみたいだねぇ」
読み取れた情報は、巫名にいくつかある禁呪の一つ――夢に術者のイメージを重ね合わせ、まるでまさにその夢を見ているような錯覚を与えて衰弱、発狂させる想軌術――を過激派が使用している事、それを隠匿する術も施されていること、そして、その隠匿術が何かに「切り裂かれて」力の大半を失い、禁呪の行使が判明した事…つまり、尻尾を掴む手がかりどころか、ほぼ間違いない証拠を手にしたという内容だった。
「…はい。正直ボクとしても不思議です。もし隠匿術が機能していたら手遅れになっていたでしょうし…見破れるとも限らなかったので」
自分でも不思議なのだ。と、ナズナはそう言いたげな表情で言葉をつないだ。
「ボク以外には、芹には誰もついていないはずですし…いくら愚かとはいえ、過激派の連中がそんな些細な失敗を犯すとも考え難いですが…」
ナズナは皆目見当もつかない様子で考え込みはじめる。
が、大川は既に、その答えに至っているようだった。
「いや…多分、アレだ」
新たな煙草に口をつけつつ、ライターをカチカチやりながら大川は呟いた。
「アレ…って、何です?」
ナズナは勤めて静かに。
だが気になって仕方ないという様子で、大川に顔を向けた。
その視線を受けつつ、大川はふっと煙を吐き出し、ナズナと視線を合わせて言う。
「ほら、あの子ンとこに何本か武器が送られてるだろ?多分それさ」
ナズナはその言葉を受け、考えを巡らせる。
今使われているのは”蒼冷旋律”…確かに強力な武器だが、そこまでの力は無かったはずである。
他にあるとすれば――
「……巫月蒼露ですか…しかし、あれは…」
その名は、ナズナも知っていた。
だが同時に、意外な答えでもあった。
巫月蒼露。
詠唱兵器となる前は強力にして凶悪な術力を持ち、詠唱兵器として運用される際にその力の大部分を削ぎ落とされた霊刀。
だが、いかに力ある魔術武器とはいえ、今の巫月蒼露にそこまでの事が為せるとは思えない。
確かに、力ある物はただあるだけでもそこにある結界や怪異を払うことはあるが…
「……実際のところ、成長すれば扱えるようにはなっていたみたいだよ」
大川は少し呆れたように言いながら、煙草の灰を落とす。
「…つまり、封じられてはいても、以前の巫月蒼露としての力は残っていた、と…?」
信じられない、といった様子でナズナが大川の顔を見ながら訊ねる。
…もし何かあったらどうするつもりだったのか、と。
「そうだろうね……って、そう焦るなって。…理由はともかく、そのお陰で芹を救えるンだ。こっちとしては万々歳だよ。……違うかい?」
諭すように、しかし最後にはにかっと笑って、大川はナズナに問い返した。
「もっとも…今回の件で半ば無理やり力が発揮されたんだ。…恐らく、巫月蒼露は二度とそんな事を起こせないだろうね」
言い切り、大川は煙草を咥えた。
ナズナは暫く何事か考えた後…口を開く。
「………そうですね。確かに、その通りです。…最初にして、恐らく最後のチャンス…これを逃せば機を逸してしまうという事を考えれば、理由を考えている時間は無いですね」
そう言うと、ナズナは目を閉じ、軽く深呼吸をする。
…再び目を開いたとき、もう迷いは無かった。
「ともかく、源呪を調査して連中の本拠を割り出してみます。…この資料があれば、本家も協力してくれそうですし」
これを逃せば後は無く、そして……巫名・芹という人物は恐らく失われる。
命ではない。廃人か、殺戮者か、常軌を逸した精神状態と、それから来る素質をも含めた魔力の暴走。
いずれにしろ、手にかけなければならなくなる。…それだけはなんとしても防ぎたかった。
「あぁ、頼んだよ。…何、本家が何もしないなら、アタシと睦月で殴りこんででも協力させるさ」
冗談めかしてはいたが、大川の目は本気だった。マジ。ことによっては過激派より面倒かもしれない程の。
「…ボクから頼んでおきますね。接敵前に疲弊しては意味が無いですし」
苦笑しつつ、ナズナは書類を仕舞い込んでいく。
「ああ、なるべく早めにね。…個人的な事を言えば、殴りたい相手も居るンだけど、さ」
そんな不穏な事を言いつつ、大川は灰皿に煙草を突き刺し、席を立つ。
その際に、鞄の中に手を突っ込み、中の札に親指で穴を開け引き裂く。
これで、彼女らは何の変哲も無い客に戻るのだ。
「…それでは、ボクはこれで。…急ぐので、お代はここに置いておきますね」
ナズナはそう言いながら、財布から百円玉数枚を取り出し、伝票の上に乗せて席を立つ。
「あいよ。……最近物騒だから、気をつけてね」
大川のその言葉に、ナズナは唯手を軽く振って答え…店から出て行った。
その背中を見送り、大川はぽつりと呟く。
「さて…命知らずの阿呆どもにお灸をすえる準備でもしておくかね」
それを聞いたものは誰も居ない。
それは、大川なりの決意。
――許すわけにはいかない。と
そんな思いを胸に、大川は会計を済ませようとして、気づく。
「……二つは五十円玉じゃんか…」
微妙に肩を落としつつ支払いを済ませ、大川もまた、店を出た。
…その足は、巫名の本家へ向かい、力強く、しかしどこか気だるそうに。
「久しぶりだねぇ、あそこに行くのも…」
ぽつりと呟き、鎌倉駅へと向かっていった。
――目覚め。
―目が覚めた。
朝が、来た。
「…………」
芹は布団から身を起こし、暫くぼんやりとしていた。
夢を見たのは覚えている。
しかしその内容はというと………霞がかったようになり、思い出せない。
――確か、そう。
「……っ!」
咄嗟に思い出してはいけない、と感じ、思考を中断する。
気づけば、冬も只中だというのに寝汗で身体がじっとりと濡れていた。
「…嫌な、夢ですね…」
そう呟く芹はどこか、生気が幾分失われているような感覚すら覚えていた。
まるで夢の中で何かを奪われたかのような感覚。
ナイトメアに憑かれるとこんな感じなのかな、と思いつつ、芹は今日一日の支度を始める。
「冬休みとはいえ…勉強も鍛錬も、怠ってはいけませんから、ね」
――そういえば、テストはあまり点数が芳しくなかったな。
そんな事を思う芹は、まだ気づいていなかった。
巫月蒼露が常に発していた微かな光。
それが、失われている事に。
まだ、気づいていなかった。
夢が…迫っていることに。
「深紅の夢。夢と現の殺戮者。」―――終。
はい、どうもこんばんは。
更新滞りまくっております…背後です…!(滝汗
今回はかなりスプラッタな表現が冒頭に出てきています。
倒れている人々は……えぇと、気分を害されたならご一報下さい(汗
ただ、その夢の元凶がどれだけ嫌なヤツなのかを表現する…あ!あ!物投げないで下さい!ごめんなさい!二度といたしません!(土下座)
ま、まぁ引きからして当然ながら、このお話しは続編物です。
ペースはまちまちでも、必ず完結させますので、乞うご期待……あ、いえ、乞いません。期待しないで下さい…!(土下座)
さて、今回はこの辺りで失礼します。
それでは皆様、御機嫌よう。
というか、冒頭のアレで見限られたら本当にどうしようorz(ならやるな)
冗談抜きで、不快に思った方は連絡下さい。明言してなくても、嫌なものは嫌でしょうし…
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